例え自分を見失っても
「認めん、認めん! 俺が負けるなど!」
黒クラビは胸に突き刺さった剣を手でつかみ血を流し抜こうとする。
「ぐっぐぐ」
皆思った。
さっきまであんなに軽薄だったあいつが完全に怯えてあがいている。
「俺はクラビの心から生まれた。死ぬ時は貴様も一緒だ。くっくうう。五十パーセントと言うのは一対一で戦った時の勝率だ。貴様は仲間を連れている。自分の影さえ数人がかりじゃないと勝てないのか。貴様は俺からのがれられん。お前自身なんだからな」
黒クラビは剣を胸から抜き、自身の剣を構えた。
ボジャックは言った。
「心臓を刺されたってのに何て奴だ」
黒クラビはクラビに切りかかる。
「うおおお!」
なりふり構わず。
もう剣の型もきちんとしてなかった。
攻撃が大味でクラビにはすべて簡単にかわされた。
「俺は負けない! 俺が光のある場所に出る資格があるお前の暗部なんだ。貴様は卑怯だ。いつも善人ぶり子供の頃はペコペコし今は勇者になり皆に愛されている。それは貴様が善心だけを表に見せて来たからだ!貴様は俺と言う邪心と心の暗部をすべて隠し聖人の様に振舞った。貴様が愛されたのは俺が心の奥に隠れていたからだ! くそ! くそ!」
「あいつ、冷酷さより悲しさと哀れさしか感じなくなってきた」
「もう、やめればいいのに」
そして剣は折れた。
「折れた」
黒クラビはがっくり膝をついた。
ボジャックはデュプス神に聞いた。
「あいつを倒すとクラビはどうなるんですか」
「善の心だけが残った不完全な人間となり活動も出来なくなるかもしれない。つまり骨がなくなって肉と皮だけになる様な物だ」
「え?」
「善の心だけでは全ての人間の心と肉体は成立しえないのだ。邪心を全部消す事は死か抜け殻か」
黒クラビはあがいた。
「また貴様に取りつき大きくなりチャンスを見てまた現れる。今度は復讐じゃなく支配のためだ。ナーリスの心は抜け純粋に俺だけになるからな。お前に取りつく事を防ぐことは出来んぞ」
「そんな事はさせん」
デュプス神が言った。
クラビは口を開いた。
「いいよ」
「何⁉」
「そうしたら俺はお前も自分自身と思って自分の中で共存するから」
「そんな事出来るわけないだろう! 強がりやがって!」
「俺は大丈夫、大切な人達がいるから。例え邪心で自分を見失っても」
「何?」
「お前にはいるのか」
「う、うぐ! 俺はお前なんだ! 俺がいればお前は憎まれるんだ」
「いいよ別に」
「皆クラビはいい奴だけど全部が良心何て思ってない」
「皆分かってるんだよ」
「う、うおおお!」
デュプス神は慌てた。
「いかん、奴の心が爆発する! クラビ君とマリーディア君で奴を浄化させるんだ。
「うおおお!」
クラビとマリーディアは黒クラビに手を触れた。
「もう、いいんだ、苦しまなくて」
「人を愛するとは相手の邪心や欠点を許せるようになる事、貴方はそれを知らなかっただけ」
「うおお! でももういいよ、やり直す気はない。もう消えるよ。なんだか暖かい。初めて人の心の暖かさに触れたよ。ありがとう」
黒クラビは消えた。
次回最終回?




