第十三話「改竄」
次の朝アシュラは街の武器屋へとレナと向かった。
なんでもレナは太刀に取り憑いた生き霊をファントムソードに移植させるつもりらしい。
グレンシアの街は懐かしくも嫌な思い出が漂う場所だった。
「お前ってさ……ずっと一人だったんだろ?」
街を徘徊しながらレナが言う。
アシュラはコックリ頷いた。
彼の過去を知ってから敵対心は消え失せどこか尊敬の気持ちさえ芽生え始めていた。
とは言えレナの記憶が飛んでいるのも確かで、彼と再び信頼関係を取り戻すのも時を要する事を想像させられたのだった。
武器屋。
目玉商品である鎖刀は金貨七枚で販売されている。
とても手が出る値段では無かった。
基本漢字表記の武器は希少価値が高く、それだけ値も張る。
四メートルに達する鎖の先にナイフが搭載されたそれに、アシュラは心を奪われた。
年長の店主が言った。
「お目が高いのう。それは世界に二つとない呪い刀を使用して作ったものじゃ。だが値段的にもお主らでは手が出んじゃろう」
「大剣の強化は幾らだ?銀貨五枚くらいか?」
「まあそれくらいが妥当じゃろう。他にも銀貨七枚でのドラゴンロッドがお買い得じゃ」
「このドラゴンロッドはメリアに……」
「さあその太刀に取り憑くハモン様の霊を大剣に乗り移られせる。時間は五秒とかからんじゃろう」
「そんなに短いのか?」
「フフフ……儂を甘く見るでないよ。出来上がる大剣の名はそうじゃなぁ……魔剣『阿魏斗』でどうじゃろう?」
漢字表記……!
アシュラは鎖刀に気を取られながらもレナと店主の話に耳を傾けていた。
「ん?アシュラ。それ欲しいのか?」
鎖刀の値段は金貨七枚……とても我々のお金で買える値じゃない。
「そう言えば街の中央に闘技場があったな。優勝すれば金貨十枚は軽く貰えるんじゃないか?」
それを聞いて店主は嗤いだした。
「お前さんが幾ら『阿魏斗』を手に入れたと言え二人だけで優勝なぞ不可能じゃ。そもそもあの闘技場は三人一組。舐めてかかると命を落とすぞ」
「三人目なら大丈夫だ。超強い彼女がいる」
レナは「阿魏斗」の完成を見届けるべく、店主と向き直った。
「覇!」
白い髭の店主から放たれる気合い。
本当に五秒で終わった。
満足した様子のレナはそれを背負って店を出た。
アシュラが慌ててそれに続く。
「俺の我儘の為に命を張るなんて……」
「良いんだよ。お前が鬼の子だろうと……悪い奴の匂いはしねぇ」
街の広場に着くとショッピング中のキャンディスとメリアに出くわした。
香水や服を試しているようだが、ナオミの姿はない。
「どうやらナオミはマンティコアと一緒に闘技場の視察に訪れたようだ。俺には分かる。マンティコアの猛獣の血が昨日のうちから疼いてたしな」
マンティコアとは長い付き合いらしく、レナの予想は的中した。
檻の中で行われる試合は正に生死を賭けた殺し合いのようでマンティコアは参加した気な様子だった。
「三人一組らしいぜ。俺とナオミは当然出るとして……後一人をどうするか」
アシュラかマンティコアの二択だった。
だがこれは自分の武器の為……引き下がる事は許されない。
「俺に……出させて下さい!あの鎖刀を手に入れればレナやナオミと並べる……そんな気がするんです!俺も魔女討伐の役に立ちたい」
生まれて初めて敬語を使った。
熱意を買ったのかマンティコアは引き下がる。
全盛期を過ぎた彼はアシュラの肩に手を置くのだった。
「これからはお前たちの時代だ。超えて行け、若きアシュラよ」
話は纏まった。
南の端に潜む兵器を見つけ出す前に、先ずは闘技場で金稼ぎだ。
因みにメリアのドラゴンロッドは掘り出し物だったようで、マンティコア曰く、使用者はドラゴンと心を通わせられるらしい。
「行くぞ、ナオミ、アシュラ。この街の伝説になろうじゃねーか」
レナは黒く染まった魔剣「阿魏斗」を駆使して如何に戦うか。
ナオミも究極剣技の使い手で紛れもない勇者である。
金網の中での試合。
油断は禁物だった。
直径三十メートルの闘技場。
檻の中へ通されそこで見た物にナオミは呆気に取られる。
