不屈と不死身 恐怖と希望
しかし、何と信じられない事にジルバシュタインは立ち上がった。
平然とむっくりと。
「えええ⁉」
これは勿論現実が受け止めかね、かつ恐怖とショックを与えた。
トラウマになりそうな程に。
強がりでも何でもなくまるで自慢話の様にジルバシュタインは言った。
「くっくっく、これ位じゃ俺は死なんぞ」
ボジャックは激しく恐れながら言った。
「まさか、キハエルでさえ死んだあの雷で」
ジルバシュタインは誇った。
「俺とキハエルはどちらが上か証明されていないが、生命力は俺の方がはるかに上なんだよ」
「……」
クラビは先程まで落ち着いていたが、これには警戒心をかなり強めた。
冷静さが壊れそうなほどに。
冷汗が流れる。
冷汗をジルバシュタインは何となく気づいている様に。
「不死身の人間を相手にする事の恐ろしさを教えてやろう。ぐがあああ!」
ジルバシュタインは宣告の後、激しく力を溜めた。
周りの空気が揺れる。
皆も恐怖に包まれた。
そしてジルバシュタインは溜め終わると吠えた。
狙いを定め突撃してきた。
受ける側のクラビは瞬間的に思った。
避ける事は出来るけど、迎え撃つ事がチャンスかもしれない。
もうすぐ太陽光線が切れそうだし。
ジルバシュタインは走りながら叫んだ。
「光栄に思え小僧! 俺は貴様の太陽光線エネルギーが切れるまで待つようなせこい真似はせん。貴様の力が全開の状態で勝ってやる。それでこそアンドレイ様に顔が立つと言うものだ」
クラビは一瞬で判断しなければならなかった。
避けるか、迎え撃つか。
判断材料が。
でもあいつ雷でも死ななかった奴だ。
仮に渾身の一撃を食らわせても、あまり効かなくてこっちが力を失う可能性もある。
だけど……
かわしたとしてもあいつが次の瞬間どんな行動するか分からない。
俺の少ない戦闘経験だけど。
「うおお!」
そして決断しクラビは七十パーセント位の力で怒りの鉄拳を出した。
しかし何とまるで知っていたかの様にジルバシュタインはまともにそれを受けた。
顔面がひしゃげ顔の向きが変わるほどに。
「え⁉」
クラビはこれが意外で瞬間的に戸惑った。
さらに次に何をしていいかためらった。
ジルバシュタインは強がりでなく平然と言った。
「効かんなそんな攻撃」
「!」
本当に効いていない。
クラビは意外な行動とあまりのタフさに恐怖を覚えた。
怒りの鉄拳を防がれた事は確かにある。
しかし今ほど相手の生命力を感じた事はなかった。
そしてそれを払しょくしばれないように、今度はさらに力を込めた鉄拳を放った。
「ふん」
「!」
これも効かない。
さらにクラビはやけくそと恐怖払しょくの二つの理由で二発続けた。
ただ力を残しながら。
しかしこれもろくなダメージを与えられない。
「馬鹿な!」
クラビも皆も驚いた。
ジルバシュタインは言った。
「貴様に教えてやる。不死身の相手に追い詰められる恐怖を」
「!」
ミッシェルは言った。
「あいつ攻撃をわざと受けた⁉」
「何故ですか⁉」
「恐らくタフさを誇示しクラビを絶望させる為⁉」
この言葉と言葉通りの不死身ぶりにクラビは本当に恐怖を覚えた。
そして再度恐怖払しょくの為もう一発放った。
俺の焦りと恐怖がばれている?
ジルバシュタインは言った。
「パンチってのはこう打つんだよ」
ものすごいパンチがクラビの顔面に当たった。
以前戦った時よりもずっとすごい。
「ぐう!」
しかしクラビは意地もあり倒れず踏ん張った。
さらにジルバシュタインは殴った。
しかしこれもクラビはこらえた。
ジルバシュタインは容赦なく連撃を放った。
クラビは倒れたくても倒れられなくなった。
「い、いや!」
マリーディアは泣きそうだった。
クラビはそれでも賭けるように最後の力を振り絞りパンチを放った。
これがまともに決まり、ジルバシュタインを吹き飛ばした。
皆声を上げた。
「おおっ!」
しかしクラビは思った。
もう体力がない。
その瞬間巨大棍棒でジルバシュタインはクラビを殴った。
「ああ! 棍棒で!」
クラビは倒れた。
その時辺りにアンドレイの声が聞こえた。
「すばらしいぞジルバシュタイン! 私からこのチャンスにさらなる力を与えよう!」
もう一発稲妻がジルバシュタインを直撃した。
「え?」
アンドレイは聞こえないよう思っていた。
まあ、さっきの雷はキハエルの時より少し弱めにしてやった。
あいつはまだ少し使いでがある。
側近の部下は恐怖した。
ジルバシュタイン様ほどの方さえ使い捨ての手ごまとしか思っていない……
「があああ!」
ジルバシュタインの体にさらにすごい力がみなぎった。
アンドレイは言った。
「今の雷は贈与の証だ!」
「ぐおおお!」
すさまじい瘴気と共に、壊れたカブトの角が修復した。
「え?」
「何でカブトが⁉」
ジルバシュタインは言った。
「ふふ、あの角はカブトの角じゃない。俺の角なのよ」
「え⁉」
「この角で貴様を!」
次の瞬間、すさまじいスピードで突進したジルバシュタインの角にクラビは胸を刺された。
「きゃあああっ!」
マリーディアは泣き顔でふらつき、気を失いそうになった。
「が……」
角は抜かれクラビはうつぶせに倒れた。
ジルバシュタインは言った。
「しかし、よくここまで戦ったな。確かに貴様は勇者かもしれん。褒めてやる。他のごみ同然の仲間どもとは違うな。特にキハエルにろくなダメージも与えられずダウンしたマークレイとか言う道端の犬のふんとは違うな」
クラビはまだ言い返す力位はあった。
しかしこう思った。
マークレイをかばって言い返したい。
でも確かに俺は普通の人間じゃない神の造った人間。
マークレイをかばって何か言ったら逆に嫌味っぽくなってマークレイを傷つけるかも。
その時マリーディアは叫んだ。
「やめなさい! 例え負けても必死に戦って頑張ってる人を笑うのは!」
クラビは思った。
マリーディア、俺の言いたい事を言ってくれた。
俺もまだ立ち上がれる!
ジルバシュタインは言った。
「うるさい、くだらん事を言うとお前から殺すぞ」
「いいわ……!」
マリーディアは臨戦態勢を取った。
ボジャック達はさすがに止めた。
「お、おい無茶するなよ!」
その時クラビの声が響いた。
「まだだ!」
クラビは立ち上がった。
「あんた、俺のエネルギーがなくなる前に倒したいって言ったよな。もう後二分もすれば切れる。だから俺も最後の賭けをする。次の一撃であんたの突進と角を止める。それに全てを懸ける。もし駄目ならその時は潔く死ぬよ」
「よく言った。お前の誘いに乗ってやろう」
皆のハラハラが頂点に達する中、二人は距離を空け構えた。
クラビは全てを賭けた目つきをした。
「勇者の魂、全開だ」




