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11. 稲刈りもバッチグーですねぇ


「お邪魔しております」

「いやいや、こんな早朝から呼び出すような娘で申し訳ない」


 あの、本当になぜここに? 私はまだ何もやらかしていないはずですよ。あれかしら、昨日泥だらけの長靴を玄関に置いていたことかしら。いや、ちゃんと自分で掃除しましたよ?


「立ち話もなんだ、応接間に……」

「すみません、この後は予定がありますので長居は」

「ああ、なるほど。まあそれほど大切なことでもないしここでいいか」


 あら忙しい中わざわざ来てくださっていたのね。断ってくれてもよかったですのに。

 といいますかお父様、それほど大切なことでもないってなんですか? それなのにわざわざ畑まで?


「エミリー、お前は今自分がどんな状態かわかっているかい?」


 金色の目でじっと見つめられて、なんだかたじろいでしまいます。目線を逸らしまして……相変わらず立派な顎ひげですこと。


「エミリー」


 ええと……学園はもうとっくに卒業しましたし、ケネス様とのお見合い以来縁談関連の話はなぜか止まってますし、あら私穀潰しというやつでは?

 毎日畑仕事に明け暮れてはいますが。


「親のすねかじりですねぇ」

「私としては早く自立してほしいわけだ」

「はぁ……」


 お父様はくるりとケネス様の方を向きまして。


「ケネス・ウォード伯爵令息。エミリーとの縁談についてそろそろ決定して頂きたい」


 もう十分時間は取ったと思うのでね、と。つまりこれはお試し期間のようなものだったのですか? 私は何も聞いておりませんが。

 チラリと隣を見るとケネス様は思い悩んでいる様子。


「……その、これ、いやこの方、この令嬢?」

「ああ、そういえば一度も呼ばれたことありませんでしたね」


 今まで、「おい」やら「なあ」などで済んでいたのでなんと呼べばいいのかわからないケネス様。しどろもどろになってるわ。いつもあんなに憎たらしいくせに。


「エ、エミリー嬢次第ではないだろうか」

「はい?」

 

 いや、そこで私に判断を委ねるんですか。いけませんよ、婚約者、ひいては未来の妻くらい自分で決めませんと。


「こちらとしてはどちらでも構わない」

「それは縁談の話を進めてもいいということですかな?」

「そう捉えてもらっていいが……エミリー嬢の気持ち次第だ」


 と二人してじっと私を見つめてきまして。

 ええ……そんな見ないでください。いや、畑仕事さえさせてくれれば私は別に誰でも構いませんが。ついでに、穀潰しから嫁入り前の娘になれるならそちらの方がいいに決まっていますけども。

 まだ心の準備というものが。恵美子はおばあちゃんでもエミリーは年若い娘っ子なんですよ。


「……はぁ。ウォード令息、不束な娘ですがよろしくお願いします」

「お父様!?」


 緊迫した空気を崩したのはお父様で。

 ……私まだ何も言っていませんよ!?

 ああ、調子が狂うわ。なんだか懐かしいけれど。昔あの人との縁談でも同じようなことがあった気がするからかしら。


「よ、よろしくお願いします」

「……あ、ああ。よろしく」


 というわけで、晴れて婚約状態になったわけなのですが。本当にこれで良かったのでしょうか。


         *



「……それで、婚約者になっても呼び出されるってどういうことなんだ」

「あら、婚約者だからですよ」


 そんなこともありましたが、結局何も変わらず。今日は稲刈り要員としてケネス様を呼んだのでした。


「……イネか。この国では珍しいな」

「あらご存知で?」

「ウォード家は商売を生業としているんだ。……交易品として入ってきたものは大抵わかる」


 ああ、だから自国の野菜は知らなかったのね。野菜は腐ってしまうから交易品はもちろん、遠くに売ることはないものね。

 この世界で稲は他国の穀物らしく。数年前偶然見つけた私は何を思ったのか育てることにしました。今となっては流石だわ私。おかげで白米が食べられる。来年はもっと増やしましょう。この人の分のありますし。


「さ、働いてもらいますよ」

「婚約者使いが荒い……」


 せっかく仕事ができる婚約者様なのだから有効活用しなくちゃね。



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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