極限の戦い二
二人は力を使い果たしどっさりと倒れた。
皆、もう良いとでも言いたげな絶望的、沈痛な面持ちであった。
特にマリーディアは「もう立たないで」と祈っていた。
十秒経っても二人共仰向けで起き上がってこない。
しかし無情な言葉が切り裂くように響いた。
「続けろ」
ポートサスが言った。
あまりの非情さに皆騒然となった。
ボジャックは言った。
「そ、そんな、もう立てる訳」
「嫌、まだやれる。続けろ」
ポートサスは怒鳴った。
「二人共立て!」
やがてクラビが先に、もぞもぞ反応してぴくぴく動き出した。
「ぐ、うう」
非情な言葉を浴びせた。
「何をやっている、演技するならさっさと立て」
聞こえたのか聞こえないのか殴られ血の出た口を拭いクラビはゆっくりと立った。
マークレイも続いて立った。
「よし、続けろ」
「はあ、はあ」
クラビは弱弱しくパンチを出した。
マークレイも弱弱しくガードした。
「何をやっている! 真面目にやれ!」
怒号が響く。
「う、うおおお!」
力を振り絞るクラビ。
またラリーは何発か続いた。
しかし、素直なクラビも疑問を感じずにはいられなかった。
多分、体力と精神を極限まで鍛えようって事なんだろう。
でも何で倒れそうになってまで仲間と殴り続けなきゃいけないんだ。
説明もないし。
わからない、わからないけど、でも悪い部分だけじゃなく、少しだけ闘争心が前に出た気がする。
全開状態だ。
俺は自分でも思うけど甘くて止めを躊躇したりなあなあにしたりしてたから。
でも今はマークレイが「倒すべき敵」の様に見える。
見えて来た。
何か今まで分からなかった物を分からせる為なのか。
でも、目がかすむ。そもそももう立ってられないのにマークレイをこれ以上攻撃する理由がない。
マークレイは思った。
しかしクラビとんでもなく成長したな。
初めて会った時はなよなよで誰が見ても俺の方が強かったけど。
それがいつの間にか俺が追う側になってコンプレックスも出来た。
だけど俺もこれ以上はあいつを殴れない。
殴らなきゃいけない理由がない。
俺は過去を捨てて未来に向け立派な生き方をするんだ。
「勇者」の一人として。
クラビ達皆はそんなに俺の過去をとやかく言わないだろう。
ならば皆の期待に応えクラビにも変な感情は持たない。
持たない事が戦いなんだ。
マリーディアの事があっても。
そして1度俺を捨てて連れ戻した貴族の親の事も。
「よし、ここから素手じゃなく超能力で戦え」
「え?」
「勇者の魂とかを使ってだ」
「そんな事をしたら死んでしまいます!」
マリーディアは猛然と止めた。
「死んだらそれまでだったというだけだ」
クラビは射出型光剣・小刀型を出した。
マークレイも同時に出した。
光のナイフが飛び、顔や体を切り裂く。
そして射出型光剣をお互い出し切りあいを始めた。
何かが宿った様な凄まじいぶつかり合い。
そして隙を突きクラビは剣をマークレイの心臓に突き立てた。
クラビの動きが止まった。
「もう、止めます」
「……」
「これ以上仲間を殴る理由がないからです。もし駄目なら俺は降ります。貴方がいくら偉い神官でも」
「良いのか? お前の他の仲間も帰ってもらう事になるぞ」
「構いません。皆俺を信じてついて来てくれるはずです」
「……わかった。では制限時間を後3分にしよう。その間に勝負を付けろ。出来なければ全員帰ってもらう」
「……」
両者は手に勇者の魂を集めた。
そして向かい合い睨み合う。
そして両者がほぼ同時に飛び掛かった。
マークレイが叫んだ。
「光閃掌!」
光閃掌がクラビの顔を襲う。
さらに左手でも繰り出し両腕で顔を襲った。
「クラビ!」
「クラビ!」
クラビは倒れそうになる中こらえ、右腕を繰り出した。
勇者の魂を帯びた光る拳がマークレイの顔を捕らえた。
渾身の一撃だった。
マークレイは黙って倒れた。
クラビは膝を付いた。
ポートサスは言う。
「よし、勝負あったな」
そして二人は十分倒れて休み肩を借りて退場した。
ミッシェルはポートサスを見ていた。
あの男、一体何でこんな事をやらせたんだ……
「よし、次はゾゾとマリーディア上がれ」
「ええ?」
ゾゾは驚いた。
「女性と殴り合い⁉ しかもクラビさんの恋人を⁉」
マリーディアはかああと赤くなった。




