孤児院時代の回想 ボジャックとゾゾの過去
2023年10月16日、ボジャックの外見等について改稿しました。
~一旦場面は回想の中に入る~
三年前、クラビ達の孤児院の簡易会議室で八人程の十四歳の孤児の少年がテーブルを囲んでいる。
勿論、クラビ、ボジャック、ゾゾも席に付いている。
中心付近にサブリーダー的な地位を象徴する様な位置付けでマークレイがいる。
その隣、つまり完全な中央にリーダーのミッシェルがいた。
彼はひょうひょうとしてるような威圧的なような不思議で異様な雰囲気だ。
帽子をかぶっている。
皆彼に気を使っているようだ。
一見すると威張っているようには見えない。
しかし皆の彼に対する態度は「本当は怒ると滅茶苦茶怖い人」に対する気の使い方だった。
ミッシェル本人はリラックスムードだが。
しかしミッシェルは時々牽制の様に鋭い眼光を飛ばす。そして自分の拳を見つめ言った。
「重いパンチや切れのある動きは徹底して忍者時代に学んだんだ」
マークレイはそのパンチを食って威力を知っている様なビクッとした反応をした。
拳の威力を彷彿とさせる言い方をする。
ミッシェルは言った。
「風みたいに早い動きを身に付けていく」
マークレイも堂々としているがどことなく、いやかなり彼に気を使う様にちらりと目をやる。
目が少し怯えている。
ミッシェルは皆が十四歳なのに彼だけ十六才位に見える少し老けた顔立ちだ。
佇まいがまるで留年した哀愁を漂わせた高校生の様で、頬のこけがシワに見える。
しかし顔は精悍できっとした鋭い目付きと凜とした口元、頬から顎のシャープな顔で緊張感を作る。
額が少し広く髪は短いが額をはじめ肌が妙に綺麗でしみやてかりもなく、ある種の清潔感と透明感のある印象を与える。
やけに他の孤児より落ちついている。
上から皆を見る様な視線だ。
背もたれに寄りかかっている。
場の空気を支配している。
ただ者の雰囲気ではない。
隠れて酒を飲んでそうな雰囲気で、今だとメガネやサングラスが似合いそうだ。
今で言うおらおら調だ。
しかしミッシェルのこの怖く精悍な顔は実は仮の顔、忍者の覆面で、童顔なので舐められない様そうした。
今は皆童顔で美形な本当の顔を知っている。
一方、マークレイは整った顔に男らしさを漂わせている。
且つ目が真っ直ぐで思いが眼力に現れている。
しかし明るかった少年が少し心に傷を追い影が出来たそんな感じだ。
ナイーブさと孤独さも感じさせる。
それに少し狂暴さが上乗せされた印象だ。
髪はさらさらでボリュームがある。
そして堂々としている。
彼は孤児だが寂しさを見せない、行動力があるとても頼れるリーダーで皆に優しかった。
クラビと十歳の時「親友の誓い」を交わした。
目立ちたがり屋で役者になりたかった。
しかしある頃から荒れ始め高圧的になり皆が気を使っている。親友の誓いはどうなったのか。
クラビも気にしている。
マークレイが司会で会議は始まった。
「じゃあ、今夜の俺達の窃盗計画について。まず派手にやりすぎると有名になったり大事になってこの付近の警備がきつくなる。迅速に隠密にだ。誰か何か意見は?」
話題と空気が殺伐としている。
マークレイの対角線上に彼と仲の悪そうなベルスと呼ばれる少年がいる。
ベルスは中で最も冷淡な意見を言う。
目が冷酷で意地悪そうだ。
「まず、獲物は老人と女が良いだろう。力が弱く金持ってるやつが」
物騒だな、とクラビは思っていた。
しかもベルスの冷酷さに反感を持った。
これが彼の正義感を刺激した。
一方、ボジャックは賛成反対、半々の様な気持ちだった。
いや本音では反対する気持ちが七、八割を占めていた。
その時マークレイはベルスをきつく諭した。
「お前、誇りって物がないのか。弱いものばかり狙うって卑小だと思わないのか」
しかしベルスは反論した。
「じゃあ逆に屈強な男達を狙うってのか? 時間がかかるわ強いわ、最悪こちらがやられる可能性だってあるぞ」
一歩も引かない。
普段の仲の悪さが出ている。
仕方ない感じでマークレイは答えた。
「わかってる」
一歩妥協した感じだ。
さらに調子付きベルスは自分を正当化した。
「俺達は金や食べ物が無くなれば自殺かゴミ箱をあさるかいじめられぬくか強制収容だぞ」
そしてベルスに同意する少年も言った。
「俺も、強い若い男を狙って窃盗するなんてリスクとデメリットが大きすぎる」
中立的な少年も意見を言った。
様々な意見が飛ぶ。
「確かにまあ卑怯さは落ちるわな」
