目覚める勇者の記憶 奥義を破れ
クラビは冥界降下掌をくらっている最中ながら技を見切り全身を襲うエネルギーを抜けようと必死だった。
しかし落ちついてもいる
「あいつの、手を振り上げる動作からものすごい上向きのエネルギーの流れ、それを見切って抜けて見せる!」
見えないエネルギーで体を包み滝の逆の上向きの凄まじい流れで弾き飛ばす冥界降下掌。
クラビは抜けようとしていた。
「見切れる! 脱出できる!」
クラビは全身に振動を受けながらほんの僅かなエネルギーの隙間を決死の思いで見切りそれを引っ張り広げて抜け出ようとした。
見切る力が覚醒した。
この前とは全く違う。
冥界降下掌は相手が上空に舞い上がるまで若干一秒だ。
その僅か半秒間に技を見切って見せたのだ。
これはクラビの記憶と力の一部覚醒による部分が大きい。
目つきも人格も一部変わった。
「うおお!」
クラビはついに僅か一秒弱の間に技を見切り脱出した。
普通の人間なら認識自体不可能だ。
そして、投げ出された空中からそのまま降下して反撃しようとした。
ほんの僅かにキハエルに隙が出来たと思われた、そう見えた。
しかし、次の瞬間だった。
クラビの体は先程と真逆の下に落ちる形の、正に激しい滝の様なとてつもないエネルギーの流れで激しく落とされた。
皆、僅かな一瞬だが何が起きたのか理解しようとした。
「何あれ⁉」
「上に突き上げる技なのに逆に下向きのエネルギーで叩きつけられた?」
「クラビは技を見切ったんじゃないのか⁉」
クラビは冥界降下掌と真逆の「下に叩きつける技」を受けて地上に叩きつけられた。
見切って脱出したほんのすぐ後に。
クラビは頭をぶつけ血を流した。
キハエルは表情を変えず言った。
「冥界降下掌・奈落落とし」
「え⁉」
皆何の事か分からなかった。
キハエルは説明した。
「クラビは確かに上に跳ね上げる型の冥界降下掌を見切り脱出した。見事だ、それは褒めてやる。だが私は上空に舞い上がった相手を真逆の下側へのエネルギーの流れで叩き落とす『奈落落とし』と言う冥界降下掌のもう一つの型を瞬時に食らわせたのだ」
「何だって⁉ 降下掌に様々な型があるのか⁉」
「しかも冥界降下掌はエネルギーの流れの中にいるだけで大きなダメージを受ける。つまり二発分食ったのだ」
「そんな!」
「まだだ……!」
しかしクラビは必死に立ち上がろうとする。
「今度こそ、あんたの技破って見せる……!」
誰か助けようとしたかったが皆恐ろしいクラビの精神力に恐れを抱き何も言えなかった。
「前も言ったがあんたはその技さえなければ大して強くない。技を破れば勝てる!」
それを見てもキハエルは動揺しなかった。
半ば呆れていた。
そして「今度こそ」と言う気持ちを込め再度手を振り上げた。
それを食らったクラビは吹き飛ばされた。
キハエルは構えた。
そして待ち構えた。
「これで終わりだ。跳ね上がったところを逆の流れで叩き落とし、二発分のダメージを与える」
上空のクラビに向け「奈落落とし」を放った。
クラビの体は一転、真下に向け落とされそうになった。
その僅かな、ほんの僅かな一瞬にクラビに声が聞こえた。
「もう一度技を見切るんだ」
「誰、いや俺の声? 前世の俺の声か」
声は続く。
「二つ合わせた技の威力に逆らう事は出来ん、そんな事をしたら死んでしまう」
「ではどうすれば?」
「流れに乗るんだ。今度は下向けの」
一瞬の内にクラビの体は捕らえられ上空から叩きつけられそうになった。
クラビは指示通り、下向きの流れに上手く乗った。
抵抗をせず。
そして身を任せた。
すると落ちるエネルギーで加速すると同時に渦から上手く抜けられた。
「何⁉」
キハエルは恐らく初めてクラビの前で動揺した。
クラビは休スピードで落ちてきた。
そして構えた。
「勇者の魂・怒りの鉄拳!」
動揺してよけ損なったキハエルの顔をクラビの渾身の拳が襲う。
皆騒然となった。
クラビは着地した。
キハエルは膝から崩れた。
さらに口を切り流れる血をぬぐった。
「まさか、冥界降下掌、しかも二重かけを破るとは。うっ、ここは退いてやる」
キハエルは姿を消した。
皆ぽかんとした後気づいて動けないクラビに駆け寄った。
クラビは声を絞り出した。
「やっと壁を越えられた。俺あいつの事本当は怖かったんだ。でも前世の俺が力を貸してくれた」
そう言ってクラビは少し寝た。




