推しと幼馴染み
そろそろ帰ってくるのかな。今飛行機に乗ったら会えるのかな。
私はロビーの電光掲示板を見る。ああ、こういうときに推しに会いたいな....。
するとそのときなにやらロビーの真ん中で女性がたくさん集まっている。
黄色い声が鳴り響く。どうしたんだろう。
私はその集まりに近づき何事かと背伸びして覗き混む。
たくさんの女性がスマホを構えている。
「ねぇ!今日LAIGA様今から来るんでしょ!?」
近くにいた女性が叫んでいた。
L...え?今....。
「そうみたいよ!ああ早く来ないかな!」
そのとなりにいた女性がそう話す。
LAIGA様が成田空港にくるの!?確かに海外で撮影するとは知っていたけど、まさか今日帰ってくるなんて。
心臓がなりやまない。この目で推しを見れちゃうんだ。私は急いで鞄のなかから携帯を探す。
しかし鞄のなかをあさってもあさっても携帯は見つからなかった。
なんで....こういうときに限って。私は腕時計を見た。
まだ来ないよね....今から取りに行けば間に合うかも。
私は後ろを振り返り、走り出した。推しの写真を撮りたい。この目で見たい。今から会えるんだ。私は微かな期待を胸に抱いた。
その時、人にぶつかってしまった。思い切り走っていたので、勢いで跳ねかえり、しりもちをつく。じわじわと痛みが走る。
私とぶつかった男の人は手を差しのべた。
「大丈夫?空港のなかで走ると危ないよ?」
この声に凄く聞き覚えがあった。するといつの間にか私たちの周りにはたくさんの女性達が取り囲んでいた。皆スマホを向けている。シャッター音がさまざまなところで鳴り響く。
おそるおそる私は男性を見つめる。
赤色の長い髪を黒色のゴムでまとめ、夜空のような瞳で私を見つめる彼。
そう、私の推しLAIGA様だった。私はあわてて立ち上がる。
「だ、だ、大丈夫ですっ!!」
といいつつ、私はヒリヒリしたお尻を触る。
LAIGA様は私を覗きこみ心配そうに見つめる。
「心配だな。怪我してるし。青野さん、この荷物持っていて。」
青野さんと呼ばれた女性はおそらくマネージャーだろう。LAIGA様の言葉に彼女は従い静かに荷物を持っていた。
「じゃあそのまま動かないでね。よいしょっと」
なんとLAIGA様が私の体を軽々持ち上げ、お姫様だっこをしたのである。
彼の目を見るとニコッとライブのようなあの表情で笑った。距離が近い。ふわりと、香水の香りがする。なにも言わずに私は運ばれる。
周りをキョロキョロすると女性ファン達が黄色い声を上げ、カメラを向け連写の音が聞こえる。私たちの周りを囲んでいる。すると、LAIGA様は彼女らを見てニコッと王子様スマイルをした。
その表情で尊くて死にそうになったのか、その場でバタリと倒れている人といた。
「いつも応援ありがとう!申し訳ないけど俺はこの子に怪我をさせてしまったんだ。だからまたライブで会おう。ね?」
タイミング良くウインクをする。その姿に黄色い声がまた鳴り響く。口を揃え『LAIGA様が言うなら~!』といって顔を真っ赤にする人もいた。
道が開き、LAIGA様はなにも言わず私を運ぶ。
気がつくとベッドに優しく置かれた。周りを見ると、なにやら空港についている医務室らしきところだった。
隣でLAIGA様がガーゼに消毒液を垂らしている。
その姿を見た私は自分の体をみて、あわてて立ち上がる。
「あ、あの!本当に私は大丈夫なので!!」
緊張しすぎて舌が回らない。どこ向けば良いかもわからない。彼を見れば尊すぎて倒れてしまう。
目を泳がせていると彼は私の腕をさわった。
「うわっ!!」
推しにさわられたという衝撃で、反射的に手を払ってしまう。
「ほらさっきので肘、皮剥けてるよ。俺の責任だから消毒ぐらいさせてよ。」
これ以上触れられたら恥ずかしくて死んでしまう!!