「駄目だよ絶対的弱者だけ狙うのは。やってて虚しくなるぞ」
「俺もそう思うよ」
とマークレイに同意する少年が言う。
ボジャックは自信無げに言った。
「何て言うか利害と自尊心のバランスじゃないかと思う」
しかしボジャックの意見はどこか中途半端で皆を動かしたり反応がない。
ボジャックは思った。
何? この何て言って良いかわからない雰囲気は。
孤児院での俺の地味で中途半端な役割を表現しているようだ。
いや中途半端と言うより自信がない感じだ。
この頃のボジャックは精悍さも覇気もなかった。
めんどくさがりや、やるきなさげ、無駄な事を喋らない。
顔を見れば分かる。
行動も積極的でなく人任せだ。
存在感の薄い、埋もれた暗い少年だった。
ため息とちっ、ちっ、が多い。
どこか疲れている。
そして役割表に名前が書いてある。
「ボジャック:犯行実行か見張り役」
目をやったボジャックは思った。
何「〇か〇」って、中途半端な存在だと深読みだが言ってるみたいじゃないか。
集団の中でリーダーでも中心人物でもないような。
力も人格も中途半端でマークレイやベルスの様に引き付ける、引っ張る物がない。
ベルスは性格が悪く力で引っ張ってるだけだが。
これは本人も自覚していた。
ボジャックは再度思った。
だから俺はリーダーになれないんだと。
気の強さも体の強さも行動力も中途半端で中庸だと。
ある少年が言った。
「ああ、ボジャック暇だったらお茶もってきて」
ボジャックは思った。
暇だったらって……
なんて便利屋的扱いだ。
どっちでもいいみたいじゃないか。
孤児院の力関係最下位か、くそ。
ああ、いつか対等で気の置けない仲間達と冒険の旅に出たい。
この思いはこの頃生まれていた。
そしてマークレイやベルスに認めたくない僻みが生まれていた。
しかし悪い事をして皆を従わせる行為に反感を持っていた。
逆らえない自分にも。
だからだ、だから剣をやろうとしたんだ。
中途半端でなく強くなりたいと。
クラビよりましだけど。
と内心思っていた。
この頃は実はボジャックはクラビを少し見下していた。
皆と違い気が弱くてはっきりしなくて平和主義者で、と見ていた。
そんな中マークレイ派の少年が言う。
「弱者ばかり狙うほど腐ったら終わりだぞ」
ミッシェルが言う。
「じゃあこうしよう。獲物に優先順位を付ける」
「え?」
「①屈強な男のグループ、②屈強な少数の男、③中年の男、④少年、⑤老人、⑥女、の順でターゲットにするんだ」
「優先順位かあ」
「それで良いかな?」
「は、はい!」
孤児院は人間界の学校と同様、能力、強さ、気の強さ、カリスマ性、外見などで力関係が決まる。
しかしどうもクラビのいた孤児院はそれに加え「生まれの暗さ」「どれだけ苦労をしたか」等が密接に力関係に加わっていた。
職員は言っていた。
「どうも子供達には苦労をした数により関係が決まるようなルールがあるらしい。例えばボジャックは親がいた時期があるが行方不明になったわけだ。しかし生まれつき親がいない子の方が偉いと思われ、親に捨てられた等の事情がある子は『お前はまだ親に愛されてる、俺の方が不幸だ、たくましいんだ』、等と植え付けられる節がある」
そしてその夜の窃盗作戦に移る。
マークレイは外で屈強な若者に襲い掛かりカバンを取ろうとする。
当然相手は反撃してくる。
大概、こういうタイプは悲鳴を上げたり助けを呼んだりしない事が多い。
お互いにもみ合いになった。
しかしマークレイはパンチで相手を吹っ飛ばし逃げた。
そして追って来た若者にリーダーであるミッシェルが立ちふさがり凄まじい威圧と手の波動だけで吹き飛ばした。
「ひええ、リーダー桁違い」
そしてゾゾは当身で別の男を気絶させた。
「今日の稼ぎこんだけか」
孤児院にはいじめのような物はないのだが「力関係」や「格差」は見えない様にある。
ミッシェル、マークレイ、ベルスがリーダー格である。
何となく腕力と気の強さ順に下が続く。
マークレイは基本いじめをせず皆を守る役だが親分顔をする事もある。
少し仲の悪いベルスは相手を言いなりにする事がある。
クラビはいじめられていないが、剣の腕も腕っぷしも弱く、「評価外」の様な扱いで見張り役等をやらされていた。
ボジャックは少し違いそこそこ気も力も強い。
しかしナンバーワンではない。
その為メンバーの主でもなければ言う事を聞かされたり中途半端なポジションに居た。
彼はその中途半端ぶりが嫌だった。
