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アルマクルス  作者: Rozeo
ヒストリアイリュージョン
23/23

エピローグ

黒竜に跨る事三時間半。

海を越えたテルミナの先にあるロンダルギアが見えてきた。

天空の城に身を潜めるアレク。

治療はメリアがすぐさま行った。

手首はみるみるうちに癒え、これで四人の仲間が集った事になった。

だが。

問題はキャンディスを殺した事にあった。

その恋人アシュラと彼の従兄弟グロンギが天空の城を訪ねてきたのである。

肌が灰色で腕が四本あるセンジュ族をリョーマは初めて見たが、中でもアシュラはレナとナオミと匹敵する実力の持ち主らしく四対二とは言え、こちらが敗れる可能性も十分にあった。

キアラスが口を開く。


「あれが噂の鎖刀(チェーンナイフ)……!新世代の神々とも謳われる男よ」


「実力はサタン以上か……」


「ええ……おまけにグロンギも油断できない」


見たところ坊主頭のグロンギの方はアシュラほど殺気立っておらず、キアラスたちと面識があるようだった。


「ならば」


キアラスは手の平から細い糸を作り出した。

それはグロンギの方へと伸びていき彼の行動を停止させた。


「今よ三人で戦って!」


庭園での戦闘は始まった。

アシュラは人間離れしたスピードでリョーマたちに接近し、始めに襲われたのはアレクだった。

鎖刀(チェーンナイフ)の鎖で右腕の自由を奪い、隙が出来たところにパンチを放った。

怪力。

とんでもない馬鹿力はアレクの顔面にヒット。

後方に吹き飛ばされ戦意は喪失したかに見えた。


「メリア!回復は後だ!」


疾風斬りを放つリョーマ。

だがセンジュ族の皮膚は鋼のように硬く、シルバーソード程度では斬れない。

四本あるうちの二本の腕で剣先を挟まれ、やがてリョーマの手から離れ落ちた。

カラカラン、と剣が地面をのたうち回る。


「フン!」


と鎖刀を飛ばすアシュラ。

鎖の先についた刃はリョーマの腹に突き刺さった。

その時だった。

メリアの黒竜がアシュラの身体を噛み付いて高々と持ち上げたのである。

体長八メートルの竜。

大きさだけで言うとアシュラよりも強大、なはずだった。


だがアシュラの怪力は凄まじく閉ざれようとしていた口を開くに至っていた。

そしてスルリと放たれたかと思うと四本の腕から青白い光線を放った。


「流星群……!」


キアラス曰く流星群と呼ばれるその技は黒竜の胸部にヒット。

ガララギャアアァンという雄叫びと共に天空の城の壁にぶち当たる。


「オメガス!」


メリアの黒竜の名だった。

だが動く猶予があったのはリョーマも同じだった。

グレンウォンドに力を込め、炎属性中級魔法「インフェルノ」を発生させる。

不規則に動く灼熱の炎は地面に着地したアシュラに直撃。

そしてそこへグロンギが現れる。

キアラスの傀儡でアシュラを押さえつけようとしている。


「降参する気になったかアシュラ?」


リョーマは転がり落ちた剣を拾い上げ、アシュラに迫る。

メリアもキアラスも緊迫の表情を隠せない。


「てめぇよくもキャンディスを……!」


アシュラはモヒカンだった。

発達した筋肉は凄まじかったが、若さも見受けられた。

剣でトドメを刺す事は出来ない。

それでもリョーマはシルバーソードを構えた。

睨み合い。

足がすくみそうとまではいかなかったが、流石は新世代の神々中々の気迫である。


「キャンディスは自ら死を望んでた……三千年間の」


「その首を刎ねてか」


思わず言葉が濁る。

キャンディスが苦しんで死んだのは事実だ。

