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アルマクルス  作者: Rozeo
ヒストリアイリュージョン
21/23

第十九話「盗賊」

要塞都市クレイモア。

そのアイテムショップの前でリョーマの声が木霊する。


「薬草一つで銅貨二枚だとー!?このお札を使ってもか?」


「札がなければ銅貨一枚ですよお客様。あらやだ薬草がそんな高価なはずないではありませんか」


オカマ口調の店員によると銅貨十枚で銀貨一枚分、銀貨十枚で金貨一枚分の価値があると言う。

それにしてもこれじゃあ宿屋にだって泊まれない。

途方に暮れかけていたリョーマは試しに札を売ってみることにした。

「割札」ーー。

先程気の小さい商人から貰った取引を有利にする代物だがこの際仕方ない。

商人さんアンタの事は忘れねえ。

リョーマは割札を銀貨七枚と交換する事に成功し、薬草三枚を温存するに至った。

ここの宿屋は銅貨五枚で食事付きで泊まれるらしい。

なんのアイテムが売ってあるか見てみよう。

クレイモアのアイテムショップの品揃えは以下の通りである。


・薬草 銅貨三枚

・千里眼の薬 銅貨七枚

・モドリ玉 銀貨一枚

・馬 銀貨一枚半

・魔術教本(初級) 銀貨二枚

・回復薬 銀貨三枚

・魔術教本(中級)銀貨六枚

・蘇生薬 金貨一枚


魔術教本はキャンディスから学べるとして……取り敢えず隣の鍛冶屋も見てみよう。


・ブロンズソード 銅貨八枚

・シルバーソード(装備済み)銀貨四枚

・ゴールドソード 銀貨八枚

・バスターソード 金貨二枚


盾の並びも剣と同じような感じだった。

そしてその他にも弓矢、杖、鎧と言ったものが置いてあった。

自身の現在の装備シルバーシリーズは銀貨四枚分の価値と悪くない。

つまり補強はいらない。

弓矢や杖も後回しでいいだろう。

やはりここは千里眼の薬とモドリ玉を買うべき!

