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悲しい知らせ



 そのまま1週間が過ぎ、最悪の事態が起きたことを私はレイモンドによって知らされた。


 ──史上最大の山火事が発生したのだと。


 同時に複数個所で炎が発生し、そのうちの1つが風上だったため地を這う様にして延焼したらしい。近隣の別荘地にまで燃え広がったせいで負傷者も何人か出ており、3日目にして漸く鎮火の目処が立ったそうだ。そこは予定通りであれば、私が既に水を降らせていたはずの領地だったのだが、その話を聞いても尚、リチャード・ラングストンは己の非を認めなかった。

 

「ヴェロニカ嬢は体調を崩し、我が館で静養していただけだ。死者もいないことだし、水を降らせることが出来なかっただけで特に何か罪を犯したわけでは無いだろう?大丈夫だ、気に病むな」

「ですが!お父様のなさったことで大勢の人々が苦しんでいるのですよ?!」


 レイモンドの言葉に一瞬だけ動揺したものの、まるで自分に言い聞かせるかの如くリチャード・ラングストンは続けた。


「なあ息子よ、私はあの会社を潰すワケにはいかんのだ。お前も知っているだろう?金持ちの奴らが潤沢な資本金で苦労もせずに起業した他社とは違い、我が社は血の汗を流す思いでここまで成長した。微々たる給料で、時にはその支払いも滞っていたにも関わらず、従業員たちは私を信じて忠誠を捧げてくれたのだ」

「そっ、それは分かっていますが、しかし…」


「いや、分かってなどいない!あの苦労知らずの連中は、金にモノを言わせて経営の専門家を招き、高額な給料で従業員を大量に雇い入れ、自身は汗すらかかず悠々と売上を伸ばしたのだぞ?!一方の私は、公爵なんぞにさせられたせいで、社交界での付き合いや領主としての慣れない仕事に貴重な時間を奪われ、大切な会社経営を人任せにするしかなかった。その結果、現在は赤字続きでそれを隠すことに精一杯になっておる。…なあ、レイモンド、私にお前がいる様に従業員たちにも家族がいる。この私がその生活を守らずして、いったい誰が守るのだ?」

「ですが、でも、お父様ッ!」


 それぞれに言い分は有るだろう。だが私は、その言葉を是とするわけにはいかなかった。最早、リチャード・ラングストンは冷静に物事を判断できる状態ではなかったからだ。


 なぜ分からないのか?私を1週間も閉じ込めておけば、父が黙っているはずが無いと。そして、レイモンドが誰の指示を受けて私を探し回っていたのかも、考えればすぐに答えは見つかったはずなのに。


「お前たちが黙っていれば…『ヴェロニカは体調不良で滞在していた』と口裏を合わせてくれるだけで、大勢の人間が救われるのだぞ」

「いいえ、お父様。既にこの件は国王陛下の元へと伝わっております。残念ながら、お父様の企みだということも全て。私は陛下の命を受け、ヴェロニカを探していたのですから」


 きっと父の従者が調査し、報告を上げたのだろう。だとすれば、このまま無傷では終わらない。


「まさか…、そんな…、あああっ、何ということだ…!」



 リチャード・ラングストンの叫びが響き渡り、

 数日後に私とレイモンドの婚約は破棄された。








「リチャードおじ様には会ったの?」

「うん。昨晩一緒に食事をしたけど、意外と元気そうだったよ」


 リチャード・ラングストンへの処遇は、隣国の元王女の伴侶という身分であるが故に甘かった。とにかくガルツィ王国は強国で、フェリシア様の庇護のお陰で我が国が攻め入られていないことを考えると、その功績は甚大だったのだ。


 それでも公爵の爵位は剥奪となり、あれほどまでに心血を注いだ材木会社は解体、従業員たちは同業他社へと移された。すると、この国でのレイモンドの将来を案じたガルツィ王国からの呼びかけが一層激化。反対派による襲撃事件なども起きて、このままでは危ないと判断したフェリシア様は息子を単身で母国に預けることに決めた。


 こうしてレイモンドは、隣国の王族として再出発したのである。


「生まれ育った国に留学するのって変だよね。逆輸入的な?」

「うん、でも、いいんだ。会いたかったからなヴェロニカに」


 真剣なその瞳に思わずドキリとしたが、わざと陽気に笑ってみせた。


「またまた~。知ってるクセに、私にはあの人がいるんだよ」

「ああ、その彼のことなんだがな。言い難いんだけど、もしかしてヴェロニカとは結婚出来ないかもしれない」


 パチクリと瞬きをして私は『なぜ?』と問い返す。するとレイモンドは私の頬を撫でながら申し訳なさそうに答えるのだ。



「あいつ、他の女と婚約したぞ」と。

 

 

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