「ゴーレム!?」
「って事はジェイドなのか!?」
何の事か分からないが、あの煉瓦造りのゴーレムと何らかの関係性があるらしい。
体長は六メートル。
網の天井に届きそうだ。
西の勇者が完全召喚を成し遂げたのは有名な話だが、クリーチャーに情が移っていたと言うのか。
ナオミ・ブラスト。
ある意味レナ以上に良心を感じさせる彼女は七年前のグレン戦でも大活躍したのは伝説となっている。
アシュラたちの入場に歓声はワーッと起き上がった。
西の勇者とハモンの子。
知名度は高くて当然だった。
「完全召喚の後この地に舞い降りたとしか考えられないな。あれは紛れもなくジェイドの匂いがする」
ナオミの言葉とは裏腹に、試合開始の角笛が吹かれる。
『試合開始です!ハモンとの戦いに身を捧げましたチームレナ!今回はどんな戦いを見せてくれるのでありましょうかーー』
ゴーレムの鉄槌。
容赦なくナオミに降り注ぐ。
それをハーフエルフは左に前転してかわしていた。
「同情するけどな、ナオミ。倒すしかねーだろ!」
金網を駆け上がり反転したレナが阿魏斗を振り下ろす。
暗黒魔導斬り。
マンティコアの魔導斬りを凌駕する一撃はゴーレムの頭を破損させた。
「アシュラは手を出すな。敵が硬すぎる」
で、でも……!
ゴーレムは怯む事なくレナに反撃する。
その腕に掴まれた彼は苦しそうにもがいていた。
「アシュラ、ナオミを護れよ……!」
本当に記憶を失っても尚、アシュラの事を「見張り」続けているーー。
真の男にすべく試練を与えている。
レナの気持ちに後押しされ、ゴーレムに殴りかかった。
鋼の拳と言えど……通じない。
「何してる!」ともがくレナは苦しげである。
そこで動いたのは他ならぬナオミだった。
「究極剣技……『桜竜の舞』!」
心を鬼にして放った花びらと青白い竜はゴーレムの腹を焼き焦がし、その者をあの世へと葬った。
凄まじい一撃を放ったナオミは肩で息をしている。
「生きるか死ぬか……迷いが許されない時代だ」
『試合終了ー!』
戦いは終わった。
ナオミはジェイドよりレナを優先したのだ。
歓声の中アシュラたちは金網を退出していく。
手に入る金貨は想定通り十枚。
これで鎖刀がアシュラの物になる。
(ゴーレム戦での借りは魔女戦で返す)
そう心に決めアシュラたちは再び武器屋を訪れた。
記憶が正しければ南の果ての岸辺は此処から直ぐで、地図が示すのが本当なのか疑問視したくもなるが、取り敢えず行ってみるしかなかった。
「まいどありー!アンタらなら伝説になれるよ」
品が売れて上機嫌の店主の声を背に受け、アシュラたちはグレンシアを跡にすべくキャンディスらと合流する事にした。
「今回は相手が悪かったなアシュラ。次回に期待しよう」
観客として観ていたマンティコアが告げたその時だった。
新しい洋服のキャンディス。
白のカーディガンに黒のミニスカで、異世界を彷彿とさせるその格好にアシュラの心がドキッと動く。
「南の果てはもう直ぐなんでしょー?行こ」
「う、うん……」
ルンルンと先頭を行くキャンディス、それに続くメリア。
ドラゴンロッドを携えた彼女も新戦力として期待できそうだ。
ようし……自分だって。
ジェイドと別れを告げるナオミ。
彼女に同情しつつも、六人は兵器のあるとされる南の海岸に足を踏み入れていくのだった。
アラモ地方。
アシュラはこの地で生まれた。
幼い頃から仲間外れにされ、肩身の狭い想いをしてきたが、今は気にしていない。
自分の武器のために命を張った仲間たち。
思いやりのあるキャンディス。
メリアとはまだ打ち解けていないが、グレンの加護無しでここまできた。
でもレナは何故そこまでーー。
「目が似てんだよ。俺やナオミにな」
本当の孤独を知る目、と言うことだろうか。
九歳年上のレナはどこか幼い所と、男らしいところを併せ持っている。
ナオミが惹かれるのも、今になって頷ける。
「着いた……!南の岸辺よ」
キャンディスは可愛い。
それは紛れもない事実だが、本当にこんな所に零社の兵器が……?
