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【完結】ヒメオモイ。  作者: けんたろー
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一途な彼女に対する私

学校の帰り道。私は一人で早歩きで帰る。

どうしよう。このまま直行で帰ったら同じ高校の人多いから今日のこと色々言われそうだな。

怖くなった私は、いつもとは逆方向に行き、ショッピングモールへと向かった。

ここから近いショッピングモールとはいっても自転車で15分、歩いて30分くらいかかる場所にある。しかも、行きは上り坂が多いので少し歩くだけて息切れしてしまう。

私は一度予定をたてたら崩したくないタイプだ。だから、たとえその前にどんなことがあっても予定通りにするため最善をつくしている。

なので今から沙緒理さんのライブの参戦服を買いに行くのだ。私は木についているセミの脱け殻を見つけた。

「もう夏の始まりなんだな。」

どこからか遠くからアブラゼミのなく声が聞こえる。

....泉谷が私のことを恋愛として「すき」だって今日..。

ああもう!!自分の体温が徐々に高くなっていくのを感じる。

これはきっと夏のせい。絶対に。それと、坂道のせいで疲れただけ。そう、そうに違いない。

私はバッグから水筒を取り出し、一口飲んでから再び歩き出した。


ショッピングモールについた。この時間は家族連れというより高校生や専業主婦っぽい奥様方の割合がたかい。

ショッピングモールはあり得ないぐらい広く、最初は迷いすぎて家に帰れるかどうか心配だった時もあったが、もう今は二週間に一回程度で行っている。まぁ常連のようなものだ。なのでどの店にどんなもの売り出しているのか、値段、どんな人向けに販売しているのかだいたいわかる。私はお気に入りのいつもの店へ向かった。

この店は高校生女子をターゲットにしている店だ。服だけではなく、バッグ、アクセサリー、時計までも売っている。

女の子の夢がすべて叶ってほしいということからこのブランドは『夢願望』と名付けられている。さすがその名前もあってかわいらしい服が多い。ガーリーという感じだ。リボン、フリル、ピンクなどの服が比較的多めである。

そしてこの店は商品だけでなく雰囲気すべてが良い。音楽も流行りのかわいらしい音楽、匂いもまるでお花畑にいるようなふわふわする匂い。なにもかも最高だ。

私は自分の身長にあう服を探し鏡の前で服をあてる。

すると鏡からなにやら視線を感じる。振り向いてみると本当に私を見ていた。服を見ると、私と同じ制服を着ている。そして見たことがある顔だった。

なんと、今日私が泉谷に告白されたときに寂しそうな目を向けていた星川心音だった。

目が合い、彼女は慌てて話始める。

「こ、こんにちは。上島さん。こんなところで会うなんて奇遇だね。」

ボブヘアーの小動物系女子だ。おしとやかな性格で男慣れしていない彼女は男女関係なく人気がある。よく顔を赤くするのが特徴だ。声もダントツで可愛らしく思わず頭を撫でたくなるようなかわいさがある。

