王の口づけ
2024年2月11日以下変更しました。
マリーディアは笑顔を変えずに優しく、そして力強く言った。
ジェイニーはボジャックに言った。
「ボジャック、家来ない?」
「え?」
「ボジャックにはお父様から専属用心棒として雇ってもらうわ。一緒に暮らせるわ」
「え、い、一緒に暮らせるって、パルマーさんもいるとは言え、二人か? マジで?」
「ああ、ゾゾ君も一緒ね」
「え? ゾゾも一緒なの?」
ボジャックは落胆した。
「ゾゾ君も入れてあげなきゃかわいそうじゃない」
「あ、ああ」
ゾゾは少しして言った。
「お話受けさせていただきます。ただ俺は機を見て修行の旅に出たいです。そして見つけられなかった自分の大切な物を見つけ、クラビさんをやがては超えたいです」
「え、ということはゾゾは旅立つから家に俺とジェイニーだけ?」
「寂しいなあ」
無神経にジェイニーは言った。
「ボジャックは冒険の旅とか出ないの?」
「いや、俺は用心棒でいいよ」
「何で?」
「何でって……」
ジェイニーはまた無神経に言った。
「今度、三人で冒険に行かない?」
「三人で冒険?」
「やなの?」
「いや」
「あなたにしちゃはっきりしないわね。中途半端は嫌いなんでしょ?」
「……ジェイニー、勿論用心棒の話は受けるけど、俺と二人で冒険に行ってくれって言ったら受けてくれるか?」
「え?」
「俺は、行きたい、ジェイニーと、それにパルマー邸で一緒に暮らしたい!」
「いいよ」
一方クラビとマリーディアは城で暮らし始め半月が経った。
きつい仕事などはもちろんない。
王になるため勉強をしたり、少し従僕の手伝いをしたりする。
二人は城の塔と塔を繋ぐ橋の、外や城下が見渡せる場所にいた。
「本当にお城に住めるなんて」
「城下が小さく見える」
クラビは言った。
「何か、静かだね」
「前があまりにすごい冒険と戦いだったからね、ギャップもあるわ」
「勿論今の方が静かで平和でずっといいんだけど、たまにこう、興奮するような面白い事ないかとか思っちゃうんだよね」
「今度闘技場観に行く?」
「いいね、人が戦ってるの見るのはいいよね」
「でも辛く苦しい旅だったわね。何か私としてはあまり思い出したり振り返りたくない事が多い」
「俺も、救えなかった命とかあるしね。もっとあの時自分がこうしてればとかよく思い出して反省する」
「クラビって悔いない様に生きてる様に見えるけど」
「悔いばかりさ」
その頃教師の声が聞こえた。
「はーい、午後からマナーの勉強ですよー」
「はーい、何かあれ退屈だな」
「えーでも夢だった王様になれるじゃない」
「あ、ホントそれは嬉しいよ勿論夢がかなって、昔言った時は掴みどころのない夢だったけど。かなった」
「すごい」
「あーでも最近退屈でさ、また過酷な冒険の旅に出ようかなんて思っちゃうんだよね、なーんて冗談冗談、皆に迷惑一杯心配かけちゃうからさ、平和が一番だよ」
マリーディアは満面の笑顔で言った。
「行くわ……」
クラビは意外な返しに驚いた。
「……え?」
マリーディアは笑顔を変えずに優しく、そして力強く言った。
「行くわ、例えこの先何があっても、貴方の行く所なら、どこへでも」
「……」
マリーディアの言葉を聞いた後、クラビは彼女をそっと抱き寄せ優しく口づけをした。
それは、クラビの生まれて初めての口づけだった。
――完――
完結です。ありがとうございました。




