閑話 ボジャックの空を飛ぶ絆
2023年12月2日改稿しました。
七歳の頃のジャックの回想。
「はい! 空を飛ぶ事です!」
「君達の夢は何か」と言う授業の先生の質問にボジャックは勢いよく手を挙げて答えた。
しかし場がしーんとしている。
ボジャックは思った。
何かどよめき起きてるんだけど俺良い事言ったつもりだったんだけど。
俺はいつも影薄いからいの一番に手を挙げたんだけど。
「ぷっくすくす」
一部の生徒は笑いやがてそれは伝染病の様に生徒達に波及した。
職員は笑いを噛み潰し言った。
「い、いい夢だね。現実的には少し難しいが」
ボジャックは言った。
「で、でも俺の好きな歌の歌詞に『夢があれば空を飛べるー』と言うのがあるんです! 俺は凄くいい歌詞だと思うし信じれば出来るんじゃないかと」
しかし少し賢い子が言った。
「それは『目標や夢がかなう』って事を『空を飛ぶ』で例えてるんだよ。人間が現実に空を飛べるって意味じゃないよ」
しかしボジャックは諦めなかった。
川を大ジャンプして飛び越えようとした。
しかし結果は失敗、ずぶ濡れになった。
落胆したボジャックの前に突如頭にわっかを付けた羽根の生えた老人が現れた。
「えっ⁉ 神様」
「いかにも。私が君に翼を与えよう。ええい!」
しかし翼は付いていない。
「あの、何も変わってないですけど」
「そんな事はない。君の背中には神の羽根が生えたのだ。これで高い所から飛べるぞ!」
「本当⁉」
孤児院に戻ったボジャックは何と屋上の淵に立った。
勿論職員は下から大声で止め他の子どもも騒ぎになった。
「やめなさい!」
「俺は神の翼をもらったんです!」
「頭がおかしくなったのかやめなさい!」
「大丈夫」
「やめなさい!」
屋上に上がった職員が羽交い絞めにした。
「やめて!」
ボジャックはあがいた。
ボジャックは職員室に呼ばれて説教された。
失意の中出てきた。
職員が噂した。
「神の翼をもらったですって、おかしくなったのかしら」
「誰に貰ったのかも言わないんだ」
その夜不思議な声が聞こえボジャックは表に出た。
門限を破り窓から出た。
「ボジャック来なさい」
「神の声」
そして少し広い野原に出ると光と共に先程の神が現れた。
「俺、飛べないみたいなんすけど」
「くっくっく」
「えっ!」
神様はまぶしい光を放つと何と角と翼の生えた二メートル程の身長の悪魔になった。
「えっ⁉」
「はっはっは! 私は魔界の詐欺師・ドリームバクラーよ!」
「ドリームバクラー⁉」
「そうだ。私は君の様な良く言えば純粋、悪く言えば大馬鹿な人間を騙し、その失意のエネルギーを吸って生きてるのよ」
「な⁉」
「馬鹿な奴だ。人間が空を飛べるわけないだろう。馬鹿、馬鹿、大馬鹿が」
「くっ!」
「そうだ、その悔しさを吸って生きてるのよ。人は殺さんがな。馬鹿程多く騙されそして後悔し失念する」
「待てっ!」
そこへクラビが突如現れた。
「クラビ⁉」
「何故ここが?」
「俺には苦しんでいる人の波動をキャッチする力があるんだ」
「!」
な、何だってそんな力が?
一体?
「はっ!」
ドリームバクラーはうろたえた。
「クラビ⁉ 貴様はまさか二年前アンドレイ様と戦った⁉」
「えっ⁉」
こいつ一体……
クラビは答えなかった。
しかし言った。
「真面目な人の心を傷つけ吸収するなんて許せない」
「ま、待てっ! 俺は暴力や殺人はしない! エネルギーを吸ってるだけだ!」
クラビは躊躇しやむなく納得した。
「分かった。じゃあ見せてやる。人間はその気になれば飛べるって」
「え⁉」
クラビはボジャックの手を取りジャンプした。
すると地上五メートル、十メートルとぐんぐん上昇した。
「え⁉」
ドリームバクラーはたじろいだ。
ボジャックは驚いた。
「飛んでる」
しかし上昇はぴたりと止まった。
「しまった! 今の俺じゃこれが限界だ」
二人はずだーんと落ちてしまった。
ドリームバクラーは悔しがり逃げた。
「ごめん」
ボジャックは喜んだ。
「そんな事ないよ! すごいよクラビ! それならいつか自由に飛べるようになるまでお前に付き合うぜ! 例え命がかかった戦いでも!」
それからボジャックは足腰を鍛えダイエットし高跳びの練習をした。
高跳びの高さは上がっていった。
しかし年が経つにつれ、次第に人間は飛べないという現実に打ちひしがれて行った。
そのあきらめムードはやがて彼が自己嫌悪していた「孤児院内での中途半端」な立場になった。
ボジャックが十四歳の頃だ。
しかしそこからだった。
現実に空を飛ぶのは難しいと分かったが、剣で強くなり同時に性格を変えようとした。
「流されない、自分の意見をはっきり言う、悪い事を悪いという! 俺は中途半端さより勇気のなさが嫌だったんだ」
剣を積極的に学び卒業した先輩にも教えを乞う様にしてがむしゃらに学んだ。
孤児院非常勤の剣の師匠アズロは聞いた。
「何故強くなりたい?」
「自分を変える為じゃなく、将来は自分の為にも他人の為にも何かを残せる人間になりたいです。そしてどんな困難にも負けたくないです。そしてクラビが勇者として旅立つとき俺はどこまでもサポートします。命を懸けて」




