意外なパートナー
「あれがアデラ王女だったの?」
「ああ」
呆けている私の瞳を、アンドリューは探る様にして覗き込む。
「そっか、そうよね、だってアンドリューはケヴィンよりも先にアデラ王女から婚約を打診されていたんだもの。でも、だけど、森で会ったのがアデラ王女だったとすれば、あの時、私と一緒にいたのはケヴィンでは無かったということ?でも、私がずっと好きだったのはケヴィンで…」
「ごめん、混乱させてしまったよな。この話はもう止そう。そろそろ謁見が始まるから、急ごうか」
意識をどこかに置いたまま取り敢えず頷く私の背を押して、アンドリューは歩を進める。ほどなくして謁見待ちの列へと並んだ。王家主催の舞踏会ともなると、ほんの一瞬の謁見の為に数時間待つことは往々にして有る。私達は早目に到着したお陰か然程待たされずに拝謁を済ませ、ゆっくりと大広間に入った。
今回は、女性側にのみドレスコードとして純白のイブニングドレスに白のオペラ・グローブの着用が義務付けられている。知人がいないか探そうかとも思ったが、どこを見ても白一色のせいで意識を集中出来ず、早々に諦めてアンドリューと2人で窓際を陣取ることにした。
何故なら、余興は室内ではなく屋外で行なわれることが多いと聞いたからだ。ここならばいつでも先頭で出れるし、一番良い場所でジェレミーお兄様の初舞台が拝めるというものだ。宮廷楽団に寄る手慣らしの演奏を聞きながら窓の外に浮かぶ月を眺めていると、アンドリューが『嘘だろ?!』と低い声で唸った。
何が嘘なのかを確かめたくて視線を遠くに投げてみたものの、特に変わったことは無い。だが、どうやら瞬きしているうちにソレはすぐ目の前まで移動していたらしい。思わず見たことを後悔してしまいそうになるソレは、毒々しいほど赤いドレスを纏っていた。
「お久しぶりね、アンドリュー」
「エミリー…どうしてここに?」
謹慎中であるはずのエミリーだが、よく考えてみれば学院内での活動を制限されているだけで、こうして舞踏会に出席することは禁止されていない。いや、それよりも問題は隣りに立っているパートナーではなかろうか。
…どうしてこの人が?
「レイモンド、どういうことなの?」
「ははっ、だよなあ。ヴェロニカはそういう反応をすると思っていたよ」
相変わらず屈託の無い笑顔で元婚約者殿はボリボリと頭を掻いている。しかし、こう見えてこの人は隣国の統治者となるかもしれず、しかもこの宴の主役でもあるのだ。そんな国賓が何故、子爵令嬢を伴って出席することになってしまったのか。
そして王妃が定めたであろうドレスコードを無視したどころか、悪目立ちとしか言えない真っ赤なドレスを着て出席するエミリーを、止める人は皆無だったのか。
色々と質問したかったが、緊張感が邪魔をして口に出せない。見てる、凄く見られている。この大広間にいる人々から私達は注目されまくりだ。ご婦人方は広げた扇から目元だけを覗かせ、殿方は隠そうともせず堂々とこちらを凝視している。
すると私に…というよりも、それを口実にして周囲に聞かせたいという魂胆が丸わかりのレイモンドが経緯を説明し始めた。
「実は、我がガルツィ王国の将軍がこちらの国の宰相と懇意にしているらしくてな。俺がエミリー嬢と些末なことで揉めたとの報告を受けた将軍が、『ハモンド子爵家にはこの先も武器を大量発注するので円滑な関係を保って欲しい』と言ってきたワケだ。それで…まあ、仲直りの意味も含めてこうしてパートナーになって貰ったんだよ」
「なるほど、そういう理由だったのね」
と作り笑いで答えてみたものの、ぎこちない空気は変わらない。挨拶が終われば去って行くだろうと期待していたのに、残念ながらレイモンドとエミリーはこの場で落ち着くことに決めた様だ。




