14. お連れ様は〇〇〇様
「ああ、やっといらっしゃいまし……どなたですそのお連れ様は」
「やあ、お邪魔するよ」
「…………はぁ」
今日も今日とてケネス様を呼び出して、野菜の収穫をばという予定だったのですが……。
ケネス様の後ろからひょっこり出てきたのは、麹みたいな薄い金髪と空色の目をした若者。高校生くらいかしら。元気盛りだわ。
軽く挨拶をしたお連れ様と反対に深いため息をついたケネス様。
「……お願いだからもう帰ってくれ」
「それはできないな。こんなに面白そうなのだから」
「…………」
こんなに嫌そうな顔のケネス様、最初の野菜押し付けた時以来だわ。
なんて、じーっと見ていたらお連れ様と目が合いまして。
「どなたかは存じ上げませんが、今粗茶でもご用意しますね」
「ああ、頼むよ。……ん?」
「……この方は王太子殿下だ。あと粗茶はいらない」
あーはいはい、王太子殿下……王太子殿下ですって? ああ、そういえばホワイトブロンドでアクアマリンの瞳持つ美男子とかなんとか聞いたことがあったようななかったような。カタカナが全然わからないから想像もつかなかったわ。新聞だと白黒ですし。はーーー、これが王太子殿下ですか。
……それがどうしてこんな男爵家に?
「おい、扱いが酷いぞ」
「……呼ばれていないのだから当たり前だろう」
「私は王太子だぞ?」
爽やかなハンサムだって噂でしたけど、実際は随分と違いますのねぇ。というかケネス様、王太子殿下に対してそれは不敬なのでは??
王太子殿下ということは勤めている会社の社長息子のようなものでしょう?? クビになりませんよね??
「ああ、ケネスと会ったのは学園の初等部の時でね、それ以来の付き合いなんだ。だから、その心配はいらないよ」
私が心配しているのに気づいた殿下がそう教えてくださいまして。
はぁ、随分と長い付き合いですのねぇ。
「……急に中等部の教室に入ってきて問題を解き始めたと思ったら俺を指差して『怪物だ!』と叫んだ時以来の、な」
「まだ怒っているのか、それ」
それはまた、よく噂になりませんでしたね。いや、揉み消されて『怪物』だけが残ったから今こんなことに。
「初等部の教育が幼稚すぎて暇だったんだ。それで問題を解いていたら急に身長二メートルの巨体が近づいてきたのだぞ。驚くに決まっている」
「……今も昔も二メートルはない。せいぜい百八十九くらいだ」
「どちらでもいい。巨体なのに変わりはない。その巨体がここまで痩せてがっしりしてきたんだ。気になるに決まっているだろう?」
ええと、つまり? 昔から巨体だったケネス様の体型が急に変わってきた原因を知るべくついてきたと。
「君に婚約者なんてできるはずもないと思っていたのだがな〜」
「……帰ってくれ」
「これは是非会わなくてどうする。まさか私のことも知らない男爵令嬢で、こんな農婦みたいな格好の女性が趣味とは思わなかったが」
そんなことでわざわざこんな辺鄙な男爵領まで。なんだか変わった方というか捻くれ者というか。
まあ、ケネス様と個人的な付き合いがある以上いい人なのでしょうけども。
「それで、どうやってこの怪物をここまで人にしたんだ?」
ずいと肩を掴まれまして。
急に目の色を変えたわね。前言撤回、いい人ではなく危ない人だわ。若いというか勢いがあるというか。
なんてのんびり思っていたら今度は小声で囁かれました。いやだわこそばゆい。
「これでも彼は優秀でね。学園は主席で卒業しているし、商才もある。国のためにも、害をなされたら困るんだ」
ケネス様って凄かったのねぇ。初耳だわ。
「あの堅物が仕事を急ぎ片付けてまで君との予定を優先している。何もないとは言わせない」
あら、そうだったの。言ってくれれば別日にだって、なんなら野菜を届けるだけだってできましたのに。
「……おい」
そんなお話を聞いていると、ケネス様が見たこともないような怖い顔で殿下を引き剥がすように遠ざけました。
安心してくださいな、聞かれたくない過去の失態などを聞いていたわけじゃありませんよ。
「帰ってくれ」
「ほぉ、その顔を見るに君にも春がきたというところだろうか」
「……煩い」
今は秋ですけども?
ってあらまあ、気づいたらもうこんな時間。裏山にいられる時間が短くなってしまうわ。
「ケネス様、先に山へ行ってますからお話が終わったらきてくださいな」
「……は? 山?」
「今日はキノコ狩りですからね」