話す言葉を探そうとする前に、彼が私の腕を再び触り、肘にガーゼをつける。
「痛くないから大丈夫だよ。」
もう逃げ場はないと思い目を思いっきりつむる。
医務室には私たち以外誰もいない。遠くから空港のアナウンスが聞こえる。それ以外はなにも聞こえない。私たち二人だけの世界になったみたいだ。
多分こんなに推しと近くでいれることなんて二度とないんだろうな。私はこの瞬間を絶対に忘れないでいようと思った。推しとこんなに一緒にいれるなんて私、幸せだ。
気がついたら治療は終わっていた。
「あ、ありがとうございました!」
私は深々とお辞儀をする。彼はいつもの笑顔で手を振っていた。
私はさっきの彼が治療してくれた右肘を触る。
不意に口角が上がる。
私は幸せをかみしめながら家へと帰った。
さっきまで泉谷の家に行っていたので、荷物を取りに行く。
玄関のドアを開けると、沙緒理さんが私を見てニヤニヤ笑っている。そして私に携帯を見せてくる。なにかと思うとさっきお姫様抱っこされた写真、動画などがTwitterにあげられていた。
「Twitterみるとこればっかりよ。姫乃ちゃんLAIGAの大ファンだったわよね。よかったね。それに顔はぼかされているけど、このマーガレットの花の髪飾りをみてすぐわかったわ。」
沙緒理さんは唯一私が限界ヲタクなのを知っており、LAIGA様とは同期なのである。そして、私は白いマーガレットの髪飾りがお気に入りであり、いつも身につけているのである。
泉谷も玄関に来てなにか言いたそうにしている。しまった。泉谷には私の秘密言っていなかった。引かれちゃうかな...。
「お前さ、こんなやつのどこがいいの。頬赤く染めちゃってさ。まぁいいけど、」
携帯のなかのLAIGA様を指さす。怒った泉谷を沙緒理さんがまあまあといいながら、私の携帯を渡す。
「忘れていったわ。これ。じゃあね姫乃ちゃん。」
私は二人に手をふり、隣の自分の家へと帰る。
自分の部屋のベッドに思いっきりダイブする。足をじたばたする。さっきのシーンが頭の中でリピートされている。
外を見上げると満月だった。黄色く光り綺麗だ。私は満月をいつまでも見つめていた。
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その1時間後村瀬雷雅も自分の家に帰ってきていた。家に帰ると、年の離れた弟が待っている。
「お帰り、兄さん。撮影お疲れ様。夕御飯食べた?」
弟である涼太が俺を見る。涼太は本を持っている。読書をしているようだった。俺は首を横にふり、スーツを脱ぎながら話す。
「それより会ったよ。6年前の女の子。相変わらずマーガレットの髪飾りをつけていた。俺のこと思い出してくれたかな。」
俺の言葉に涼太は少しうつむく。
「彼女は、きっと覚えていない。なんだかそんな気がするんだ....。」
俺は目を丸くした。
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今日はいつもよりとても早く目が覚めた。昨日ことがあったからだろうか。肘を触ると微かにLAIGA様の温もりが残っている。外をみると泉谷の家はもう電気がついていた。沙緒理さんかな。携帯の電源をつけ、時間を確認すると午前4時だった。二度寝しようと思うとしたが電源を切る瞬間、バイブ音がなった。泉谷からのlineだった。眠い目をこすりながら内容を確認する。朝練があるから今日は一緒に行けないということだった。私と泉谷は家が隣同士なのでいつも行きと帰りは一緒に帰る。今日彼が早く行く理由は、サッカー部の県大会予選が近いからだろう。私は了解というスタンプを押し、目を閉じた。
....おかしいな。
眠いはずなのに寝付けない。彼になにかいい忘れたのだろうか。思い出そうと再びトーク画面を開く。私のスタンプには既読という文字がついていた。
そうだ。今日学校行った時、私がLAIGA様にお姫様だっこされたことを皆知っているかもしれない。私は顔を赤らめていたはずだ。限界ヲタクだとクラス中にばれてしまう。それだけは絶対に避けたい。そうだ泉谷にお願いしよう。
『もしクラスの人が私がアイドル好きだっていってたら、私はそんな人じゃないって伝えておいて』って。
私はキーボードを開き高速で文字をうち、泉谷に送った。『了解』という彼の文字を見て安心したのかもう一度目をつむり眠りに落ちた。
7時を知らせる目覚ましがなり、私は素早く止める。身支度をし、一人で学校へと向かった。
私は徒歩通なのだが他にも同じクラスのこが歩いているのを良く見かける。なにか聞かれるのではないかとびくびくしていたが、私の姿に気づいていないようだった。
