蘇った恐怖
先を急ぐ一行。
しかし、道を塞ぐものは現れる。
しかも最悪のタイミングで最悪な相手が出てしまった。
キハエルⅡ世はまるで瞬間的に移動したように空から現れ降りた。
「……!」
パーティにすさまじい戦慄が走る。
一気に恐怖が蘇る。
それを知っているかのようにキハエルは髪を上げ微笑んだ。
「久しぶりだね」
「ああ……!」
襲い来る絶望。
あの時かつてない恐怖に包まれていた事。
そしてキハエルの方から一行に一方的に話す。
「ここから先へは行けんぞ。くっくっく、あの時以来か。この前負けた時以来。いや負けたというより箸にも棒にもかからず触れる事も出来なかったが」
話しているだけで記憶と共に一行に凄まじい圧が襲ってくる。
あんな強い奴がこの世にいるのかと感じたボジャックとゾゾ。
しかし、そんな中クラビは汗を流しながら勇気を出し右足をキハエルに向け一歩踏み出した。
アイムは思った。
アンドレイに健闘したけど負けた自信の落ちた状態で戦わなきゃならないなんて。
心の準備も全くできてない。
ボジャックは言った。
「今度こそ勝って見せる!」
キハエルは微笑んだ。
「声が震えているぞボジャックとやら」
「くっ!」
ボジャックは精一杯の強がりを見透かされ一気に勇気が落ちてしまった。
ボジャック、ゾゾは肌で強さを知っているため余計恐怖があり強がりたくても立って睨む位が精一杯だった。
アイムは言った。
「デュプス神様は?」
「消えたよ」
アイムは言った。
「逃げるしか」
しかしクラビは意外な事をいつもと違う口調で言った。
「逃げる? 逃げるかよ」
そしてもう一歩クラビは足を踏み出した。
「俺が一人で相手する」
「えっ⁉」
皆流石に驚いた。
ボジャックは聞いた。
「何故だ」
クラビは答えた。静かに。
「ここであいつに一人で勝たないと勇者って名乗れなくなる感じがする」
「クラビ……」
マリーディアはさすがに心配した。
クラビは答えた。
「ごめん」
マリーディアは複雑でどう答えていいか分からなかった。
「わ、私に謝らなくても……」
キハエルはそれを見て相変わらず微笑んでいる。
クラビが一人で戦うと言う事に動揺はみじんもない。
そして嫌味を言った。
「その方がいい。他の奴らはどうせ恐怖で腰を抜かすか逃げるかだろう」
「くっ!」
ボジャック達は悔しく、言い返したかった。
しかし言い返せなくもどかしかった。
握った拳に血が滲みそうな悔しさだった。
キハエルは言った。
「仲間をかばっているのか。ここで全滅するわけに行かないと。ただ仮にお前が負けても他のメンバーは逃がさないがね」
しかしクラビは少し苦しそうだが毅然と言った。
「いや、仲間をかばう意味もあるけど、俺はあんたに勝ちたいんだ、負けたくないんだ」
「ふん」
キハエルはクラビの意が全部は分からなかった。
そして遂に対峙の時を迎えた。
「行くぞ」
クラビは構えた。
ところが、クラビが飛び掛かる前にキハエルは手をさらりと上に挙げた。
冥界降下掌を受けクラビは前回同様遥か上空に吹き飛ばされた。
ボジャック達は叫んだ。
「あっ!」
「またあの技だっ!」
クラビは跳ね上げられた上空から落ち叩きつけられた。
「くっ!」
一応だがまだ余力はあった。
キハエルは少しだけ感心した。
「ほう、まだ立てるか。神の造った人間はこの技に耐性があるようだな」
ボジャックは言った。
「あの技威力もとんでもないが技の性質が分からない! 物理か魔術なのか」
しかしクラビは言った。
「あんたは、その技がなければ大して強くない」
絞り出すようだが、強がりでない感じがあった。
キハエルには強がりかはったりにしか聞こえなかった。
「ふん」
しかしクラビは大きな声ではないが意思を込め言った。
目も放さず。
「あんたの技を破って見せる」
そしてまたキハエルは冥界降下掌を放った。
ほとんど力も込めず。
クラビは防げず吹き飛ばされまた落ちた。
皆の絶望感がさらに増した。
キハエルは全く疲れていない。
「正直に言えば真に目覚めた君の力も見てみたいが私は早い内に芽を摘む考えなんでね。それと、この間アンドレイ様にそこそこいい勝負をしたからと言って上手く行くと思わんほうがいいぞ。私はアンドレイ様より単純な実力は上だ」
皆叫んだ。
「何⁉」
「おっと聞こえるとまずいので通信機をオフにしておくが、アンドレイ様は魔界の王族である為トップでいられるのだ。私は二番とは言え単純な力は私の方が上だ」
「何⁉」
皆の恐怖が一気に増した。
しかしクラビは考えを曲げない。
「それでも、勝って見せる」
すぐに三発目の冥界降下掌を繰り出したキハエル。
クラビは避ける事は出来なかった。
しかし、今度は何かが違った。
そして目つきが変わった。
アイムは言った。
「クラビが前世の力を⁉」
クラビは見切ろうとする。
この技の性質が見えたぞ。
まず透明に見える黒い瘴気の塊で相手を包み込んでダメージを与え、そこから滝の逆の様な凄まじい同じ黒のエネルギーを上方に向けて相手を吹き飛ばして圧を与え続けるんだ。
一見投げ技にも見える。
でもそうじゃない。邪悪な瘴気で相手を捕らえかつダメージを与えながら吹き飛ばしているんだ。
その一連の流れがあまりに速くて見切れなかったんだ。
でも今度は違う!
クラビは空中で止まった。
「何⁉」
キハエルはデュプス神が現れた時以来に動揺した。




