18. 葡萄会じゃなかったの!?
よくわからない昼下がり。カボチャを収穫しようとしたら、中からネズミの家族が出てきて見る見るうちに大きくなっていつの間にか馬車に。
「『ちょっと! 食べられなくなっちゃうでしょ!』」
「なんだ急に」
「ハッ!」
あら、夢見てたわ。
目が覚めて、馬車の車輪がカラカラと回る音と心地の良い揺れを感じる。目の前には少々驚いた顔で私をじっと見るケネス様。
どうやら寝てしまっていたようですねぇ。今どこら辺かしら。
「……もう着く」
「あらまあそんなに」
涎垂らしてないかしら。お化粧が崩れたら困るわ。
なんて思いつつも窓を開ければ、まあ賑やか。さすが王都だわ。もう何年振りかしらねぇ。いや、学園にいた頃は毎日いたじゃないの。ただ街に降りていなかっただけで。
「田舎者丸出しだな」
「そりゃ田舎者ですもの」
そんなことを話していると、いつのまにか王城に着きまして。
「ケネス・ウォード伯爵令息並びにエミリー・カーレス男爵令嬢のおなりです」
人が多いわ。皆様そんなに葡萄が気になるのかしら。葡萄といえば、あの人めんどくさがり屋だから巨峰は剥いて出さないと食べなかったのよねぇ。
「……一曲目が始まったな」
「一曲目ってなんのことでs」
手を差し出されたので思わず取れば、踊り始めまして。まだ言い終わってませんよ。それより肝心の葡萄はどこです?
「おい、考え事をするな。危ないだろう」
「だって、葡萄が」
「……葡萄? なんのことだ?」
周りは踊っている貴族の方々。大広間の端にある長いテーブルにあるのはビュッフェ。
……まさか。
「葡萄会じゃなかったの!?」
「は?」
「これはもしや舞踏会とやらでは?」
「舞踏会じゃなかったらなんなんだ」
あらあらまあまあ。あのお母様のお古を手直ししたドレスで来なくてよかったわ。浮いてしまうところだったじゃない。
舞踏会なんて卒業パーティー以来ね。まあ、ファーストダンスを踊る相手すらいないまま、さっさと帰ったのだけど。実家に帰って畑の様子が見たくて。
「エスコートがお上手ですこと」
「俺は伯爵家の嫡男なんだが」
「私なんて今にもケネス様の足を踏んでしまいそうで」
集中しないと大惨事になってしまうわ。会場内にケネス様の悲鳴が響きでもしたら……。
「そんなに心配なら、俺の靴に足を乗せればいい」
「あら、凄く楽ちん。しかも楽しいわ」
「……そうか」
それにしても、なんだかガッチリされているような。前までプニプニのお肉だったというのに。これで長ーい前髪を切ってボサボサ頭を整えれば相当見目がよくなるのでは?
「やっと終わったわぁ」
「俺は取引先に挨拶しにいく。その前に何か食べるか?」
「ええ、寝ていたからかお腹空いていたんですよ」
さてさて、お肉に……お肉に……お肉に……スイーツ? お野菜はどこへ?
まったくそんなだから太るんですよ、と葡萄のタルトを一口。
あら、腕がいいわぁ。ジュワッと広がる果汁にカスタードクリームとタルト生地が絶妙ね。この葡萄、どこ産かしら。
「おお! ウォード伯爵令息」
「……っ!」
「どうぞいってらっしゃいませ。私はここから動きませんからご安心を」
「……すぐ戻る」
なんだか偉そうな方に遠くから呼ばれたケネス様。侯爵様とかかしら。この人混みの中、偉そうな方々に囲まれたところに私を連れて行くのは少々ねぇ……。
ともう一つタルトを口に放り込んだ時でした。
「ねえ、ちょっと、そこの貴女!」
と呼ばれ振り向くと、そこにはドリルのような金糸を手で払いながらヒールを鳴らす華盛りの娘さんが。まー、唐辛子みたいに綺麗な赤い目ねぇ。なんのご用かしら。
「単刀直入に言いますわ! 殿下に近寄らないでくださいまし!」
…………はい?