区切りが悪いので薬草も一枚買い、手元に残ったのは銀貨五枚となった。

ここから更に宿屋の料金が引かれる事になる。


「ん?」


リョーマは鍛冶屋で売られていた「幸運のネックレス」に目がいった。

銅貨五枚と高くない。

だが若干胡散臭い気もする。

ええい買ってしまえ。

こうしてリョーマは宿屋に料金を払い、銀貨四枚を手元に残すのみとなった。

この衝動買いが吉と出るか凶と出るか……。

取り敢えず部屋で休もう、もうじき日が暮れる。

太陽は灰色でも、昼と夜の区別ぐらいはつく。


自分の部屋の鍵を貰い、二階へ上がろうとしたその時だった。

オーラを感じさせる二人の男の対立。

殺気がひしめき合う宿屋の待合は、避けては通れぬ緊張感を漂わせていた。

思わずその場に立ち寄るリョーマ。

なんでも竜人と烏男が酒を飲んで喧嘩しているらしい。

竜人。

その単語にリョーマの胸は踊った。


こうも早く見つかるとは。

竜人アレクサンダーは黒いフードをすっぽり被っていたが、見かけは普通の人間だった。

そして彼に首根っこを掴まれているのはレイヴン。

西から来た傭兵だと観衆が囁くのが聞こえた。


マズイこの喧嘩止めないと。

リョーマは端からアレクサンダーの味方をするつもりだったが、あまりに騒ぎが大きくなると城から憲兵が駆けつけてくるかもしれない。


「やめとけ」


リョーマは勇気を出して言った。


「キアラスの言ってた竜人アレクサンダーだろ?アンタに用があってロンダルギアからここまで来た」


キアラスという言葉を聞いてアレクサンダーの目が変わった。

完全には酔い潰れていないと言うわけか。

リョーマは大学のサークルで酔っ払いを見かけた事があったが、アレクサンダーはまだその域には達していない。

明確な理由があってレイヴンと掴み合いになったよつな感じだった。

レイヴン本名アンガス・クロウーー。

只の傭兵にしては殺気立ちすぎている。


「シルバーウィンド姉妹の居場所を教えろ。そういう約束だったはずだ。メタス王女の前で恥はかけねえ」


アレクサンダーの言うシルバーウィンド姉妹とは一体誰なのか。

ああもうこの世界の常識がリョーマには通用しない。

レイヴンは黙秘を続けていた。


「これ以上騒ぎを大きくしては駄目だ。千里眼の薬で何とかならないの?」


リョーマの言葉にハッと我に返った竜人だったが「駄目だ薬の効果はもって一分。ある程度的を絞っておかなければならねえ」と悟す。


「シルバーウィンド姉妹って?」


観客の一人に耳打ちすると「知らねえのか妙な奴だなー」から始まり男は彼女らについて語り始めた。

どうやら神々の娘たちで、この地域で盗賊を働いているらしい。


「君まで神々に楯突くのかい?」


胸ぐらを掴まれたレイヴンがこちらを見た。

そこまで悪人には見えないが、リョーマの使命は決まっていた。


「俺はアレクサンダーにつくよ。さあ彼女らの居場所を話すんだ」


これがリョーマの下した答えだった。

キアラスの澄んだ眼が、この言葉を発せさせた。


「タガナシ村を北に三里ほど進んでみろ。アジトがあるはずだ」


レイヴンはようやく口を割った。

顔面の刺青とは裏腹に繊細な心の持ち主な印象を受けた。

むしろアレクサンダーの方が怒りっぽい。

ええい知るか今更引き下がれないもんね。


「タガナシ村に着いたら千里眼の薬を使ってくれるか?そしたら今度はお前の願いを聞いてみやってもいい」


アレクサンダーは黒と赤のツンツンヘアーだった。

だがレイヴンと同じく幻影で、二十代の容姿のまま変わらないようだ。


「神々の苗字ってシルバーウィンドって言うのか?」


レイヴンが去った宿屋の一階でほろ酔いのアレクサンダーに尋ねた。


「何だお前も任務に参加するのか?シルバーウィンドはそう、神々の名前だ」


グレンとミルナ。

夫婦関係にある彼らが、この世界を創り出したらしい。

その娘たちとご対面とは、早々も小ボスとの決闘か。

まだ装備が貧弱だが、アレクサンダーと一緒なら。

リョーマは任務への参加を決意した。

つまりタガナシ村に赴いた後、共にアジトへ潜入する事になる。

これは只の盗賊退治ではない、神々への喧嘩のふっかけだ。

その言葉にリョーマは大きく頷いた。

きっと元の世界に戻れる方法もいずれは見つかるはず。

取り敢えずはアレクサンダーと行動を共にしよう。