だがあの方法以外どうしろと言うのだ。

リョーマとアシュラは十数秒間じっと睨み合っていた。


「辞めだ。この男は殺さない。キアラス、アシュラを解放させるんだ」


思わず言っていた。

操られていたグロンギはアシュラを離し、自由になった若者は驚きの表情で此方を見ている。


「俺たちの仲間になれ。魔女やアルマゲドンを倒すには君が必要だ」


「貴様俺を殺そうと思えば殺せたような口調だな。その銀剣で?馬鹿な真似を」


リョーマは背中のファントムアローに手をかけた。


「なるほど……ありゃ貫通しそうだ」


アシュラは暫く考え込んでいたが「グロンギを使え。俺は単独行動がお似合いなんだ」と言った。


キアラスの糸の切れるグロンギ。

「ぼ、僕が?」と挙動している。


グロンギの方が歳上のようだが、主従関係は逆転しているかに見えた。


「じゃあなアシュラ。また会えるかな?」


「フン……気安く呼ぶな」


アシュラは去っていった。

センジュ族の男グロンギを加えた一行は五人で次の目的地について話すのだった。


「東の魔女を倒すにはまだ早すぎるわ。アルマゲドンなどもってのほか」


「ならばスノウランドへ行こう。レナに会いたい」


メリアの蘇生化を受けたアレクを含めた五人で、リーダーはリョーマであるかに見えた。

同じ現実世界出身のレナ・ボナパルトの幻影は北にいる。

名前からして寒そうなその場所で、何を企んでいるのか。

リョーマの意見に、キアラスとアレクは賛成だった。

メリアの戸惑い、そして首を傾げるグロンギ。

まだ彼はこのパーティーが何をなそうとしているのか把握しきれていないところがある。

そして注目すべきはメリアの恋心だった。

リョーマにとって恋敵となり得る存在の元へわざわざ出向く事になる。

望むところだ。

レナか自分、どちらが最強に近づいているか示してやる。

好戦的なリョーマの性格が吉と出るかは定かではないが、波長が合うのも嘘ではない。


「行こう。六人目の仲間を求めて」


アレクが頷き、キアラスが微笑む。

メリアとはまだ恋仲ではないが、急ぐ事はない。

グロンギともいつかは絆が芽生えるだろう。

リョーマたちは梯子を降り、鏡の中へと歩み寄った。

そしてスノウランドに降り立つや否やキアラスが声を上げる。


「この気配は……アルマゲドン!?南のメタス沖に現れたわ。時を喰らうとされる古竜は滅多にお目にかかれないそして強大なの」


「被害は?」


「家出中のメタスの王女が時の狭間に飲み込まれたわ。クレイモアからは距離がある」


「そうか……」


リョーマはメタスの王女クレオパトラの顔を思い浮かべた。

珍しい髪色をしていたがまさか飲み込まれるとは。

だが北への鏡を通った以上、レナに会うことを優先しなければならない。

どうせ今行ったところで待ち受けているのは全滅だった。


「行こう。もう直ぐ日が暮れる。町までの距離は?」


「一キロ無いわ。直ぐそこよ」


占い師キアラスの存在は心強い。

それにしてもスノウランドの気温の低いこと。

そして首都フローズンシティに例の男は居るとの事だった。

冷たい突風が吹き荒れる中、メリアが腕にしがみついてきた。

頼られる感じ……悪くない。

とは言えこれで十七時間以上寝ておらず戦いっぱなしだったので疲れ気味だ。

リョーマは特に喜ぶ素振りも見せないまま歩き続けた。

上半身裸のグロンギはあれでも寒くないらしい。

全くセンジュ族の身体の構造はどうなっているんだ。

そして最後尾のアレクサンダーは「フローズンシティに行くのは初めてだー」と零していた。

三千年生きておいて一回も大陸の北に訪れなかったのか?

