ポートサスの叫び アンドレイの焦り
「ふん」
アンドレイは動じていなかったが、一方クラビも弱みを見せなかった。
しかしアンドレイは思っていた。
ここまで短期間に力を付けるとは。
神官達の指導のおかげとでもいうのか?
あんなゴミ神官に。
クラビは彼の中で十分脅威になっていた。
二人はお互い間合いを伺いながら一瞬の隙を突こうとしていた。
緊張が周囲を支配する。
表情を変えないクラビ。
にやりとするアンドレイ。
そして動きは起きた。
クラビは踏み込んだ。
この動きも以前の対戦時とは比べ物にならない速さだ。
「懐にはいられた……?」
アンドレイは少しずつだけだが動揺を見せて行く。
勿論クラビに見せない努力を払いながら。
アンドレイは隙なくクラビの剣を受け止める。
意地でも隙は見せられない。
意地だけでなく威信の問題だった。
魔王が一度勝ったガキ勇者に脅威を抱く等と。
認めたくも見せたくもなかった。
その感情を反映し、ぎりぎりと両者の剣が音を立てる。
アンドレイはクラビのかけてくる圧で剣がかけそうで少しだけきつそうだった。
クラビの続く右斜め下から右上への切り上げをアンドレイは最小限の動きで止める。
アンドレイの目付きが少しずつ真面目になる。
動揺が形になる。
アンドレイは感じた。
速くなっている。
私が見失う程ではないが。
しかもこのガキ、わずかしか息を乱していない。
ポートサスはたまらず叫んだ。
「クラビ! 私が戦う!」
ポートサスは動こうとしたがさらに強い圧で動けなかった。
クラビは合間に手でポートサスにさらなる圧を加えていたのだ。
ポートサスはあがく。
「動け私の体! 何故だ? クラビの激しい圧が抑えているのか⁉」
「……」
ポートサスは必死にクラビに訴えた。
「何故そんな事をするんだ、先に逃げるかアンドレイに集中すれば良いじゃないか。弟子に助けられるなんて私はどうすれば良いんだ生きている意味がない!」
クラビは答えなかったが、ポートサスは先程のクラビの言葉を思い出した。
「勇者だったらこうするでしょう」
アンドレイはそんな事情を察し嘲笑った。
「何故そんなにしてまでその馬鹿な神官を助ける? 生きている意味のないハエを」
クラビはそれに対し口を真一文字にして怒りを表した。
アンドレイは言う。
「我が神聖なサブラアイムの地で薄汚いデュプス神官共は抵抗を続けた為我々に殺された。最初から分かっていたが。そしてあと十日もすれば我々はデュプスに本格的に攻め込む。貴様は大分腕を上げたが十日では私にもコプロサス様にも勝てんぞ」
クラビは睨み返した。
アンドレイは再度笑った。
「何だ?『俺は諦めない!』とでも言う気か? はっはっは」
クラビはポートサスを馬鹿にされた怒りを背負い振りかぶり、向かって右上四十三度から左下へ斜めに切り下した。
アンドレイはまだ笑っている。
「まだ私を怯えさせるまでには至らんな。今回の目的は神官を殺す事だ。お前の相手は後日ゆっくりしてやる」
アンドレイは努めて内心の脅威を見せない様に振舞った。
しかし心では思った。
今の内にこいつを叩くべきか。
こいつは凄まじいポテンシャルを持っている。
だが今回の目的はポートサス達を殺す事だ。
予定を急に変えれば失敗する確率が高い。
指導者のあいつを殺せば劇的アップは望めまい。
「そいつを庇いながら私と戦うとは見くびられたな!」
しかしクラビはポートサスを気にかけながらも一向に弱みは見せなかった。
クラビは不意に言った。
「あんた、焦ってるのか?」
「何?」
これはかなり意外な一言だった。
アンドレイは一呼吸置いた。
「私が貴様に焦ってるだと?」
クラビは更に大型化した射出型光剣を出した。
「くっ!」
アンドレイは何とかかわした。
この前より遥かに強く速い……