今日はすごく太陽が眩しい。手で光を隠す。今は6月下旬だが、ここ最近気温が上昇し続けている。今年は梅雨もあまりなかった。夏到来だろうか。近所の家にあるひまわりが今にも咲こうとしている。水あげしているおばあちゃんにいつものように挨拶をする。おばあちゃんはくしゃと笑い軽く会釈していた。私も自然と会釈する。
いつもは泉谷と一緒に来ているので話に集中していたせいかあまり周りの景色が見えていなかったように感じる。一人だからこそ新たな発見がある。あ、遠くから鳥のさえずりが聞こえる。なんの種類かな。私は耳をすませながら自然と笑顔になる。たまには一人も悪くないと思えた。
教室のまえにつき、軽く深呼吸をする。時計をみると部活の朝練が終わっている時間だった。泉谷、皆に私が限界ヲタクなのばれてないよね。頼むよ。もしばれてたらどうしよう。私はたらりと冷や汗をかいた。だが、教室のドアの前でたっていてもらちが開かない。勇気をふりしぼり、教室へ入った。
皆私を見つめ、女子生徒6人ぐらいが私を見て寄ってくる。
ニコニコしていたので何を聞かれるのかすごく怖かったが、逃げるのも失礼なので私も笑顔で『おはよう』と挨拶を交わす。
彼女らは私にスマホを見せる。それはTwitterにあげられたLAIGA様が私にお姫様だっこをしている写真だった。嘘でしょ。泉谷なにも説明してくれなかったの。私は教室にいる泉谷を黙って見つめる。友達と話しており気づかなかった。
6人のうちの1人が話し出す。
「これ姫乃ちゃんだよね?」
どうしよう。ここで私じゃないと嘘はつけないので黙ってうなずく。
「恋愛の話とか参加しないからおかしいなと思ったらこういうことね。」
隣にいた女子生徒が私の肩をさわる。
こういうことってどういうこと?リアコじゃないよ私は!お願い信じて!
するとある男子が私たちの輪を壊すように堂々と入ってくる。隣には泉谷がいた。
「おいおい。いじめるのはやめないか君達。」
男子は口でちっちっといいながら人差し指を左右に振る。その姿に彼女らは引いてしまったのか皆仁間にシワを寄せる。
「上島はこいつの彼女だよ。」
彼は隣にいる泉谷を指差す。その言葉により彼女らは一気に目を丸くする。
「え?」
言われた私が一番驚いている。私と泉谷がどうして付き合うことになっちゃうの!?
泉谷は知らないふりをし、どこか別の方向を向いていた。
その姿に私はぴきっと怒りのスイッチが入り、無言で手を引っ張る。
私たちは誰もいない廊下に行った。その姿に周りは騒いでいるがいまはそんなこと気にしている場合ではない。とにかく泉谷に事情を聞かなければ。
話そうとしないので私から口を開く。
「どういうこと、泉谷!私そんなこと頼んでないよ!さらに面倒くさいことになるよ!それに、お互い嫌でしょ?」
私は泉谷の目をじっと見つめる。
「は?別にいいだろ。それしか方法がなかったんだよ。俺は別に迷惑じゃないし」
「そういうことじゃないって!...て、え?」
泉谷の最後の言葉に私は疑問を抱く。
「お前が気づいてくれると思ったが、鈍感過ぎて一ミリも気づいてねぇーじゃん。」
そういいながら私のおでこにデコピンをする。
痛っ。本気でやってきてるんですけど...。痛いな。
片目だけ開け泉谷の顔を見る。
「そ、そんな顔を見ても俺は絶対に言わないからな!!」
と少しだけ顔を赤らめて教室へと走っていった。
赤らめてた?私はさっきの泉谷の顔を思い出す。どうして私の目そらしたんだろう。
そう考え出すと自分まで心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
私は顔を激しく左右に振り教室に戻った。
その日はなんだか不思議な感覚がした。なんだか泉谷のことが頭から離れない。
六限目はで世界史Bであり、問題を解きながら考える。週の真ん中だからだろうか教科書を立てて居眠りをしている生徒を見かける。担当の先生は生徒を当てたりせずに授業をするタイプなので、ちょっとくらい話を聞いていなくても平気だ。
今までクラスメイトに付き合ってるんじゃないかって噂されていた。私はあり得ないって思った。だって幼なじみだもん。ずっと一緒にいるからもう兄弟のような存在で恋愛感情なんか芽生えるわけ芽生えるわけ...。
自分で自分に聞いてみる。
でも、最近泉谷なんか変だった。急に真っ赤にするし逃げるし...。、
『俺は絶対に言わないからな!!』
言わないって何を?
ああ、もうやめよう。これ考えててもらちが開かない。私は頭をリセットし、黒板に書いてある文字を写し始めた。