出来かけた絆と別れ
ビスコの胸から血が大量に噴き出した。
ボジャックは何が何だか分からず呆然としていたが、「まずい!」と言う気持ちと一種の恐怖で剣を放した。
「う、うう……」
ビスコは渾身の力で剣を引き抜いた。
「はあ、はあ」
ボジャックは自失状態だったが、はっと半分自分を取り戻した。
「何故心臓が? コーティングはどうなったんだ」
ビスコは精一杯の笑みを浮かべ言った。
「へへ、アンドレイ様を怒らせてコーティングを解かれちまった」
クラビは言った。
「それは嘘だって顔に書いてある、おっと!」
と話の途中でビスコの所に駆け寄った。
ところが
「えっ?」
「私が病院に連れて行くわ」
何とジェイニーがビスコの肩を背負った。
「……!」
「私が責任を持って病院にまで連れて行くわ」
クラビが言った。
「俺も手伝う!」
「大丈夫。私に任せて」
ジェイニーの姿には変な迫力があり何故か皆話しかけられなかった。
「俺を助けるのか……」
「……」
「……お前いいやつだな……」
「無理にしゃべらないで」
「へへ、もう少しでお前を俺の女に出来たんだが……」
「こんな時に軽口叩かないで、心臓にも負担がかかるわ」
ビスコは精一杯言葉を絞り出し笑みを見せた。
「俺は、いつも軽口ばかり叩いてるけど、たまに真面目にしゃべるんだ」
「……あなた、何故心臓コーティングを解いたの?」
「……対等な立場でお前らと戦いたくなったのさ」
その時声が聞こえた。
「裏切者は生かすな」
「ちょうどいい。あの女も狙い打て」
突如だった。
二人に向け隠れていた弓兵が矢を放った。
「はっ!」
ジェイニーは気づいた。
その瞬間だった。
ビスコがジェイニーをかばう様に背中で二本とも矢を受けた。
「あっ!」
ようやく事態を理解した皆は駆け寄った。
「たまに真面目に話させてもらうぜ。俺はお前らが羨ましかった。真に信頼できる仲間がいて。俺はアンドレイが怖くて従っていただけだ」
「……!」
クラビは言った。
「おっと! 全員かかりで運ぶんだ!」
「もういい……」
「ジェイニー、ボジャックと仲良くな、お前の態度や表情見れば分かるよ」
そして手がぱたりと落ちた。
力が入らなくなった
事件だと大騒ぎになりビスコの死体はいったん回収された。
皆は死体はないが石をおいて簡易の葬式をした。
皆は線香を置いたがジェイニーは無言で一輪の花を置いた。
クラビは言った。
「アンドレイめ、もう許さない」
ボジャックは言った。
「お前のおかげで戦う意味を考える事が出来たんだ。これからも考え持ち続けるよ。そしてすまん」
ジェイニーはボジャックの肩に手を置いた。
クラビは言った。
「あいつ、もしかしたら俺達の仲間に加えられたかも知れない」
ゾゾは言った。
「それは無理っすよ。例え和解できても、アンドレイは裏切者を殺すでしょう」
クラビは柔和な表情で言った。
「うん、例えそうであったとしてもさ」
皆は手を合わせた。
そしてアンドレイは兵に命令した。
「ビスコの体を回収してこい。あいつはまだ生きている。まだ利用価値がある。くっくっく」