言いたい事を言えない様なのがクラビのおかれた場所よりある意味不満だった。
ボジャックは思った。
悪い事をしてるのは百も承知だった。
生きるために他人を狙うなんて理由にならない事は分かっていた。
ゴミ箱の残飯あさりがいやだから。
孤児院の職員が異動で人が変わり冷たくなって嫌になって来た。
飢えと欠乏で自分の正気が失せて行き倫理観を無くした。
親がいれば怒ってくれたろう。
でも俺は分かってたんだ悪い事だって。
金がないから人から盗んだりひったくるなんて。
自分が怯えて言い返せないのを「生きる為」なんて言い訳してた。
ボジャックはいつも孤児で辛いという気持ちを表に出さない様努めて明るく振舞い皆を励まそうとした。
しかし
「皆、明るく前向きに頑張ろうぜ!」
等と言っても皆シーンとしていて目が死んでいる子も多かった。
反応からボジャックは悩んだ。
何で俺は出来るだけ明るくしようと思ってるのに反感みたいな反応をされてるんだ。
俺だって辛い。
しかし努めて明るくしようと思ってるのに。
「あいつは親に愛されてるからな。生まれつきの孤児と違って」
少し口の悪いベルス派の少年が言った事が聞こえ傷ついた。
俺は六歳の時親がいなくなったそこそこ裕福な商人の出だ。
何で生まれが少し良かっただけで嫌われたり力関係が出来るんだ。
「やめろよ」
「そうだね、止めた方が良い」
とマークレイとミッシェルが言うと「うっ」と皆黙った。
マークレイは皆にカリスマ的人気がある。
それは性格と生まれつきの苦労からだ。
腕っぷしと気の強さも。
ボジャックは矛盾した思いを抱えた。
俺もリーダーになりたくないようでなりたいのかな、矛盾してるけど。
と苦悩した。
「やだな、孤児社会って」
クラビは言った。
「窃盗止めよう」
「い?」
ボジャックはぎょっとし、皆しーんとした。
しかしボジャックは思った。
俺も思ってたけど言えない事なんであいつは言えんだよ。
殴られるぞ下手したら。
しかしクラビは怯えながら続ける。
「止めよう」
その姿にボジャックは感嘆した。
俺は中途半端だ。クラビは最初から一貫して反対の姿勢だった。
俺も半分は反対だったけど、そうしなきゃ生きて行けないって言い訳してしかも皆に反対するのも怖かった。
自分の良心から逃げてたんだ。
そして彼の心に「断る決意」が芽生えた。
それはそれまでになくクラビに感化され後を押された。
ボジャックは怯え言った。
「み、皆、窃盗何て良くない、ぜ」
さっきと同じ位にしーんとした。
ベルスは睨んだ。
「仲間を抜ける気か。それとも俺達全員にやめろと?」
「そうしてもかまわない」
ベルス派の少年たちはボジャックをにらんだ。
「喪失は大きな傷になるんだ。親を失い物を失いそうして俺らは生きてるんだ。親がなくなったやつはまだいい。親が平然と捨てる事もあるんだ。俺達は不幸なんだ。だからこうでもしなきゃ生きてかれねえんだよ」
「よせよベルス、あまり強要すんな。平等な仲間じゃないみてえになっちまう」
マークレイがボジャックをかばうとベルスはにらんだ。
「俺達は縦の関係みたいなもんだろ。恨むのは助けてくれない国だったり迫害したやつらだったり冷たくした親戚連中だよ。そういう世の中に復讐する意味もあって俺達はひったくりやってんだろ。健全な復讐行為なんだよ。俺なんか死ねばいいと親から思われた人間なんだから。だったら窃盗に生きる意味を見出してやろうじゃねえか」
「お前が決めるなよ」
「何?」
マークレイは言った。
「時代が貧しいから仕方ねえとか言い訳にするのは今後やめたい。俺が一番の弱虫さ」
その後しばらくして出来た教会に一時的に引き取られ俺達は魂を清め悪い事をもうしない様祈った。その後各貴族に引き取られた。しかしそこでも生活は厳しくまた人を恨みそうになった。
一旦現代に戻る。
「俺は今でも王様になって平和な国を作ろうと思う。皆孤児院時代は笑ったけど」
ボジャックは言う。
「俺も孤児院で初めてお前の夢聞いた時何だって思った。でも今は分かる気がする」
ゾゾは言う
「すごい夢だと思いますよ。全力で応援します」
ゾゾの回想に入る。
一方ゾゾは八歳で孤児院に来た。
寡黙に肘をつき座りと話さない。
「お兄さんが行方不明になって寡黙になっちゃったらしいのよ」
職員が心配した。
兄貴……
と心でつぶやくとクラビが来た。
「ゾゾ君だっけ? ど、どうここの雰囲気は」
何だこいつ? 俺より年上?
