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勝利の天秤を持っていた少女

私がこの世界に生まれ、私が私という自我を認識した時。

目に写っていたモノは、殺意渦巻く戦場と、左右に揺れ動く"天秤"だった。

その"天秤"は、祈りたくなるような神々しさを纏っていた。


私は、勝者だけをずっと見てきた。

"それ(天秤)"が勝者に傾く度に、敗者がまるで塗り潰されたかの様に目の前から消えていたから。


私の目に写っていたのはいつも、

敵を殺す事への快楽と、勝利への欲望を原動力に戦い続ける狂人。

殺せば殺すほどに英雄と持て囃され、歪み増長する化け物。

そして、戦場に降り注ぐ光と共に絶望と悪夢を呼ぶ様々な魔法を使う者達だった。


彼らが勝利する度に、"それ(天秤)"は勝者に傾き、私の記憶に鮮明に残った。


ある時私は、神父様に"それ(天秤)"の話をした。

神父様はとても驚いていた。

そしてそれは、偉大なる神が作った【勝利を告げる天秤】だと教えてくれた。

神父様の顔は、戦場で見た事のないような欲望に染まっていた。



その後私は、教国で聖女として崇められるようになっていた。

勝利を運ぶ聖女だと。


私は私を崇める奴らが嫌いだった。

何が勝利を運ぶ聖女だ、私はただ勝者のみを見てきただけだ。

私が見える"それ(天秤)"が目的なだけだろうが。

私を見る奴らの欲望はとても醜い。

戦場で見る殺意の篭った欲望の方が純粋だ。


私が13から14に変わろうとした頃に、ある魔法使いがやって来た。

魔法使いは私に不老不死の魔法をかけやがった。

そしてその魔法を教皇達は諸手を挙げて喜んだ。

私は、普通に死にたかった。

死ぬ事が無くなり、私が傷つこうとも気にせず戦場に送り始めた頃から。

明日が来ることが、苦痛でしかなかった。

そして、私は考えるのをやめた。


私は"それ(天秤)"見るだけでよかった。

例えどんな犠牲が出ようとも。

私の身体に刃が突き刺さっても、身を炎で焼かれても。

私はただ"それ(天秤)"を見続けた。

どちらが善でどちらが悪など私には関係なかった。


勝者のみが世界を作る。

勝者のみが私に見える。


教国が敗北し滅んだ後も、私は全ての戦いに出向きその結末を見た。

全ての戦士の生き様を見た。

全ての戦いの勝者を見てきた。

その全ての戦いに勝者が居て、"それ(天秤)"は常に傾き続けた。





何千年が経っただろうか?

私にはもう時間がわからなかった。


私はまた、戦いを見た。

今度は異界からの侵略者と、この星を守ると息巻く勇者達の戦いを見た。

異界の技術なら私は死ねるのではないかと思ったが、死ねなかった。


戦いの間、常に"それ(天秤)"は揺れ動いていた。



時間が経って、私はいつものように"それ(天秤)"を見た。

どちらが勝者なのか知る為に。

しかし、わからなかった。

勝者がどちらなのかが。

いつもどちらかに傾いていた"それ(天秤)"が。

どちらにも傾かずに、静止していた。


何故だ?何故"それ(天秤)"は動いていない?

わからない。

何故?何故勝者を教えてくれない?

わからない。


勝者を知る為に"それ(天秤)"の傾きを見ても、"それ"は傾いていなかった。


勝者は居ない。

全てが敗者。


戦いなき所に勝利なし(私はいない)

勝利なき所に戦いなし(私はいらない)


その考えに至った瞬間に、私の目に写るもの全てが塗り潰されて消え始めた。


やめろ。

やめろ。

やめてくれ。

消さないでくれ。


"それ(天秤)"は、鈍色の光を放って全てを塗り潰した。


私は今まで全ての戦いに勝者が居ると疑わなかった。

勝者は必ず存在すると信じていた。


それは何故か?

私の目には勝者しか写らなかったから。


今目の前で起きているのは何だ?

何故私の目には鈍色しか写らない?



"それ(天秤)"は、私が唯一見える、ただの"ガラクタ"に成り下がった。


何も見えない世界の中で、私は一心に勝者が生まれることを願った。





何万、いや何億年経っただろうか。

私は眠っていたかもしれない。

私は、既に勝者や敗者なんてどうでもよくなっていた。


目を開けると、"それ(天秤)"は錆びてボロボロになり、原型を留めない程に壊れていた。


今まで見えるだけだった"それ(天秤)"に今なら触れられそうな気がして、私が"それ(天秤)"に触れると、鈍色の世界と共に"天秤"は崩れ去った。


そして私は、再び世界を見る事ができた。

私は、山の頂上に立っていた。

眼下には森が広がり、鳥の鳴く声が聞こえる。

集落があり、煙が立っている。

その奥には大きな町があり、人が沢山いそうだった。

私は町に向かい、図書館で歴史を見た。


あの戦いの後、異界の住人と手を取り合い、世界を復興したらしい。

多くの技術は失われたが、人々は一生懸命に生きている。


私も今を生きる人々のように生きてみようと思う。



あの時の私は勝者が居なかった事を許せなかったんだろう。

勝者のみを見てきた私だけの何かが揺らいだような気がしたんだろう。

今の私なら言える。


勝利無くとも我はあり(私は私で)

我が無くとも勝利あり(勝利は勝利だ)


なんだか恥ずかしくなってきたが別にいいだろう。




そして私はこの新しい世界に再び生まれた。

新しい世界にも戦いはあるだろう。

勝者も敗北もいるだろう。

だがそんなことはもうどうでもいい。


どうか、昔の私よ。

勝利に固執しないただ普通の幸せを持った町娘になれる事を諦めないでほしい。

あの時の私ができなかった恋や楽しさを感じれる人間になれる事を諦めないでほしい。

私が今ここにいる事が何よりの証明になるだろう。


さあ、これで昔話は終わりにしようか。

今を生きる私に過去の私は関係ない。


明日が来ることが本当に楽しみだ。

では、おやすみなさい。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

もし面白いと思っていただけましたら感想やいいねなどして頂けたら神様と一緒に喜びます!

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