恐怖を超えろ イメージトレーニング
皆流石に疲れた。
疲れただけでない、敵の圧倒的な強さに精神的なダメージとショックが大きかった。
ボジャックは言った。
「宿で寝たい所だけど、キハエルの事がトラウマで今日寝られるか分からん」
ジェイニーは言った。
「あれほど勝ち目がない相手がいきなり来るなんて」
マリーディアは言った。
「でも休まないのはもっと悪いわ、戻って休みましょう」
しかしクラビは意を唱えた。
「いや俺は休まない。宿屋の外で夜迷惑にならないよう特訓する。女神さん付き合ってくれ」
「良いけど」
マリーディアは心配した。
「クラビ、今日の所は休んだ方がいいんじゃない?」
「いや」
そして宿で一休みし夜近所迷惑にならないようそうっと特訓準備を庭でした。
ゾゾは聞いた。
「クラビさん、何か新技開発でもするんですか?」
「いや」
「じゃあ」
「あいつにはすぐには勝てないよ。だけど勝てない以前にあいつに震えて何も出来なかったのが悔しかったんだ。だから今度会う時までにあいつに怯えない様にするんだ」
ボジャックは聞いた。
「どういう特訓するんだ? 体力作り? 組み手?」
クラビは答えた。
「いや、女神さんに頼みがある。俺の記憶の一部を操作して女神さんがキハエルに見える様にするんだ。そして対峙しても怯えない度量を身に着けるんだ」
「なるほど、技とかよりまず恐怖心の克服か」
「うん、ザーゴンやスタグラーの時も怖かったけど立ち向かえた。でもキハエルだけは」
ジェイニーは聞いた。
「やっぱり怯えたのが悔しいから」
「うん、それもある。でも勇者はどんな相手でも怯えちゃいけないんだ。でないと弱い人は頼れなくなる。負ける事はあるさ。でも怯えたり逃げたりしちゃ行けないんだ。大魔王でも破壊神でも」
ボジャックは言った。
「そうか、勇者はそう言う存在じゃないといけないんだな」
マリーディアは言った。
「何かかっこいい。頑張って勇者!」
クラビは答えた。
「嬉しいね」
そして女神は変身するのではなくクラビの記憶を操作してクラビの目に女神がキハエルに見えるようにした。
クラビは驚いた。
「うわ、そっくり、恐怖が蘇ってくる」
そしてクラビは女神と向かい合ったがしばらくして違和感に気が付いた。
「あの、そっくりなのに何か違う、その、凄みみたいなのが感じられないんだ。本物じゃないからかな」
女神は言った。
「そう、ならもう一つの方法。貴方の脳をさっきキハエルと戦闘最中の状態に一時的に戻すのよ。目を瞑って」
女神は目を瞑ったクラビに光線を当てた。
するとクラビの脳裏に先程と同じ情景が広がった。
くっ、こ、これは! さっきキハエルに感じた恐怖と全く同じだ。
ぐぐ!
クラビは目を瞑った世界で格闘していた。
当然他のメンバーには分からない。
「くっ!」
クラビはキハエルの記憶の姿にまたしても飲まれそうになった。
しかし懸命に構えを取り勇者の魂を溜める。
右腕に力が溜まった。
「よし、行くぞ!」
クラビは何もない方向に突進した。
しかし方向がずれ威力も落ちている。
「くっ、駄目だ」
女神は行った。
「さっき怒りの鉄拳を軽く防がれた記憶が染みついているのよ」
クラビは諦めなかった。
「まだまだ、今度は!」
クラビは何もない空間にパンチを繰り出す。
女神は励ました。
「いいわ! 少し動きが速くなってる!」
マリーディアは思った。
いいなあ、自分の弱さと戦って努力する姿、心が引き寄せられそう。あの言葉の続きはまだ聞いてないけど。私も手助けしてクラビを支えたい。彼が真の勇者になる事を望むなら。
女神は言った。
「次のステップよ。あいつの技『冥界降下掌』を食った時の記憶を引っ張るの」
「あれか……あれは本当に冥界に送られるのかってぐらい凄い衝撃を受けて体が冷たくなった」
「あれを克服しないと真の克服にはならないわ」
そしてクラビは冥界降下掌を食った状態の記憶に突入した。
体の外傷はないのだが、すさまじい苦しみがとてもイメージトレーニングに見えない。
マリーディアは思った。
私も何か助けたい……
女神は言った。
「頑張って! 私が言えた分際じゃないけど、でも無理なら言って」
クラビは叫んだ。
「ぐああああ!」
痛みと恐怖が押し寄せる。
「クラビ!」
「この技を破って見せる!」
するとクラビの背中に大きな昇り竜があらわれた。
「おおおっ!」
おどろく一行。
そしてクラビの顔が竜の様な怪物に変形しだした。
「ええ!」
「神の造りし者だから⁉」
「スタグラーが言ってた事か⁉」
そして凄まじいエネルギーを放出しクラビは倒れた。
「クラビ!」
「力尽きた……」
女神は抱き寄せた。
「凄いわ! 貴方なら凄い勇者になれるよ! 勇気を出したから体が反応したんだわきっと! 貴方ならどんな壁も超えられる」
「そうか、怒りとか必死さとか誰かを守りたいとか勇気を出すとかが俺の体の力を激しく引き出してるのか。でも疲れた」




