勇者の真似事
ポートサスは続けた。
「ジェイニーはここで降りてもらう。君の体力ではこの先付いてこれない」
ポートサスの言い方はきつくはあったが、普段より少しだけ情けが感じられた。
気のせいか、と言われる程度の違いかも知れないが。
「……」
皆声をかけられない。
それはポートサスがひどいと言うよりも、クラビ達がやったあの戦いを彼女がとても出来ないだろうと何となく分かっていたからだ。
「わかりました」
ジェイニーは黙ってうなずいた。
ミルダが初めてと言ってよく口を開いた。
「その方がいいわ」
シンバスも初めて口を開いた。
「他の奴らの世話は我々に任せてくれ」
「……」
ポートサスは言う。
「修行が終わったら一直線にアンドレイの所へ行く。ここで皆の帰りを待つんだ」
一直線にか!
もう本番はすぐそこに迫ってるんだ!
そしてポートサスは言った。
「良し、次はボジャックとベルス上がれ」
二人は静かに闘技場に上がった。
「よし、始めろ」
二人はさっさと横方向への動きを見せ、相手の出方を探った。
しかし早く組み合わないと言われそうな恐れがあった。
二人は元々そんなにわだかまりはなかったので特に対抗意識はない。
しかし二人共ポートサス達の真意はまだ分からなかった。
何故こんな事をするのか。
果たして信じていいのか。
この修行で何を得ようと言うのか。
体力と闘志を上げる為なのか。
こんな精神論が役に立つのか。
ボジャックは思った。
だがこの修行に意味がなかろうと必ずこの先に行って見せる。
デュプスを守る為にもまたサブラアイムを救う為にも。
やってやる。
殴り合いはどこか戸惑いとためらいがあった。
それはクラビ達の二戦を見て本当に意味があったのか理解できない思いだったからだ。
相手のパンチを喰らったり避けたりガードしたり、二人共よろよろのらりくらりしていた。
相手を何としても倒そうと言う執念等あるはずがない。
不可解さとむなしさだけだ。
ベルスは思った。
俺は貴族出身だ。
だから皆程根性が座っていない。
だから孤児院では虚勢を張った。
はけ口を探していた。
そして暴れた。
この中でメンタルも体も俺が一番弱い。
だから家に帰ってからは騎士団に入った。
今までの生き方を反省した。
サブラアイムの農民の苦しみは最初は分からなかった。
だから理解し助けようと思った。
そして親からも離れる。
ポートサスは思った。
この修行が終わったら最後の戦いだ。
そうしなければ戦争になる。
一方ボジャックは殴り合いながら思った。
相手を倒す執念などお互いないが。
あいつの言ってる事明らかにおかしい。
こんなに精神論にこだわるのどうかしてる。
もし何らかの狙いがあるのだとしたら。
でも、アンドレイ達を倒し、クラビが王になれば全て報われるのか。
よし、俺も勇者の真似事位して見せる!
「うおおお!」
何とボジャックは手から弱めの「勇者の魂の砲撃」を出して見せた。
これはベルスに当たらなかった。
俺は神に選ばれてないが努力で近づいて見せる。




