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勇者の記憶と力を封印された少年、「神に造られし者」の孤児に転生し悪人と再対決する  作者: 元々島の人


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キハエルとマークレイ

2023年11月4日投稿しました。


 ついに決戦の二日前、つまり移動の日が来た。

 一行は全員でアジトを出てサブラアイム城を目指した。


 遥か西方面に二日かかる距離。

 当然、追っ手が来るのではないかと思っていたのだが、三時間歩いても兵一人出てこない。


 不気味だが疑いもあった。

「果たし状ではアンドレイは、モンスターキャッスルまでほぼ邪魔者はいないと言っていた。そう言えば兵はおろか魔物や動物も全然いないぞ。撤退させたのか」


「もしかして敵はいないと言いながら待ち伏せしてるんじゃないかとか、そこまで卑怯だったらプライドを疑うとか思ったけど」


 その後八時間歩いたが何も出てこない。

「本当に城で待つ、他はいないという事か」


 そして一日が終わり野宿となった。

 夜が明けまた出発になった。

 その日も何も出て来なくなった。


「不気味過ぎる」

 そして遂にサブラアイム城の近くバッハの塔、通称モンスターキャッスルに来た。


 九階立ての石造りの塔だった。

 しかし例えば弓兵や投石部隊などが城塞の様に配置されていたりしない。 


 と皆思った。

 すると、空間に穴が空いた。

「……!」


 そしてあの男が出てきた。

 皆戦慄を胸に叫んだ。

「キハエルⅡ世!」


 皆震撼した。

 ぶるぶるふるえた。

「うう、こいつがよりによって城門の番人か」

「ふふん」


 皆修行して自信を付けた。

 これまでとは違うと分かっている。


 それでもキハエルと初めて会った時の気持ちに戻ってしまった。

 ボジャックは言う。


「クラビ以外誰もあいつにダメージを与えていないんだ。冥界降下掌も破れていない」

 ボジャックの額に汗が出る。


 恐れる一行と比べ、キハエルはいたって冷静だ。

 最初に現れた時の様にみじんも負けるとは思っていない。


 前回クラビに追い込まれた精神的ダメージも引きずっていない。

 いや気にしているのかも知れないがそれを見せない。


「ようこそ。道に兵を配置しないと言ったのはアンドレイ様の方針だ。だが私は押し切って門番として出てきた。何故アンドレイ様を押し切れたか分かるか? 私がアンドレイ様より遥か上の力を持っているからだ」

「……!」


「アンドレイより遥か上」と言う言葉だけでなく前にも増した威圧感が皆を緊迫させた。

「クラビ、この前は思わぬ不覚を取ったが、今度こそそうは行かんぞ。君達も大分力を上げたようだが、私も大分付けたようだからね」

 この「私も大分付けた『ようだ』と自分の事を言う事に異常な存在感があった。


 キハエルは自信満々に言った。

 一歩前に出た。

 一歩が皆を恐れさせた。


「さあ、クラビ、前に出たまえ。今度こそ決着だ。モンスターキャッスルに入る前に負ける事になるな」

「……」

 

 クラビしか眼中にない言い方だ。

 他のメンバーが視界に入っていないような。


 それに対してクラビは言葉は返さず、しかし強いまなざしで一歩踏み出した。

「引かんようになったな」


 両者の間に誰も入れない空気が流れる。

 ゾゾはそれを見て思った。


 アンドレイを倒そうと必死に修行したのに、あいつへの恐怖心が消えていない。

 くそ、何て俺は情けないんだ!

