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【完結】ヒメオモイ。  作者: けんたろー
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年下に少しだけ甘えてみる

姫乃と別れた僕は彼女の家の近くにある駄菓子屋を通る。

僕は駄菓子屋の建物に目をやる。

もう夜なので当然ながら開いてはいない。

「懐かしいな。ここで僕は彼女と....」

そういいかけたが、思い出すのをやめた。

彼女はもうあの時のことは覚えていない。なかったことになっているんだ。きっと。

駄菓子屋の懐かしい匂いに、自然と涙が出そうになる。

何一つ変わってない。あの頃から。店の雰囲気も、匂いも、そして僕の気持ちも....。

しかし、彼女は変わった。

きっと彼が彼女を変えたんだな。


僕はしばらくして携帯を取り出し、光輝く満月を写真におさめた。

今日は本当に、月がきれいだ。


私が家に帰った瞬間、携帯の通知が来ていたことに気づく。

知らないメールアドレス...。誰だ...。

!!

そこには私がずっと楽しみにしていたことだった。

『上島様。この度はLAIGAの握手会の抽選にご応募してくださり、ありがとうございました。抽選の結果、上島様は見事当選しました。おめでとうございます。つきましては........』 

メールの内容を理解し、静かに携帯の電源を消す。私は息を大きく吸いこみ、心の中の感情をすべて外に出した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!きたぁぁぁ!!」

私は数ヶ月前、推しの握手会に応募していたのだ。中学の時から『今回こそは...』と願いながらずっと応募し続けていたが、一回も当たらなかった。今回は「当たらないけど、一応応募しておこう」程度で応募したら本当に当たったのだ。

やはり、期待しすぎないようにしておくと意外と当たったりするものだ。私は初めて行ける握手会が楽しみで仕方がなかった。

もう一度携帯を開き、先程のメールを見る。私の見違えではなかった。さっきと全く同じ内容だった。目を何回も擦っても変わらない。どうやら本当に当選したようだ。

「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

私は力強くガッツポーズをし、大声で叫んだ。もはや、自分が女ということも忘れているぐらいに。私は男のように叫び続けた。これぞ限界ヲタクの図である。こんな姿、家族以外に見られたら私は外に出れなくなってしまう。

「ちょっと姫乃!あんたちょっとうるさい!!」

リビングにいる母の声だった。私は「ごめん、お母さん!」といって、先ほどの自分を思いだし急に恥ずかしくなる。

「ごほん」と咳払いをし、何事もなかったかのように私は自分の部屋へと向かった。



「さっきからなんだよ、姫乃。」

朝。いつものように泉谷と一緒に登校しているとき彼が私の顔を覗きこむ。あの日からだろうか。なんだか彼の距離が様に近くなったような気がする。それに私のこと『姫乃』って名前呼びだし...。

「な、なに?私顔にご飯粒ついてる?」

私は慌てて一歩下がり、口元を触る。

「ばーか。そうじゃねぇよ。気づいてないなら言ってやるけど、お前さっきからずっとにやにやしてるぞ。見ていて気持ち悪い。」

むっ。そんな言い方しなくていいじゃん。だって握手会に当選したんだよ?自然とニヤニヤしちゃうの当たり前じゃん。私の思っていることがばれたのか、彼は「はいはい」と苦笑する。