そう心に決めたリョーマは仮眠を取るべく、二階へと上がった。


えーっとモドリ玉の効果を再確認しておかねーと。

一番最近に近寄った町へ帰れるんだったな。

今だったらクレイモアである。

リョーマが鎧を脱ごうとした時、コンコンと戸を叩く者がいた。

アレクサンダー。

さっきの礼が言いたいらしく、良かったらこれ持っとけと「光玉」をくれた。

眩い光で敵の視界を奪うらしい。

タダで貰えるとはツイてるな……。


「ありがとう」


アレクサンダーによるとアジトへは夜向かうらしい。

つまり束の間の休息となる訳だ。

晩飯はハムとサラダとトーストと質素ながらも充実していた。

アレクサンダーは無一文らしいので、トーストを半分分ける。

自分だってあの商人と出会わなかったら無一文だった。

これくらいあげたっていいさ。

二人での食事はどこか暖かさを帯びていた。



夜中、アレクサンダーの戸を叩く音で目が覚めた。

任務の時間だ。

五、六時間しか寝てないので若い自分には辛いがこれも仕方ない。

リョーマは銀の鎧を身に纏い、表へ出た。

万が一の時はモドリ玉で戻ってこれる。

先ずは目印となるタガヤシ村へ向かう事だった。

アレクサンダーが口を開いた。


「俺の事はアレクと呼べばいい。だが夜の森は危険だ。くれぐれも注意しろよ」


頷き、要塞都市と呼ばれるクレイモアの門を潜る。

アレクサンダーが「任務だ」と言えば門番は何も言ってこなかった。

アレクサンダー・レイドロー。

炎の竜人だそうだが、持ち物は剣と盾でリョーマと然程変わらない。

だが能力を駆使すれば今の自分よりも遥かに有能だろう。

足手纏いにならないようにせねば。


リョーマとアレクは丘から森へ差し掛かり、ランタンの火が照らし出した物に彼らは絶句した。

ライオンと羊と蛇の合成獣「マンティコア」が夜の森を徘徊していたのである。

これには流石のアレクも予想外だったようで、しーっと口元に手を当て、恐る恐るその場を離れる。

だがマンティコアが此方に気づくのはもはや避けられなかった。

決死の想いの光玉。

とっさに投げられたリョーマの光の玉は合成獣の視界を奪った。

唸り声を上げるマンティコア。

今だ、逃げるしかない!


リョーマとアレクはタガヤシ村の方向へ一目散に駆け出した。

それにしても光玉が無かったら戦闘を避けられなかっただろう。

或いはモドリ玉を消費していたか。

とんでもないバケモノとの遭遇に、まだ心臓がバクバク言っている。


「あれは女神の子マンティコアだ」


アレクがようやく口を開いた。

聞けばミルナ・シルバーウィンドは女神と悪魔に分断していた時期があり、その頃の女神の息子がマンティコアだと言う。

どうやら半神という事らしいが、あんな怪物が森をウロチョロしてるなんて聞いてねー!


リョーマはもう少しでモドリ玉も使うところだったと零した。

とは言えタガヤシ村までは目と鼻の先らしく、アレクの持つランタンに付き従えばじき到着できると言う話だった。


「シルバーウィンド姉妹って強いの?」


リョーマはこれから戦う事になる彼女らについて質問した。

フィーネとレイ。

姉は幻術を妹は魔術を使うそうで、両方同時に相手するとなると厄介だと言う。


「全くアレクサンダーは無茶が過ぎる」


と零すとアレクは「かもな……」と俯いた。

さっきだって光玉を使ったの自分だったしもうちょっと頭使えよ!と言いたいが流石にそこまでは言えない。

とにかく命は大事にして欲しい、これだった。


「着いたここがタガヤシ村の入口だ。千里眼の薬使えるか?」


「薬をあげるからアレクが使ってよ」


「ようし」


ちょっと馬鹿だけど憎めないな。

リョーマはアレクサンダーに早くも心を開き始めていた。

キアラスが指名しただけある。

後は任務を無事完了させる事だった。


「こっちだ。盗賊のアジトを見つけたぞ!」


アレクサンダーに従いリョーマも走り出す。

先程のマンティコアがまだ近くにいるかもしれない、だから走れという指示だった。

流石竜人凄いスタミナだ。

息が切れかかった頃、アレクの足が止まった。

どうやら盗賊のアジトの前に辿り着いたらしい。

木製の門目掛けて、アレクサンダーが口から炎を放った。

内側が騒がしいが関係ない。

これがアレクサンダーのやり方だ。


(もうちょっと他に無かったのかよ!何の為に夜まで待ったんだ!)


