魔法使いの成長
ボジャックとブロキアの拳のぶつかり合いは互角に終わった。
ボジャックは手の内がなくなり力の無さを痛感し、かつ望みを実質絶たれた。
「二つスキルをかけても打ち勝てない、いやスキルがあったからこそ引き分けなのか」
しかし、そこに一瞬の隙が生まれた。
たった一瞬の心の油断。
相手の技を迎え撃ち威力を封じたと思っていた。
だから無防備になっていた。
しかしボジャックの横腹を無惨に横から来た槍が切る。
「ぐあああ‼」
どばりと血が噴き出した。
「ボジャック!」
致命的な傷に見えたジェイニーは青い顔で叫んだ。
ブロキアはボジャックの決死の攻撃の覚悟を踏みにじる様にあざ笑った。
「はっはっは、俺の拳を砕く為武器まで捨てて挑んだのは褒めてやるが、もう一つの武器の槍が頭から抜けていたな! 間抜けめ!」
ゾゾは状況を把握し血相を変え、急ぎ駆けつけた。
「ボジャックさん傷薬です! は、早く!」
「回復はさせんぞ!」
それを見たブロキアが詰め寄って来たが
ドン!
横に火炎が飛びブロキアの動きを制した。
ジェイニーが発した小型火球が着弾し弾けた。
「こしゃくな」
と苛立つブロキアに対し
「私が相手をするからボジャックをお願い!」
とジェイニーはゾゾに大急ぎで言った。
鬼気迫る表情、勇ましい姿だった。
またジェイニーはブロキアに怪我したボジャックとゾゾを攻撃させない様仁王立ちになって道を塞いだ。
そしてきっと睨み、指を動かしそこから小型火炎球を道を阻むために連射した。
ドン、ドン!
「ぬう?」
苛立つブロキア。
ジェイニーの修行の成果か、一回に連射できる弾数が上がっている。
二、三発と軽快に火炎球を連発する。
だがブロキアはこの程度では慌てなかった。
準備しているかのように、かわしたり槍で防いで来る。
しかし五発、六発と連続発射すると少しだけブロキアは慌てた。
「くっ、そんな物いくら出そうと」
と口では言うものの。
効いていないふりにも見える。
一方、ジェイニーは極めて落ち着いている。
これで勝負を決めるつもりなど毛頭なく、けん制に徹しているのだ。
「ボジャックを逃がす為」
しかしそれがブロキアにとっては「これから何を出すのか」と不気味さがある様に映った。
そしてボジャックの回復を見計らい、遂にジェイニーは詠唱と指の動きを変えた。
「上級火炎!」
一段大きな、多人数相手にも有効な激しい炎が上がった。
また切り替える速度も上がっている。
「くっ!」
この大きな火を見たブロキアの表情が変わった。
何とかかわした様で、火を少し食い皮膚が焦げた。
怒り間を詰めようと近づこうとするブロキアに再度上級火炎が襲い掛かった。
予期していないタイミングでもあった。
「ぬぐぐっ!」
そしてついにブロキアは火炎に包まれた。
しかしこれを槍と手で必死に振り払う。
「サブラアイム兵の武器は今改良され、この槍にも魔法に強いコーティングがされているのよ」
と苦しまぎれにブロキアが言うなり、再度ジェイニーはさらに高度な魔法を放った。
「火流!」
今度は川の流れの様な唸る軌道の上級火炎魔法を放った。
この間傷が少しだけ癒えたボジャックは心配した。
「ジェイニー、あまり上級魔法を連発すると魔法力が尽きてしまうぞ」
しかしジェイニーは安心させる様に落ち着き払って言った。
「大丈夫、修行で大分魔法力のストックを上げ消費魔法力も減らせたわ。それに切らさない様ペースを考えてる」
表情も話し方も出会った頃から一段剥けた、強い魔法使いに成長した彼女の姿があった。