相変わらず私の前でも体をもじもじさせている。

「心音ちゃん、買い物?」 

「実はそうなの。ここの店かわいいよね。私もお気に入り。」 

えへへと笑う、ハムスターのような雰囲気の彼女。同性の私でも惚れそうになるくらいだ。

「あ、上島さんって....大和くんの試合やっぱり見に行くの?」

「え?」

急に泉谷の名前を出してくるので私は驚きが隠せない。

彼女は慌てはじて目をキョロキョロさせる。

「私....大和くんの試合見に行こうと思ってて。今日はそのためにお洋服を買いに来たの。高1の頃からずっと追いかけてて。全然振り向いてくれなかったんだけど。」

しゅんと小さくなる彼女に私は頭をポンポンと優しくたたく。

「そんなことないよ。泉谷がこんなかわいい子ほっとくわけないと思うけどなぁ。」

「....変な冗談やめてよ!大和くんはあなたがすきなんだよ!!」

ムッとする彼女。ほっぺをぷくっと膨らませている。そこも愛しい。だが、私がなんだか悪役みたいになり目をそらしてしまう。

「ご、ごめんね........」

「あ、私こそごめん!ついかっとなっちゃって...。それで上島さんは大和くのと試合...。」

彼女がいいかけた瞬間、私は即答をする。

「行かない。行けるわけないよ。その日予定があるんだもん。」

私は苦笑いをした。彼女は私の顔を見て、パッと明るくなる。よほど泉谷のことがすきなんだろう。嬉しそうだ。

「本当?私上島さんに服!コーディネートしてほしいの!」

「え?」

「上島さん、大和くんと幼馴染みだから好み知ってるよね?だからそれを選んでほしくて...。」

話の流れが早すぎて頭が追い付かない。

「ダメ....ですか?」

きゅるんと目を輝かせ上目遣いをしている。その可愛らしさに断らない以外の選択はあるのか。

「もちろん。いいよ。」

「やったー!!ありがとう!!」

子供ようにはしゃぐ彼女を見て私も自然と笑顔になった。



「今日は本当にありがとう!!来週の日曜日、これ着て大和くんに差し入れをあげようかなって思ってる!」

紙袋を勢いよくふって鼻歌を歌っている。

買い物の帰り道。夏のせいか日が長くなったように感じる。もう19時だというのに。この時期は何かと夏のせいにしたくなる。こういう気持ちになるのから夏はすきだ。

彼女の横顔を見つめる。瞳がキラキラと輝いてる。髪の毛がストレートで綺麗に内巻きされている。ヘアーアイロンだろうか。まつげもカールされておりとても女の子らしい。

「どうかした?」

首をかしげる彼女に私はあわてて話をそらす。

「私もその日は予定があってそのために今日服買いに来たの。」

「服買わなくてよかったの?」

そう。私は今日は彼女が泉谷のことがすきという事実に驚きすぎて、そして彼女の服選びに集中しすぎて服を買う暇がなかったのだ。

まぁよくくる店なのでまた来るとしよう。

彼女の言葉に優しくうなずいた。

「私、上島さんも大和くんのことすきだと思ってたの。朝一緒に行くし、クラスでも仲いいから。お似合いだなっておもっちゃってて。ネガティブ思考だよね、私。」

「大和くんが上島さんに告白しててすごく傷ついた。一途な私の思いはどうして届かないのって。悲しく悲しく泣きたかったけどまだ振られたわけじゃないしチャンスはあるよね。試合を通して私のことを少しでも意識してほしい。」

彼女のまっすぐな目。誰よりも美しかった。

『一途な人は世界で一番熱い恋をしている。』

誰かの言葉を不意に思い出す。彼女は泉谷を本当に一途に想っている。

この思い泉谷にも届いてほしいな。私は彼女の恋をこっそり応援することにした。



「じゃあね上島さん。」

「うん。またね。」

「あっ、まって。一ついい忘れてたことがあるの。」

心音ちゃんが私に近寄り、目をじっと見つめる。

「申し訳ないんだけど、大和くんともう一緒に登下校したりしないでほしいの。」

「...それはどうして?」

「だって...付き合ってもないのに、行きも帰りも一緒にいるなんて嫌だもん。それに上島さん大和くんのこと好きじゃないんでしょ?たとえ二人が幼馴染みだとしても私は絶対いや。」

彼女の目をよく見ると、涙をうかべていた。自分で気づいたのかさりげなく目をこする。

「それは...」

私は言葉を濁らす。なんと言えばいいのかわからない。

「どうして『わかった』っていってくれないの。好きじゃないならやめてほしいよ....。」

彼女は話を続ける。

「だ、男女の友情なんか成立するわけないもん!!!」

彼女は突然大きな声を出す。いつもはそんな大声を出すキャラではないからなのか、少し息切れしてる様子だった。

恐る恐る私を見つめる。

「...!ごめんなさい...。」

彼女はそれだけ言い逆方向へ走り出してしまった。

「待ってよ!心音ちゃん!」

私が引き留めようとしても彼女は振り向いてはくれなかった。どうしよう...。私はあの時なんと言うべきだったのだろうか。

私はしばらく走り去っていく彼女の背中を見つめていた。




沙緒理さんのライブの日になった。そして泉谷の県大会予選の日__。

ライブの参戦服は昨日買ったブランド物の服を着ることにした。さすが高いだけあり、生地が丈夫そうだ。着やすく動きやすい。

私は勢いよくドアを飛び出し、ライブ会場に向かった。

会場は私の家から遠くない。電車で15分先の場所の大きめな屋内施設で行われる。新曲も披露するようなのでものすごく楽しみだ。

電車に乗り、降りるまで沙緒理さんの音楽をイアホンで聞いていた。


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