クラビと絆 竜巻投げ
マークレイの渾身の、全てをかけた体当たりにキハエルはついに膝をついた。
「……」
それについてはキハエルは表情はほとんど変えず無言の反応だったが。
口から血が出ていないか確かめる動作だけしか反応はなかった。
彼にとっては思わぬ不覚。
信じられない程。
しかし、動揺と屈辱をなるべく見せず隠す一流の強者の振る舞いがあった。
しかし一方、皆は目の前の事実に騒然となった。
「初めてクラビ以外の人間がキハエルにダメージを与えた」
ゾゾは言った。
「で、でもマークレイさんももうぼろぼろで」
マークレイはズタズタの体で最後の力を振り絞り強がりの様に言った。
「まだまだだ」
しかし皆はそうは思わなかった。
「も、もう力が残ってるはずがない」
誰の目にも明らかだった。
止めたかった。
皆目を背けたかった。
もう見ていられない。
キハエルは微笑みをなくし真顔になった。
冷静さはキープしている範囲でだが。
それはほんの少しだけマークレイを認めた証であり変化だった。
「褒めてやるぞ。よく私に傷を負わせたな」
「まだまだだぜ。俺はあんたに勝つ」
しかし皆から見れば根拠のない強がりに見えた。
これより後に攻め手があるはずがない。
「うっ!」
マークレイがよろめいた後胸が切れ血がどばっと噴き出した。
血に弱いマリーディアは叫んだ。
「きゃああ‼」
皆も叫びたい気分だった。
何故そこまでするのか。
ボジャック達は言った
「クラビを思っての事なのか」
「リーダーとしての責任感?」
「それとも禊の為? そんなにまで気にしてたのか」
マークレイは微笑み答えた。
「へへ、全部かもな。友達の為ってか」
一方どこか相手を認める表情でキハエルは構えた。
手からデュプス神に向けて放った冥界砲をマークレイに撃った。
「ぐあ!」
マークレイは肩と胸の間を直径七センチ貫かれ倒れた。
「ひいい!」
と皆叫び悲壮感はさらに増した。
しかし土を残った握力全てで掴むように這い上がろうとする。
キハエルは顔は冷徹だが語気強く言った。
「終わりだ」
しかし次の瞬間、マークレイの前にクラビが立ちふさがり冥界砲を受けた。
「く」
クラビは声を出さなかったが効いている感じがする。
マークレイは言った。
「クラビ……」
クラビは間を置いて背を向けたまま言った。
「ごめん、助けるのが遅れた」
「?」
「マークレイが戦いたいって言う気持ちともう危ないって言う気持ちで葛藤してた。マークレイは負けず嫌いでプライドも高いから『手を出すな』って言われそうで」
「……」
「でも、もう黙っていられない。いや黙っていたらもう俺は勇者を名乗れない。それにマークレイがさっき言った捨て石なんかにならなくていい」
マークレイは悔恨した。
俺は、こんないい奴を恋敵だと思ってたのか。
俺は……
クラビは決意し言った。
「後は、任せてくれ」
「ああ」
マークレイは全て終わったかのように脱力し倒れた。
後は任せる安心感。
俺、やっとリーダーらしい事が出来た様な気がするよ。
サブだけど。
ミッシェルはマークレイの肩を担ぎながら言った。
「お前がリーダーだよ」
クラビは前に出た。
不思議と怒りは感じられない。
皆も不思議で独特の雰囲気を感じた。
キハエルは言った。
マークレイの時は面倒臭そうだったがクラビだと違う。
「やっと出てきたか。少しは楽しめる前座だったが。さあかかって来い」
するとクラビは初対決の時と同様に両手を天にかざした。
アイムは危機を感じて叫んだ。
「また、太陽光線を吸収する気⁉ あれからそんなに日が経ってないし、負担がもっと増してしまうわ! 寿命だって!」
しかしクラビは続けた。
そしてエネルギーは溜まって言った。
キハエルは動揺を覚えた。
「な、なんだこの力は」
そしてクラビは手を下した。
手を前に出すと勇者の魂を竜巻状に前方に放出した。
キハエルは驚きで反応が遅れまともに食った。
皆騒然となった。
そして竜巻に巻き込まれた。
竜巻はキハエルを巻き込んだまま上方に吹き飛ばし途中でキハエルを落とした。
キハエルは受け身を取ったが地面に叩きつけられた。
キハエルは見た事もない苦しそうな顔をした。
「勇者の魂をこんな風に操れるようになっていたのか」
「あんたの技を研究して少し真似た」
「!」
そしてクラビは次の瞬間突進し、素手のパンチをキハエルの腹に叩き込んだ。
「あ、あぐ……!」」
あまりにも強烈な一撃だった。
あまりにも重い。
キハエルは血を大量に吐いた。
「ええ⁉」
皆騒然となった。
もちろんそんな光景を見るのは初めてだ。
キハエルは声を絞り出した。
「あ、あうぐ、ばかな」
さらにクラビは顔を殴った。
キハエルの顔が曲がり、首が折れたようだ。
「き、きさまあ!」
キハエルは焦って冥界降下掌を放った。
しかしクラビはびくとも動かない。
ボジャックは言った。
「見切るんじゃなくてこらえてる!」
クラビは言った。
「とどめだ」
クラビは射出型光剣をキハエルの胸目掛け発射した。
ところがキハエルは光の剣を手で防いだ。
「あっ!」
皆驚きの声を上げた。
キハエルは苦しみながらも言った。
「貴様の技の情報は他の戦士から得ている。対策は取っているんだ」
次の瞬間だった。
クラビの手から発せられた光の槍がキハエルの腹に刺さった。
「あ、あぐ!」
クラビは言った。
「射出光槍」
キハエルは苦しみながら絞り出した。
「馬鹿な、こんな技を」
「ま、負けん!」
キハエルは腹を押さえ抵抗しようとした。
その瞬間、天から稲妻が落ちキハエルを直撃した。
「あ!」
キハエルは既に黒焦げになり死んでいた。
しかしたった一言
「お前の強さなら、アンドレイ様、いやコプロサス様を倒せるかもしれん」
「アンドレイ、いやコプロサス? あいつをたった一撃で」
一行はキハエルを弔おうかとも思ったが感傷には浸らず進んだ。
2023年11月4日改稿しました。