「そういえば、心音ちゃんからの差し入れ食べたの??」

私はキラキラと目を輝かせ、彼を見る。泉谷は、?の顔している。

「食べたけど。なんで知ってんだよ。」

私はさらに目を輝かせる。

心音ちゃんー!泉谷、食べてくれたって!私は心のなかで親指をたてる。

彼女は料理部に所属している。さすが心音ちゃんだ。部活までも女の子らしい。噂ではお菓子作り得意と聞く。今度、心音ちゃんの作ったの食べてみたいなぁ。

「心音ちゃんかわいいよね!何よりも女の子らしいし!」

私はチラチラと泉谷の顔色を伺う。

「お前さ、さっきからなに?」

彼は仁間にシワを寄せている。怒っているようだった。

「星川の話ばっかしてさ。お前もしかして俺と星川くっつけさせたいわけ?」

「そ、そんなことあるわけないよ!!ただ心音ちゃんのいい人だなーって。」

....そんなことあるけど。

「どっちでもいいけどさ、そんなことしてても無駄だからな。」

「え?」 

「それに、星川が俺のことどう思ってるかぐらいすぐわかったよ。あと、お前に俺はなんとしてでも惚れさせてやる。」

歩きながら彼はニヤリとする。いつも学校いくときにすれ違う老夫婦に、挨拶をしてから私は彼に言葉を発した。

「そんなことあり得ないね。私は絶対に泉谷のこと好きにはならない。この関係のままだね。きっと」

私は彼と同じような表情をした。

「ねぇ見て!あの二人!泉谷くん、告白成功したのかな?」

声の方向に振り向くと同じクラスの女子生徒たちだった。

げ。そうだった。学校に近づいてきたから、同じ学校の人が多くなってきたみたい。まずい、どうしよう。仲の良い友達っていっても通じないのかな。

「お、おい!あれ見ろよ。今日も一緒に登校してるぜ!お似合いなカップルだなぁ。」

聞いたことのない声がする。顔を見ると、なにやら他クラスの生徒のようだった。やばい。違うクラスにまで広まっちゃってるの。ここから学校に行くだけなので生徒はどんどん多くなるだろう。

しょうがない。泉谷をおいていっていくわけには行かないからなるべく彼と離れよう。

私はさりげなく彼との間隔をあけ、目を合わせないようにする。

彼は周りの人をチラチラ見ながら、一回舌打ちした。

「仕方ねぇな。」

彼は即座に私の手を引っ張り手を握ってきた。

「ち、ちょっと泉谷ってば!離してよ!」 

「嫌だ。俺は絶対に離さない。」

私は必死に彼の手を振り払おうとする。だって付き合ってないのに手なんて握ったら心音ちゃんがかわいそうじゃん...。だが泉谷の握力にはかなわなかった。

「言っただろ?俺はなんとしてでもお前を惚れさせてやるって。」

彼はニヤニヤしながら私の顔色を伺う。私はなんといったら良いのかわからなかった。



「おはよーん姫乃ちゃん」

「姫乃!」

「うえじまん、おはよー!」

登校するといつも私のもとによってくる三人が話しかける。

私はおはようといいながら鞄を横にかける。

「彼氏との登校どうだったのよ?恥ずかしかった??」

三人の一人である、ちーちゃんがニヤニヤしながら私の肩をつっつく。

彼女は情報通で、特に恋愛は異常なぐらい敏感である。知らない情報はないぐらいだ。

しつこいくらい私に問いただす。

「だから彼氏じゃないってば。」

私は苦笑する。

ホームルームの始まりを知らせるチャイムがなり、みんな慌てて自分の席へと急ぐ。

前にに泉谷が座っている。私は、わざと見ないように黒板の一点を見続けていた。



放課後になった。私は帰宅部なのでチャイムがなった瞬間、教室を飛び出し一分でも早く家に帰り、推しを眺めるのである。

何となく携帯の電源をつけ、Twitterを開く。そして私は目を丸くした。

なんとずっと楽しみしていたケーキ屋さんが今日オープンする日だったのだ。そして数量限定苺5%増量、とちおとめづくしミニホールケーキが売り出すみたいだった。

私は慌ててそのケーキ屋さんの公式アカウントをフォローし、詳細を確認する。

写真付きで詳しく説明が書かれていた。たくさんの苺がキラキラと光っているように見え、私は思わず目をつむる。

私は苺のケーキが大の好物なのだ。これは逃さない訳にはいかない。数量限定で、値段もお手頃なのですぐ売れてしまうだろう。

その時、泉谷が私の机に近づいてくる。

「姫乃。今日俺部活あるから先帰っててくれ。」

彼の言葉に私はすぐ話し出す。

「ちょうど良かった!私急用あるの忘れてたの!じゃまた!」

チャイムがなると、閉まっていた教室のドアを勢いよく開け、全速力で走り出す。泉谷を初めとしたクラスメイトは「なんだろう」と首をかしげていた。

私は廊下にいるたくさんの生徒をぶつからないように器用に避け、店へ向かった。


新しくできたケーキ屋さんは、ここから電車で2駅。まだ売り切れてないといいけど。

私は電車で、輝く苺ケーキの写真を再度見て、ニヤニヤしながら駅につくのを待った。パスモを走りながら押し、改札をでた。

えっと。駅から10分。隣には雑貨屋simonがある。。

私はGoogleマップを見ながら、目的地へと急ぐ。ここの駅の周辺は本当に紛らわしい。あんまり行ったことがないからということもあるかもしれないが、いくつもの曲がり角があったり、道路は狭かったり、探すのに一苦労だ。そして、人通りも激しいので店も見つけにくい。

