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この作者は頭がぶっ飛んでいるようで普通に凡人

作者: 灰谷水面

このエッセイと出会っていただきありがとうございます。めちゃくちゃナイスタイミングです。素敵なご縁ですね。


すみません、媚び売ってしまいました。

「傷つけたくない」には2種類ある。相手が大切だから傷つけたくない。自分が相手から嫌われるのが怖いから傷つけたくない。この2つだ。要は相手を守りたいのか、自分を守りたいのか、という違いである。


 どっちが正でどっちが負なのかなんてどうでもいい。別にどっちがどっちであろうと何ということはない。というか、この独り歩きしている持論に優劣をつけようとすること自体ナンセンスである。問題なのは、前者であっても後者であっても私たちは人の心を「傷つける」という一連のプロセスをあまりに恐れすぎているということだ。


 とはいえ「傷つける」ことに対しての罪悪感から逃れたいのは私も同じである。あまり偉そうなことを言える立場ではない。しかし何だかもったいない気がしてならないのだ。


 傷つけ傷つけられることこそが人生の醍醐味なのだから。




 中学3年生の文化祭でのことだ。その日、周りのクラスメイトたちは中学校生活最後の文化祭ということもあってかいつもと違う高揚感と眩しい空気を纏っていた。今思えば私が勝手にバイアスをかけていただけのことなのかもしれないが。


 誤解を恐れずに言うと、当時の私はそんな空気を気色悪く思っていた。なにが楽しいのか一つも理解できない。彼らの無駄な眩しさが鬱陶しい。早く家に帰って自分だけの空間に逃げたい。


 潔さを感じさせるほどひねくれたことを考えていた昼休み、ある女子生徒が私に話しかけて来た。


 「⚪︎⚪︎ちゃんって、子ども好き?」


なぜこのタイミングでそんな質問をするのかと疑問に思ったが、数十メートル先の展示コーナーの近くに2、3歳の子どもがいるのを見て納得した。その女子生徒が言うには別の生徒の年の離れた弟だという。私は反射的に答えた。


「うん、好きだよ。」

「そっか。やっぱり小さい子どもってかわいいよね。」

「そうだね。」



たったそれだけの会話だった。それだけのことだったはずなのに、やけに記憶に残って今でも忘れられない。


 私はあの会話を交わしたときも今も、子どもが苦手だ。それなのに嘘をついた。ありもしない空気を読んで、その子の機嫌を損ねないように何の躊躇いもなく嘘をついた。「子どもが苦手」だなんてマイナスなこと、とても言えなくて。そんなことを言ったら嫌われるんじゃないかと不安で。


 結果的に、守ったはずの自分の心は、罪悪感と後悔のペンチで思い切り捻ったようないびつな形の物体になった。こんなことなら自分を傷つけてでも「子どもは苦手だ」と、本心を伝えておけばよかった。


 言うまでもなく、もうどうにもならない。




もっと自分や他人を傷つけてほしい。傷つけられてほしい。怖がらないでほしい。欲を求め続けてほしい。その先に、「生きている」という実感が湧いてくるから。


 私たちはご機嫌とりを過剰に意識するあまり、コンロの火力が弱すぎていつまでも沸騰しない鍋をただ眺める受動的な生き物になってしまっている。


 そのまま火力を調節しない毎日を送ったとして、自分と他人を傷つけないように過ごしたとして。果たしてその現状はあなたの救いになるだろうか。眼前の壁を打破する起爆剤になるであろうか。


 否。


 誰かしらとの間に生じる摩擦。条件反射で居座ってくる遠慮と自己防衛。その無遠慮に打ち勝て。愛想笑いをへばりつけた安寧の居心地に飽きる瞬間が訪れたら、そこにあるとわかっている泥沼の中に自ら飛び込め。それでいいのだ。こわばった嘘は自分を返り討ちにしてくるから。


 自分の意思とは逆方向に引かれた直線上を進み続ければ、いつかあなたの心も、築き上げた他人との結びつきも腐敗してしまう。だから傷つける。傷つけることで守る。


 今は余計な心配はしなくていい。とにかくタイミングを逃すな。



 なんて愚かで聞こえの悪い願いであろうか。こんなものは独りよがりの暴論だ。嗤ってしまう。嗤われてしまう。両の掌に握りしめている、安寧ゆえの居心地の良さを自ら捨てるのか、と。


 もちろん悪意をもって自分や相手を攻撃しろというのではない。


 ただ、自分と相手との対話の中で何か違和感を覚える瞬間が訪れたら、「傷つけてでも守る」という選択を視野に入れてほしいのだ。


 そんな泥臭さこそが、私たち人間の美しさを簡潔かつ明瞭に表しているとは思わないか。

最初に媚びを売るなんて小賢しいことをした私の文章をここまで読んでもらえるとは思いませんでした。本当にありがとうございます。

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