スタグラーの疑念
回復したクラビ達は町を出て出発した。
そしてサブラアイムに続く道をこつこつ歩を進めた。
三十分程歩くと前方から馬のいななく声と蹄の音が聞こえてくる。
一頭や二頭ではない。
「何だ?」
それは明らかに騎士の軍勢らしき集団だった。
「あの鎧、サブラアイムのよ!」
「くっ!」
「真ん中のリーダーらしき男、顔を覆う鉄仮面を付けてる。誰か分からないけど新しい幹部みたいだな」
皆は身構えた。
すると騎馬軍はスピードを落とした。
敵意が下がった様な雰囲気だった。
そして中央の鉄仮面の男は妙に礼儀正しく馬を降りゆっくりとクラビに向かって歩を進めた。
意外な雰囲気に皆の臨戦態勢が少し解けた。
そして男は仮面を脱いだ。
「えっ⁉」
「久しぶりだね、クラビ君」
「スタグラー⁉」
「い、一体? この軍勢は?」
「アンドレイ様の命により、君達を殺しに来た」
「えっ?」
「どう言う事だ」
「あんた俺達と敵対してるんじゃなく、かつアンドレイを裏切ったんだろ」
「ふっ、私の同僚にジョルジュと言う参謀がいてうっかり居場所をかぎつけられたのだ。彼はアンドレイ様に再度忠誠を誓うと言えば取りなしてやると言い、私はアンドレイ様に頭を下げ以前より好待遇となり迎えられたのだ」
「そんな!」
「貴方は褒められる事じゃないけどアンドレイの配下じゃなかった。ガト教信者の為に生きてるって」
「気が変わったのだよ。アンドレイ様の恐ろしさは私が良く知っている。命が惜しくなったのさ」
クラビはよく分からない、信じにくい目で見ていた。
「さてと君達にはここで死んでもらう。クラビ君の相手は私がする。他の大勢は彼ら騎士団がする」
馬に乗った騎士は十四人、弓騎兵は八人、馬に乗った鎧はない兵士が二十人いる。
「サブラアイムの鎧を着てない人が二十人いるけどあれは?」
「君達には関係ない」
「ちょっと、何か俺達をだまくらかしてんじゃ」
「証拠を見たいかな?」
と言い弓兵はジェイニー目掛け矢を放った。
一本の矢がジェイニーの肩に刺さった。
「ジェイニー!」
ボジャックは駆け寄った。
「だ、大丈夫、貴方はクラビと二人でスタグラーと戦って。勇者であるクラビにもしもの事があったら……」
「わ、わかった」
ボジャックはクラビの横に立った。
「二人で相手させてもらうぜ」
「構わんよ」
クラビはまだ信じ切れない。
「どの位成長したか見てやろう」
「今のクラビはあんたが思っているよりずっと強いぜ。俺達もな」
「よし、お前達は他の者をやれ、殺してしまえ」
「殺してしまえって……本当に信念を変えたのか? お母さんや他の仲間の仇だって言ってたのに」
ボジャックは言った。
「失望したぜ。あんたは大義があったから簡単に信念を曲げない、ある意味尊敬できる武人だと思ってたが」
「クラビ、お前迷ってるのか? ならば俺がやる」
そしてボジャックが相手をする事に。
余裕のあるスタグレーに対し、勢いよく切り込むボジャック。
剣がぶつかり合う。
一見互角だ。
再度右斜め三十八度で剣がぶつかり、今度は同右斜め七十度でぶつかる。
ボジャックは睨みながらもスタグラーの本音を見極めようとしていた。
そしてボジャックはバク転して距離を取った。
小手調べから少し本気になった。
「うおおお!」
まだ完全でないがかなり気合が入っていた。
ジェイニーは強力な火炎魔法を最初から出し中心になって攻めた。
ゾゾとシヴァがガードに入る。
ジェイニーは言う。
「ゾゾ君、シヴァ、もしもの時の為クラビの後ろに入って」
最初から飛ばすジェイニー。
火炎がすごく騎士達は足止めされた。
「あの女を狙え」
しかしジェイニー目掛け放たれた矢はマリーディアが防いだ。
ボジャックは不利ではないがクラビと一旦交代した。
そして二人はぶつかりあった。
何か本音を隠してそうだな。
クラビはあまり攻め込まなかった。
ボジャックは横から新奥義で切りつける。
「うおおお!」
何とかスタグレーは防いだが手がしびれた。
「アンタはクラビを神にしたかったんじゃないんですか!」
クラビも切り込んだ。
少し迷いはある。
スタグラーは強くなっていた。
クラビ、ボジャックは肩などを切られた。
「本当に本気だ」
一旦ボジャックは離れクラビは前に出た。
今度は躊躇せず攻め込む。
腕を上げたクラビにスタグラーは舌をまいた。
クラビは左斜め十二度に袈裟切り。左下に刺突。
スタグラーの表情が変わった。
「食らえ!」
クラビはアンカーを射出した。
上手くかわし、二本目を剣の閃光で防ぎ、3本目は剣で弾いた。
「私から行くぞ」
最近クラビが覚えた剣の閃光を撃って来る。
クラビは閃光を撃ち返し相殺した。
そのラリーが三発続くと、スタグラーは射出型聖剣を放った。
「何⁉」
クラビも寸でで撃ち返し正面で相殺させた。
ゾゾもシヴァも多勢に無勢で苦しんだ。
「勇者の魂放の放出」
無数の光弾がスタグラーを襲い体勢が崩れた。
クラビはアンカーの先をドラゴンの顔に変形させ火炎を放った。
これが直撃した。
「くっ」
スタグラーは剣をしまおうとした。
「大分強くなったな、私もガト神に祈り大きな力を得たが」
「え?」
「さっきのは嘘だ。私はアンドレイの命でなく、君達の力を確かめに来たのだ。そこの騎士は私に同意したサブラアイムを抜けた騎士と兵役志願したガト教信者だ」
「じ、じゃあ」
「この強さならアンドレイを倒せるかもしれん。その後は君にガト神になってもらう。君には避けられない運命だ」
ボジャックは言った
「待ってくれ! アンドレイの手下なのは嘘でもクラビを利用したり復讐は止めてないんだろ?」
「そうだ、でもそれが許せないと言うならクラビ以外の君達は消すかも知れん」
と言い後ろを向き去り騎士を引き上げさせた。
クラビは言った。
「俺達と一緒に戦う事はないんですか」
振り向いて微笑んだスタグラーはまた前を向き去った。