全くアレクの思考回路はよく分からん。

そうこう考えているうちに首都についた。

思ったより文明は進んでおり、透明なガラス張りの家々が並んでいた。

表面は鏡になっているようで、中は見えない。

リョーマ達は宿屋とされる建物を探し当て、部屋で話し合いを始めるのだった。

ベッドに座り込んだメリアが「中々の設備ね」と辺りを見回す。

それもそのはずでリョーマが居た現実世界(リアルワールド)のホテルのベッドとさほど変わらない。

メタスの宿屋とは雲泥の差だった。

そしてーー問題はレナが何処にいるかだ。

恐らくこのフローズンシティの何処かにいる。

三千年前この地に降り立ったレナ・ボナパルトは幻影の姿になっている。

だが一説では神々に勝利した時、本体である彼の身体は現在世界(リアルワールド)に帰っており、今この町の何処かにいるレナは偽物だと言う噂だ。

いずれにせよ会ってみる価値はある、とキアラスは言う。

東側諸国の人間だったアレクサンダーやグロンギはレナとは馬が合わないようだが、納得させるしかない。

東の魔女とアルマゲドン相手では西も東も言ってられない。


「夕飯を取り次第、各自睡眠をーー」


その時だった。

部屋をノックする誰か。

トントン、トントンとそれは繰り返されている。

占い師キアラスの方を見ると頷いていた。

ドアのすぐ傍に居たアレクが戸を開ける。

立っていたのはハーフエルフだった。


「ナオミブラスト!」


とアレクが驚いた声を上げる。

リョーマはナオミの存在を噂で知っていた。

とは言えこんな直ぐに彼女に出会えるとは思ってもおらず、腰が引ける想いだった。


「噂では、予言の子が此処に……」


ナオミの青い瞳は澄んでいた。

彼女と目が合う。

その数秒の間にリョーマはナオミの力量を把握していた。


(アシュラ以上かもな……)


新世代の神々と謳われるうちの一人。

黒髪のナオミブラストは自身の髪をふわっと靡かせ席についた。


「お、おい!西側のお前が何を」


とアレク。

だが「そんな事言ってる場合じゃない」とキアラスが諭す。


「俺に用なのか?」


「ああ。名前は確か……リョーマだったか?」


自分とナオミの会話にメリアが苛立ちを憶え始めているのは見ないでも分かった。

だけどよ……ナオミはレナの恋人だろ?


「フン……まだ若いな」


はぁ?このお姉さんの言う事訳わかんねー!

取り敢えず俺の相手はこのハーフエルフじゃなくてメリアちゃんなんだ、そうに決まってる!


「ほら若い」


心を読まれたかのような発言にキアラスが「フフッ」と笑い出す。

ったく何が可笑しいんだよークソ。

いつの間にかグロンギも釣られて笑っていた。


この想像世界(パラレルワールド)の人間は変な奴が多過ぎる。

もしやナオミも占い師みたいに人の心を読めるのか?

