浄化される魂 決着
クラビは丁度左上四十五度の場所に突きを放つ。
それを黒いクラビは待っていたかの様に防御する。
黒クラビは余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべた。
50パーセントしか確率が無い事を分かっているのか良くわからない。
それとも何らかの自信があるのか。
クラビは左上四十五度の地点から右に二十度の位置に突きを放つ。
これも黒クラビを動じさせるには至らない。
クラビは左上六十度の位置に袈裟切りを放ち、続いて右上三十二度の場所に同じく袈裟切り、
横切りを放った。
黒クラビは簡単にかわした。
ベルスは言った。
「何なんだあいつの余裕は」
「どうだ? 鏡を見ているようだろう? 大体君の動きが分かるよ。そら」
黒クラビはクラビと同じような攻めをした。
右上丁度四十五度の位置に突き、更にもう少し右に15度程の位置に突き。
右上およそ五十七度の場所に袈裟切り、二十七度の場所に再度袈裟切り。
黒クラビの言うようにまるで鏡を見ているようだった。
しかし五分五分の様でクラビは全く真剣な表情なのに対し黒クラビはおよそ負けると思っていないようだ。
「火炎撃!」
「うわ!」
「黒の魂火炎撃さ、驚いたかい? 更に」
今度は射出型光剣の形の黒い剣を出した。
「うわ!」
これも何とかクラビはかわした。
不意に黒クラビは言った。
「あのマリーディアって子、すごくハラハラ心配してるよ。よっぽど君の事が好きなんだね」
「……別に」
「隠しても無駄さ、僕は君と同じなんだからね。別にどうでもいいって言うなら僕が彼女を物にしちゃおうかな」
マリーディアはかああと赤くなった。
「あはは赤くなってる初心だなあ。男を知らないんだろ? 僕が教えてあげようか」
「黙れ!」
怒りに任せクラビは突きを放つ。
「図星みたいだね」
ボジャックは叫んだ。
「そんな奴の挑発に乗るな!」
「あ、ああ」
クラビは気を取り直した。
怒りでクラビはギリギリ歯ぎしりをした。
「歯ぎしりで気持ちがばれてるよ」
デュプス神は言う。
「黒いクラビは両者互角だと知っているから言葉で揺さぶりをかけ精神優位にしようとしているのかもしれん」
しかしクラビは言った。
「あんたは五十パーセントの確率におびえてるんじゃないのか?」
「何?」
「僕が動揺してるって? そんな事はない。スタグラーも吸収したし。ナーリスはどんな思いで殺されたか分かるかい?」
そう言うと声が突然スタグラーの母親ナーリスの物になった。
「私はガト教の象徴として石や火を投げられそして火にかけられた。人が人にこんな事をして黙って死ねるとでも思ってるの? あなた達だって孤児だからわかるわよね」
「……」
「母さんもうやめろ!」
スタグラーが内側から体を抑え始めた。
「スタグラー?」
「クラビ、チャンスだ! 止めを刺せ!」
「でも!」
「出来なければ私が母さんを殺す!」
「!」
「私はずっと復讐を考えていた。だが君達と出会いもう一度人間の素晴らしさに気づいたんだ。私が内側から母さんを殺す。そうすれば君は罪を負わない!」
「でも、貴方が!」
「よく分からないけどナーリスさんは完全に悪い人じゃないんでしょ? 殺すのは」
「じゃあどうするんだ、説得すると言うのか?」
「おのれ! ナーリス! 裏切ったらスタグラーもただではおかん」
また黒いクラビの声になった。
ゾゾは言った。
「どう言う事なんですかこれ」
デュプス神は答えた。
「黒い邪心から生まれた黒クラビはナーリスの怨念を利用していたんだ。でも今ナーリスに迷いが生じ始めている。今ならナーリスの心を黒クラビの体から出せるかも知れん。
クラビは呼びかけた。
「ナーリスさんやめて下さい。俺には気持ちは分からないけど。でも皆で理解しようとすれば出来なくもない気がする。黒クラビにたぶらかされないでください」
「たぶらかすとは人聞きが悪いな。この僕は君の邪心から生まれたんだよ。君が原因だろ」
「なら僕が自分を殺して止めて見せる」
「でもそれだとナーリスは救えないよ」
「だったら俺達が方法考えるよ」
ゾゾは言った。
かまわず黒クラビは言った。
「勇者とか聖人とか気取ってるけど君の邪心はこれだけ大きいんだぜ。君の心がこの事態を生み出してるんだぜ」
マリーディアは言った。
「どんな聖人だって邪心は一杯あるわ! でもそれを本人が治したり周りの人が理解するのよ」
「う、うるさい!」
クラビは言う。
「俺は例え世界を救っても別に邪心のある人間と言われたっていいぜ」
「何だと?」
ナーリスとスタグラーの魂が黒クラビの体から抜けた。
「今だ!」
クラビは黒クラビの隙をついて心臓を刺した。
「ば、馬鹿な……」