 

 皆も似た気持ちだった。

 特にボジャック、ジェイニー、マリーディア、それにアイムは初めてキハエルに相対した時の気持ちが払しょく出来なかった。


 にらみ合うキハエルとクラビ

 しかし、クラビの目には前にはない落ち着きと悟りがあった。

 負けそうだとも思っていないし相手を甘く見てもいない、そんな雰囲気だ。


 キハエルはその中で言った。

「もしかしてアンドレイ様達と戦う為にこんな所で力を使えないとか思ってるんじゃあるまいね。そんな気持ちじゃ今度こそ死ぬぞ」

 クラビは答えなかった。


 しかしそこへ切り裂くように突然声が響いた。

「待ってくれ!」


 クラビは振り向き皆も何だと思った。

 誰もそんな事を言う者がこの場にいるとは思っていなかった。


 それはマークレイだった。

「クラビ、俺にやらせてくれ、頼む」


 懇願する態度、そして名乗り出た事に皆動揺した。

 クラビ以外キハエルにダメージを与えられた者は今までいないのだ。


 しかしマークレイは言った。

「俺が奴を倒す。どうしても駄目だったらクラビ出てくれ」


 皆困惑しどういうつもりなのかとも思った。

 キハエルは鼻で笑った。


「貴様の相手をしている暇はない」

 しかしマークレイは前に出る。


「俺は勇者を無傷でアンドレイ達の所まで行かさなきゃならないんだ。それが俺達の仕事だ」

「はーっはっは!」


 マークレイは屈しなかった。

「笑いたければ笑え。俺はどうやっても勇者にはなれない。だが勇者の弾除けや盾位にはなれる」

「弾除けが出来れば上等だがな」


 マークレイは続ける。しかし申し訳なさそうだった。

 悔恨の意を感じさせた。


「それに俺は皆にかつて迷惑をかけた償いをしなきゃいけない。仮にもリーダーを名乗るなら!」

「では前座としてお前と戦ってやる」

 やれやれという態度だった。


 皆何と言っていいか分からなかった。

 自分の言いたい事を言い終わり、鬼気迫る表情と人生の全てを懸ける気持ちでマークレイは向き合った。

「行くぞ!」


 叫びと共にマークレイは走った。

 そして叫んだ。

「最初から飛ばす! 受けて見ろ!」


「ヘヴンズハーケンブレイク!」

 鎌を構え奥義を出した。

 しかしキハエルは眉一つ動かさない。


 そして、次の瞬間マークレイは吹き飛ばされた。

 クラビが初対決した時の様に触れる事も出来ず。


「ぐっ!」

 倒れたマークレイは自分の無力さを悔いた。


 キハエルはみじんも負けるとは思っていない。

「終わりかな?」

「まだだ……!」


 よろよろと立ち上がった後全てを込めマークレイは突進した。

 今度は剣の奥義だ。


「ファントムゼロ‼」

 今までで一番大きな声の叫びだった。

 しかしこれも次の瞬間吹き飛ばされた。


「前座をそろそろ終わらせるぞ」

 マークレイはさらに力のなさを悔いた。

 

 突きつけられる現実。

 クラビを行かせたい気持ちが折れそうな程に。


 な、何て事だ、アンドレイ達を倒すため必死に修行したのに、こんなにも力の差があるのか。

 マークレイは絶望しかかり、気持ちを糸で繋いでいる感じだった。

「う、うおお」


 しかしマークレイは勝つ根拠があるわけではないが、全ての力を込め立ち上がった。

 キハエルは冷酷に言った。

「終わりだ」


 キハエルは手を振り上げた。

 冥界降下掌をマークレイは食い上空へ飛ばされた。


 しかもキハエルはまた構えた。

「さらに」


 皆それに気づいた。

「あれは!」

 キハエルはもう一つの型である「降下掌・奈落落とし」を空中のマークレイに放った。


 ボジャック達はこれを見て叫んだ。

「ああ‼ クラビに食らわせた降下掌の二段構えだ!」

「あれを食らったら!」


 空中に跳ね上げられたマークレイは、さらに真逆の下に落とされる凄まじいエネルギーを全身に受け激しく大地に叩きつけられた。

「ああ……」


 皆絶望した。

 しかし次の瞬間

 マークレイは立ち上がり見たこともないスピードで武器も持たず体当たりを食らわせた。


「ぐっ!」

 キハエルは予想外の事もあり避けられなかった。


「くっ」

 前にクラビに鉄拳を食らった時ほどではないがキハエルは動揺した。


 ボジャックは叫んだ。

「マークレイの勇者の魂が最大限覚醒したのか⁉」

 

  

  


  



2023年10月31日投稿しました。

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