リョーマの心情とは裏腹にナオミが一つ咳払いして話を始める。


「私が君たちを頼ったのは他でもないレナ・ボナパルトの事だ。知っているな?」


アレク達には当然の事らしいが一応リョーマも知っているので頷く。


「彼がさっきブルードラゴンに跨りアルマゲドンに攻め込んだ」


「なんて無謀な」


「命なんか惜しくも無くなっていたのかも……でも……やっぱり助けに行くべきだと思うんだ」


アルマゲドンは時を喰らう。

別の時代に瞬間移動している可能性がある、とキアラスは言う。

ならばこちらもアルマゲドンに立ち向かうしか。

やはり無理をしてでもぶつかりに行くべきだったのか。

だが相手は体長百メートルの古竜。

こちらが命を落とす可能性も十二分にあり得る。


「次にアルマゲドンが姿を現すのは……此処スノウランドです。それまで待ってみては?」


キアラスの言葉にリョーマとナオミは頷いた。

アレクもメタスの王女クレオパトラが気になるようなので賛成派か。

メリアが「フン!」とそっぽ向いてるのは辞めてくださいねと言ったところだが、まあ戦ってくれるだろう。

グロンギも「腕が鳴るね」と四本の腕の指をポキポキと鳴らしている。


決まりだった。

六人はアルマゲドンに挑む。

それまでは修行の期間となる。

話し合いは纏まり、運ばれてきた夕食にありつくリョーマ達であった。

眠ろう、そして明日に備えよう。

ベッドに倒れ込むや否や深い眠りに誘われるリョーマ。

起きた時には昼過ぎだった。

「武器屋に寄ろうぜ」そう言ったのはアレクだった。

この間のメタスでの報酬の残りをどうやら分けてくれるらしい。

キアラス曰くアルマゲドンが現れるのは一ヶ月後。

それまで宿賃は残しておかなければならないが、あのナオミは金持ちだった。

銀貨五枚で武器の合成。

リョーマはグレンウォンドとシルバーソードの合体を頼んだ。

出来上がる武器の名は「魔導槍」。

漢字表記なので強いらしい。

残る予算は金貨一枚だったがリョーマはファントムアローを売り払う事で金貨二枚とした。

今から弓を学んでいては間に合わない、そういう算段だった。

そして手に入れた「バスターシールド」と「バスターアーマー」。

バスターシリーズはカタカナ表記の中では強い方らしく、防御力のアップが見込めた。

そしてナオミブラスト指揮の下修行は開始されるのだった。



フローズンシティへ来てから一週間が経った。

リョーマは七つの剣技全てを習得するに至っており、魔導槍の威力も相まって中々の戦士に成長していた。

あと三週間あれば次のレベルの究極剣技習得も夢ではないと言う。

そんな時だった。

突如雲行きが怪しくなったのは。

神殿を荒らしたツケがここで回ってきたのか、体長百メートルの古龍は予想よりも早くスノウランドに姿を現した。


「行こう」


キアラスの占いはイザベルなどに比べると精度が低いらしいのだが彼女を咎める訳にもいかない。

ナオミブラストを先頭に六人の仲間たちは雪山へと足を運んでいく。

トゲトゲしいバスターアーマーを身に纏ったリョーマはメリアの方を見た。

俺が絶対護ってやる。

上辺だけだったサタン戦の頃とは違い、今は明確な意思がある。

それは一週間の滞在の期間に頑固たるものになっていた。

見えた。

銀色の鱗のアルマゲドン。

咆哮は大地を揺るがすほどの迫力だ。

このメンツだと一番頼りになるのがナオミ、次点で自分だった。

アシュラやレナが居ればと今更ながら思うが、言っても仕方がない。

アルマゲドンの口から放たれる炎属性上級魔法「ヘルフレイム」。

炎属性に耐性のある竜人アレクが躍り出て皆への直撃を防ぐ。

メリアはアレクに「超鬼人化」を唱えていた。


「ナオミ、避けて!」


キアラスの予言。

先を見通す彼女の力はナオミの判断を数秒早めた。

高々と飛び上がるハーフエルフ。

アルマゲドンの尻尾による攻撃を回避している。

だが一息つく間もなく牙による突進攻撃が繰り出されグロンギが餌食となった。

流石のセンジュ族とは言え、相手は全てを凌駕するアルマゲドン。

鈍い音と共にグロンギは息を引き取った。

ちくしょう!せっかく友達になりかけていたのに!

怒るリョーマとは裏腹に敵は攻撃の手を緩めない。

今度は雷属性上級魔法「ボルテックス」がキアラスの頭上に降り注ぐ。


「やめろつってんだろうが!」


リョーマと超鬼人化を受けたアレクが敵の足元に斬撃を喰らわす。

その頃ナオミは常人離れしたジャンプ力でアルマゲドンの背中に飛び移っていた。

キアラスも死んだかーー。

だがメリアお前だけは死なせはしない!


「まだ敵は必殺技である『時の咆哮』を発動させていない。あれを喰らえば別時代行きだ」


「じゃあレナを追えるんだな!?」


「ああ……ナオミもそれを狙っているはずだ」


アレクとの会話中にもアルマゲドンが耳を塞ぎたくなるような雄叫びを上げていた。

背中に飛び乗ったナオミが攻撃している証拠か。


「リョーマ……ッ!」


アルマゲドンによる前進で蹴りを喰らったアレク。

超鬼人化の効果も切れかけており瀕死の状態だった。


「メリアを護りきれよ」


それがアレクの最後の言葉だった。

体長百メートルの古龍に踏み潰されたアレクが死んだのは見えないでも分かった。

クッソーッ!

