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17. クワ振ってる時に言われても聞こえませんよ



「……がある」

「なんですって?」

「だから! 話が……」

「聞こえませんよ!」


 今日は畑の手入れで大忙し。のどかな昼下がりに土を掘り起こす音が響きまして。

 朝から苗を引き抜いて、野菜くずを拾って、今はクワで土を起こし。

 ケネス様ったらただでさえ声が小さいのにそんな遠くから言われては聞こえませんよ。


「ぶ……う会に行くことになった!」

「よくわかりませんけどいってらっしゃいませ!」

「一緒……行……だ!」

「私も行くんですか?」


 ぶ……う会ってなんですか全く。ぶ、う……葡萄? 葡萄の品評会かワインの試飲会かなにかですかね。私も行くってことは葡萄の品評会かしら。


「婚……者だろ!」

「あーはいはい」


 あとはレーキで平らにして。これでよし。


「急で悪いんだが、明日の午後迎えにくる」

「どこが会場で?」

「……王城だ」


 はー、王城ということは王都ですか。随分と遠いことで。移動だけでニ、三時間はかかるんじゃないかしら。

 この間出た糠を撒いて、堆肥を混ぜ込んで。


「おしまい!」

「……やっと終わったか」

「ええ……ってあら?」


 凄く怒っているわね。何をそんなに怒って……。


「人の話を聞くときくらい手を止めたらどうなんだ」

「あら、ごめんなさい」


 そんなに大切なお話だと思わなかったわ。この後もう二つ畑を手入れしなくちゃならないのもあって早く終わらせたかったのよ。


「……ドレスは持っているのか?」

「私も一応貴族ですよ?」

「普通の貴族は農作業なんてしない」


 ……ごもっともだわ。いまだに何故お父様が畑を作りを許してくださったのか謎ですもの。

 そんな品評会ごときで華美なドレスが必要だとは思いませんし、クローゼットに入っているよそ行きの紫色のドレスでいいですかね。


「……なければこちらで用意を」

「そんな一度きりのために買うなんて勿体ないですよ。ちゃんと一着くらい持ってます」

「……一着」


 あとはまあお姉様や妹から借りればいいかしら。ああでもあの二人もろくに持ってないわ。カーレス家はなんというか、揃いも揃ってお気楽能天気で物欲がないのよねぇ。流行なんて知った頃には終わってますし。


「……用事ができた。とにかく明日迎えにくる」

「はいはい、お気をつけて帰ってくださいね」

「……ああ」


         *


 そんな会話から早一日。迎えにきたケネス様が持っているのは田舎者でも知っているような有名な仕立て屋の箱。十中八九ドレス。


「……これ」

「これってなんですか」

「……見ればわかるだろう」


 とぶすくれた顔をされましても。いや、どうして買ってきたのかと聞いてるんですよ。

 とりあえず受け取って中を見ればどう見ても高価そうな瑠璃色のドレスが。つまり、これを着ていけと?


「何もお返しできませんよ? せいぜい漬物くらいしか……」

「不要だ。別で、そのつけものとやらは欲しい」


 メイドに促されるまま部屋に戻って着替えてみると大きさもピッタリでした。色々と聞きたいことはありますが、まあ細かいことは後にしましょう。


「まさかエミリーが王城の舞踏会に……」

「王太子殿下に呼ばれてしまい……しっかりと商品の宣伝もさせて頂きますので」

「いやいや、そんなことより……ああエミリー、着替え終わ……」


 まず最初に私の方を見たお父様が高そうなドレスに言葉を失い、次にケネス様は……真顔のまま。

 ちょっと! 贈った当人くらい反応してくださいな!


「綺…………ま、馬子にも衣装だな」

「口を開いたと思ったらそれですか。といいますか誰が馬子ですって?」


 他のお嬢さん方にもこんなこと言ってないでしょうね、この人は。普通女性が着飾っていたら世辞でも褒めるべきなんですよ。


「月並みな世辞を並べてもしょうがないだろう」

「並べすらしないからこんなに怒ってるんですよ!」

「……口喧嘩はいいからもう行きなさい。遅刻したらどうするんだいエミリー」


 とお父様に圧をかけられ豪華な馬車に乗らされ。

 はー、さすがは伯爵家。何もかも豪華だわぁ。乗り心地もいいですし。

 なんだか……。


「……俺の側を離れないように。あまり社交界の経験がないと聞いた」

「ふぁい」

「おい、寝るな」


 眠いわ……。


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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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