もう一人のクラビとの対話
その時クラビの封印された勇者の記憶の声が現在の彼に語り掛けた。
「アンドレイの言ってる事は間違いじゃない。振り払うのも良いが、あいつは真実を言ってるんだ」
「え?」
クラビは驚いた。
「マークレイは催眠術にかかってるんじゃない。邪心を肥大化されてるんだ」
「え?」
「だからそれを受け止めなきゃいけないんだ」
「それってマークレイが俺を憎んでいる事? それが事実だって事?」
「ああ」
「そ、そんな事信じられない」
「彼はいいやつだ。でも仲間をひがむ気持ちだってあるさ。それだけじゃなく問題は君がマークレイに憎まれている事を知らない、そんな部分はない、と思っている事なんだ。アンドレイが『だから騙されるんだ、大馬鹿だ』と言ってるけど、傷つけた事に心当たりがないのもはっきり言って馬鹿で罪がある」
「お、俺、いつマークレイを傷つけたんだろう。いつ?」
「それは言えない」
「何で」
「言えない事だからだ」
「教えてくれ!」
「今教えるとこんがらがるんだ。だから君は『自分の罪は分からないけど許してほしい』と思う事しかないんだ」
「俺、いつマークレイを傷つけたんだろう、俺が目立ってやだったのかな」
「ヒントはまあ、彼はすごく好きな人がいてだね」
「そうなの? でそれに俺が何の関係が?」
「ああもういい、ただ君が『彼の事が全部分かった気でいて苦しみに気付かなかった』事が苦しむ理由になってるんだ。人を理解したと思う事は自分を良い人だと思っている思い上がりだ。これもアンドレイが言っただろ」
クラビは一人で考えた。
そうか、マークレイが何で悩んでいたか聞くのやめるよ。
何か知らないけど辛かったんだな。
何か知らないけど俺が苦しめたんだな。
で俺は理解したり勝手に恨みの心がないって思ったんだな。
それが思い上がりだったんだ。
そうだ。おれは色々大きな事をして自分が大きくなったと思ってたんだ。
でも違う。それをもう一人の俺とマークレイが教えてくれた。