メリアの前まで行き立ち塞がるリョーマ。

見上げればナオミはアルマゲドンに究極剣技「豪炎乱舞」を見舞っていた。

燃え盛る炎の連撃の威力は高めだが、いかんせん敵が大きすぎる。

その時、アルマゲドンが時の咆哮を唱えた。

目の前の古龍は背中に乗ったナオミと共に消え、雪山は静かさに包まれるのだった。


「ナオミさんが死んでしまう!」


「追ったところで無理よ!」


メリアに抱きつかれた。

彼女はドラゴンロッドで黒竜を呼び、ロンダルギアへ引き返すべきだと言った。

確かに凍えるような寒さだ。

冷静になったリョーマは二人で黒竜の到着を待った。


「メリアは幻影なんだろ?幻影は現実世界に足を踏み入れられないってナオミさんが言ってた」


「…………うん…………そう…………」


時が止まりそうになる一瞬。

そして顔が近い。

つまり…………そういうことなんだ。

リョーマはメリアと口付けを交わした。

そんな中黒竜オメガスが到着。

彼に乗れば天空の城まで一時間と掛からないだろう。


「も、戻ろう。……今俺が生きていられるのもコイツのお陰かもしれない」


メタスで買った幸運の首飾りだった。

ギュッと握りしめ、大空へと羽ばたく。

二人を乗せたオメガスはみるみるうちに山を越えロンダルギアに着いた。

そこで待っていたのは一人のピエロだった。

名前はエルメスというらしい。


「噂ではマンティコアやアシュラと言った面々がここ天空の城を訪れる……何故なら魔女アンドロメダが東から攻めてくるから」


彼女の言った通りマンティコアを諭したイザベルと、あのセンジュ族のアシュラが庭を訪れてきていた。

それだけじゃない東側諸国と対立していたレイヴンもカイザという仲間を連れて魔女との戦いに臨んでいた。

これで自分たちを含めて八人が対アンドロメダに名乗りを上げた事になる。

マンティコアが低い声を上げる。


「オマエノシンデンデノコウイハユルセヌ。ダガマジョノアクギョウハソレヲリョウガスル。マジョヲタオシタラトットトモトノセカイヘカエレ!」


そうマンティコアはゲートを開けることが出来る。

この世界にリョーマを呼んだのもイザベル曰く彼だった。

つまり、これが最後の戦い。


「アルマゲドン退治はレナ達に任せて、貴方は貴方の出来ることをしなさい」


と赤髪のイザベルは言う。

それにしてもリョーマの行動はレイヴンやアシュラと言った者たちの心に訴えかけるものがあったのか。

単に魔女を倒したいだけという可能性もあるが、リョーマは予言の子としての役割を果たしてきていると言える。


「もう直現れる」


イザベルの言った通り、煙と共に魔女アンドロメダは姿を現した。

幻影なので青白いが褐色の肌、そして金の衣が眩しい。

アンドロメダは到着するなり口を開いた。


「東西の統一を図る予言の子はお前じゃな?わらわが相手になろう」


「俺たちを忘れるな?」


アシュラが一歩前に躍り出る。

レイヴン、カイザも剣を抜く。


「フン!」


魔女が杖を振るいながら念力を放ち、三人の男たちは吹き飛ばされた。

とんでもない威力。

実力はあのナオミ以上か……。

だが負けられない!

リョーマが魔導槍を構えたその時だった。


「ノレ」


なんとマンティコアが背中に乗れと指示してくる。

頷き背中によじ登るリョーマ。

イザベルとメリアが鬼人化の補助魔法を俺たちにかける。

よし、今ならやれる!

そうこうしてる間にもエルメスが闇属性上級魔法「ジャッジメント」の餌食になっていた。

死に際に一言「リョーマ、アンタこそ真の勇者だ」


決死の覚悟はついた。

後は剣技を放つだけ。

後で知る事になるが、魔導槍はマンティコア・ライデンが獣人の時に所持していた武器と同じだ。

背中に乗せたのはそういう理由もあってか。

アンドロメダの闇に、光が勝つ!

マンティコアに乗ったリョーマは光属性剣技「閃光」を放った。

鬼人化を帯びた一撃。

漲るパワーはマンティコアも同じで牙で腹部を噛み付いている。

すれ違い様の一撃でリョーマは魔女の首を取った。

予言の子はその役目を果たしたのだ。

天は裂け、眩しい光が降り注いだ。

だが同時にこれはメリアとの別れも意味していた。

イザベルが口を開く。


「引かれ合う魂はまた逢えますわ。私を信じて。私だってマンティコアと通じ合えたのだもの」


頷く。

例え違う世界の住人でも、またーー。

マンティコアが咆哮で紫色のゲートを出現させる。


「スペインと呼ばれる場所へ行ってみて。これは予言ですわ」


メリアと抱擁を交わし、リョーマは禍々しいゲートを潜った。

あのレナ・ボナパルトにも会えるかな?

たどり着いた先は日本の海岸だった。

あれからリョーマがレナやメリアに会ったかは誰も知らない。

だが彼らの想像世界での冒険はきっと終わらない。

グレンの娘、フィーネ・シルバーウィンドがこの世にいる限りーー。

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