「良かったら遊ばない? 皆にも声かけるからさ、ああやだったら別にいいんだけど、はは」
何だこいつ年下相手にヘこへこして。
兄貴とはえらい違いだ
ゾゾは兄を思った。
ゾゾの兄は漁師の仕事をきつくても手伝った。体力があり男らしかった。
そんな背中をいつも見て来た。
「ちょっと怖いけどでも良い。いつも毅然と大きな声で話すし。俺もたくましい男になりたい」
と体と剣を鍛えた。兄もアドバイスしてくれた。
食べず鍛えた為細身の筋肉質だった。
厳しかったが尊敬していた。
ゾゾは回想を終えた。
「それにひきかえ何だよこのクラビって人、俺相手におどおどして」
そんなある日クラビが職員と話していた。その時クラビが「ゾゾは」と言っているのが聞こえた。
ゾゾはクラビを睨み去った後職員に聞いた。
「クラビさん俺の悪口言ってたんすか」
「とんでもない」
「え?」
「彼ね『ゾゾ君クラスになじめてるか、自分に何か出来る事はないか』って言ってたのよ」
「えっ」
「な、何でそんなに俺の心配を」
しばらくしてクラビが本を持って来た。
「この本読むかい?」
「あ、この本スラン語辞典」
「勉強したいって言ってたから図書館に取り寄せてもらったんだ。将来学校行くんだろ」
「……」
この人何か兄貴に似ている。
兄貴はいつも「まだ甘い!」とか怒ってて全然見た目違うけど。
兄貴がいなくなって寂しかったけど、クラビさんは兄貴に確かに似てる
顔とかじゃなくて。
「クラビさん、これから用があったら何でも言いつけて下さい!」
その後の夜、クラビとボジャックは警備隊に追いつかれてしまった。
よりによって試作型の銃を持った警備員だった。
「もう、道がない」
「さーて覚悟してもらうか。お前らは捕まえるのでなくここで殺す」
「何⁉」
ボジャックは叫んだ。
「お前らみたいな汚い奴らは死ぬのが相応しいんだよ。抵抗したって事でな」
ボジャックは憤った。
「あんた孤児をいたぶって喜んでいるのか」
「孤児に権利はねえんだよ。嫌、お前らが盗みやるから悪いんだろうが。ただ貧乏人はいずれ犯罪者になるからここで撃ち殺すが」
その時黙っていたクラビの片眼がぴかりと光り警備員にも届いた。
「な、何だ?」
「何だこの小僧の威圧感は。まあいい覚悟しろ」
ボジャックは素早くクラビを庇う様に前に出た。
「俺だって仲間の弾避け位にはなれるぜ」
警備員は冷酷に言った。
「ふん。さっさと撃たれて死ね」
しかし、クラビはゆっくりとボジャックより前に出た。
「えっ?」
そして言った。
「俺は仲間を弾避けなんかにしないぞ」
「……!」
「死ね!」
その時クラビの体から凄まじい光が発せられ警備員の目がくらんだ。
そして光と共に二人は上昇し高い建物の屋上へと行った。
着地したボジャックは興奮した。
「す、すごい、すごいよお前! 多分お前は勇者なんだろう。ならお前のやる事に最後まで付き合うぜ、死ぬまでな!」
その後全員捕まったのだが、教会の仲介で解放されクラビ達は教会に行く事になった。
~回想は終わる~