しばらくキョロキョロと辺りを見渡していると、なにやら行列ができている店があった。

恐る恐る近づくと、その店の隣にはGoogleマップと同じ雑貨屋simonがあった。

ここだ。

確信した私は素早く店に並ぶ。当たり前だが女性客ばかりだ。小さい子供から私と同じくらいの人、主婦の方、年齢の層幅広かった。

思ったより並んでるな。

私は心のなかで軽くため息をはく。買えるかな。もし、私の目の間で売り切れになったらどうしよう。

考えても無駄なことなのに、ついもしものことを考えてしまう。

行列のせいで前も見えないし、あとどれぐらい残っているのか検討もつかない。Twitterに最新の情報がのっているかもしれない。私は自分の番がまだまだ来ないことを確認し、携帯でTwitterを開く。

その店の名前がトレンド入りしており、『無事買えた!良かった♡』という投稿をしている女性の投稿を目にする。買えたのか。いいなぁ。顔も名前も知らない人に私はこっそり嫉妬をする。

まだかな。私は体を横に傾ける。

すると、私の5つ前くらいの客にケーキを渡したあと、「数量限定のケーキは無事完売しました。ありがとうございました。」という店員の声が鳴り響く。

うっそ。

買えなかった。

私の周りの客は、残念そうにため息をついて下を向きながらとぼとぼ帰っていった。小さい子供は母親にどうしてもほしいなどとくずくずいってる子もいた。私も帰ろっと。仕方ないといえば仕方ない。だって知るのも遅かったし、駅も3つ先だったから時間もかかった訳だし。

私は次の電車の時間を確認し、駅へ向かった。

「せ、先輩!!」

聞き覚えのある声に私は振りかえる。ツッキーだった。そして彼の右手にはケーキらしき箱を持っていた。息切れをしながら、私に近づく。

「僕、一人じゃ食べれないんでよかったら一緒に食べませんか?」

「一緒ってどうやって...。」

戸惑う私に彼は笑顔で店を指差した。

「あそこで切ってもらいましょう!」

と言われ、私はお言葉に甘えてみることにした。


私達は店に入り、席を確保する。

「私、ちょっとお手洗い行ってくるね。」

私の言葉に彼は「了解」と言い、なにやら店員さんを呼んでいる様子だった。


私が帰ってくると既に苺づくしミニホールケーキは綺麗に真っ二つに割れていた。さすがミニだけあって普通のホールケーキよりは遥かに小さく、おやつにしてはよい量だった。

「はい。先輩。どうぞ。」

彼は二つに割れたうちの1つを私に差し出す。

「あ、あのツッキー。ありがとう。」

私はケーキを見ながら、彼にお礼をいう。

「はい。このケーキ屋さん、僕も楽しみにしてたんです。誕生日ケーキだけじゃなくてこういうおやつに適している量のミニホールケーキ、買ってみたかったんです。」

私はたくさんのっている苺に目を輝かせる。

「美味しそうだなぁ。食べるのもったいない。」

「ですね。味わって食べましょうか。」

そういって私達はフォークを持ち、食べ始める。

大きめの苺を口に運ぶ。

「おいしい!!」

本当はおいしいの四文字じゃ収まらないぐらい、おいしい。ブランドイチゴだけあり、甘く、口のなかで汁が溢れだし思わず頬が落ちそうになる。クリームも濃厚で、スポンジもふわふわで笑顔が隠せない。

「先輩。昔から美味しそうに食べますよね。僕、そういう先輩の表情見るの本当に好きです。」

彼は私の目をじっと見てそういう。その表情に思わずドキッとしてしまう。

「好き」という言葉にいちいち反応してしまう。泉谷にそういわれたせいかな。

私達以外の客も、美味しそうにゆっくりと味わいながら楽しんでいる。

にぎやかな声が店中に響き渡る。客は笑顔で溢れており、見ている店員の一人がニコニコしながら見守っている。良い雰囲気のお店だな。ここに来ると癒される。幸せな気持ちになるな。

来て良かった。

「先輩。クリームついてますよ。」

気持ちに浸っていると彼が私を見つめ、口元を指差す。

「ここ?」

「ここですよ。」

「ここら辺?」

「違います。逆です。」

彼は笑いながら指を差す。必死にクリームをとろうとしている私を笑うなんてなんと失礼な。

なかなかとれなくてイライラしていると、ツッキーがティッシュを持ち、私の顔に近づける。

「しょうがないですね。ほら、じっとしていてください。」

ツッキーの顔が近くなる。もう子供のような彼はいない。私のなかではいつまでも、弟のようなかわいらしいツッキーなのにそんな面影は見えない。ティッシュが私の口元に触れる。

「わっ!!ごめんなさい!!もうとれましたよっ!!」

彼は慌てながら、後ろを向く。

「大丈夫だよ。ありがとう、ツッキー。」 

私は笑顔でそう話した。



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