言ったところで手遅れだった。

竜人アレクの放った炎は内側まで伸びたらしく、妹レイが氷魔法で打ち消す有様だった。

早くも見つけた、ターゲットのうちの一人レイ・シルバーウィンド。

ローブを着ている彼女こそ黒魔術の使い手だ。


火が消えたと同時にリョーマとアレクは剣を抜いた。

ここで一人だけでも倒しておけば優位に運べる……。

だが騒ぎを聞きつけ、姉のフィーネも来てしまった。

二対二だ。

「お前たちは下がってな」とフィーネが盗賊の下っ端を諭すのが聞こえる。


この時のアレクサンダーは素早かった。

咄嗟に距離を詰め、妹のレイに斬りかかる。

どうやら面識のある二人なようだが、今は戦いの中だ。

レイの呪文詠唱が完了するよりも先に、致命症を負わせた。

だが問題は姉のフィーネ。

幻術でアレクの心に忍び込む。 


「ぐわぁぁあ!」


アレクサンダーが叫ぶのが聞こえた。

緊張が走る中リョーマは傷を負ったレイの喉元を剣で突き刺すことに成功した。

初めて経験する人殺しーー。

無我夢中だったリョーマがふと我に帰り立ち止まる一瞬があった。

その隙をフィーネは逃さない。

彼女に睨まれたリョーマの心には暗黒が広がっていった。


中学の頃の虐めの経験が、二乗になってリョーマに襲いかかる。

不幸中の幸いは元々の虐めが大したものではない事だった。

殺した後躊躇したばかりにーー!

気づいた時、アレクは嘔吐していた。

一体どういう体験をすれば嘔吐するに至るのか。

まだ一人の過去の深淵を覗き見たので憶測に過ぎないが、恐らく想像世界(パラレルワールド)は地獄だーー。


リョーマは躊躇いを捨てていた。

意地でもアレクと共にクレイモアへ帰る。

モドリ玉を使う心づもりは出来ていた。

後はーー殺すだけ。


これが正しい選択だったかは分からない。

盗賊のシルバーウィンド姉妹にもそれなりの未来があったはずだった。

だがアレクの嘔吐を見て黙っては居られない自分がいた。

アカツキ・リョーマはこの日二人、人を殺した。

銀の鎧が返り血で染まる。

だがこれで良かったのだ。

こうでもしない限り、元の世界でカツ丼など夢のまた夢だった。

リョーマは神々に宣戦布告した。

モドリ玉でアレクサンダーと共に町へ帰る。

彼と一緒にロンダルギアに戻ればキアラスも喜ぶだろう。

それに森で会った少女キャンディスも居る。

掴めない女の子だったが、あの魔力は確かなのだ。


緑色の煙と共に、二人はクレイモアの噴水広場に戻ってきていた。

アレクはまだ苦しそうにしている。


「何か、助ける方法は?」


宿屋の主人によれば大陸の西部にあるトロピカルジャングルで採れる幻の果実が、彼の暗闇を打ち消すと言う。

ここらの市場では見かけないという話だった。

取り敢えず任務の報酬を受け取ろう。

そしてその金で馬を買い、二人でキアラスの居るロンダルギアを目指そう。

そこからなら鏡を通れるので移動がラクだ。


リョーマはアレクに肩を貸しながらメタスの王女が居るとされる城への入口まで移動した。


「あらまあ大変」


メタスの王女はカラフルな髪の毛をしていたが、それよりも幻影ではない事実が、何よりもリョーマを驚かせた。

この世界で初めて目の当たりにする生身の人間に、同様を隠せない。

そして何より美人だ。

王女クレオパトラは白魔法が使えるようだった。

それをアレクに施すとは中々の関係性と見える。

彼女の手から放たれる青白い光は、アレクの額へと行き届いていった。

天然なドジっ子を連想させる王女と、お馬鹿なアレクはある意味お似合いだ。


十分後、元通りのアレクサンダーの姿があった。

なんだ西へ行くまでもなかったじゃないか。

だがアレクサンダーはリョーマが何をしようとしていたかを朦朧とした意識の中聞いていた。

この時、彼のリョーマに対する信頼は確かなものになったと言える。

二人は報酬の金貨を一枚ずつ貰いメタスの王女に別れを告げ、馬に乗ってロンダルギアを目指すのだった。

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