地図が示す場所である事には間違いない。
「海に沈んでるのかもよ」
レナが冗談で言ったその時だった。
波が荒たち、水の中から銅製の時計のついた機械が姿を現した。
恐らくこれで間違いない。
「タイムワープ……」
レナが機械に書いてある文字を読み上げる。
兵器というから大砲みたいな物を想像していたアシュラは呆気に取られていた。
七年前、現実世界の人間がこの地に訪れ、機械と魔法をかけ合わせて造った兵器。
大きさは二メートルほどで、目盛りには一から七の数字が刻まれている。
「分かった、コレタイムマシーンだ!」
キャンディスの言葉に、アシュラは混乱せざるを得ない。
時を駆ける機械……タイムマシーン。
それを人類が造ったと言うのか。
今までの常識で言えば、空想上の産物でしかなかった。
「もし七年前に戻って親父を殺せばレナは元の姿に……?」
呟いた。
ハモンが七年前ゼラートにてレナを殺した。
それを阻止すればの話だ。
「いいのかアシュラ……?」
ハモンは我が父……だがそれよりも……レナの命優先だった。
「……行こう……!」
アシュラはタイムマシーンの目盛りをマイナス七の数字に合わせハンドルを回した。
これでレナが骸骨の姿で無くなるなら……それでいい。
機械はゴトゴトと音を立て、煙が辺りに立ち込めた。
タイムマシーンが起動した証拠だ。
ポッポーッ!
時計の針が揺れ動き、気が付いた時空は黒ではなく灰色に染まっていた。
魔女が支配する前の世界。
その時代に彼らは来たのだ。
「本当に来れるなんて……」
「ブルードラゴンを呼ぶわね。このドラゴンロッドならそれを可能にさせる」
メリアが天を仰いで暫くすると若かりし頃の青竜が姿を現した。
「行こう歴史を変えるんだ」
レナの言葉に、一同全員が頷いた。
七年前の状態なら魔女を倒せるかもしれない。
アシュラはそう考えていた。
「いつか七年後に戻ろうね……」
「ああ」
キャンディスの言葉にリーダーであるレナが頷き、六人はゼラートに向けて飛び立つ。
ハモンのレナ殺害を阻止し、やがては魔女をも倒すんだ。
聞けばレナはサッカー選手だった。
サッカーがどのような競技か大まかにしか教わってないが、結構幸せそうだ。
レナの幸せを自分の事のように喜ぶ自分が居た。
「見えてきたわゼラートよ!ハモンは城にいるみたい」
「一騎打ちを申し込もう。ハモンのプライドからして、受けてでるはずだ」
又してもレナの戦いを見届けるしかないのか……。
ナオミが「それは危険だ」と零していたが、今のレナは魔剣「阿魏斗」を所持している。
いざとなれば究極剣技も使える。
「ハモンー!スカルナイトが一騎打ちに来たー!逃げずに出てこーい!」
ブルードラゴンが城の傍に降り立つなり、レナは大声で言った。
本当に七年前の世界に自分はいるーーとアシュラは思った。
灰色の空は、この世界が今昼である事を告げる。
そしてーー城の中から現れた灰色のハモン。
鍛え上げられた肉体は人間離れしている。
「…………受けて立とう」
瞬く間に戦いは始まった。
ハモンに仕える兵達も固唾を呑んで見守る。
だが今のレナは少しばかり強過ぎた。
おまけにハモンと戦う時、クロウ家の加護はレナに味方している。
彼の放つ黒い旋風斬りは、ハモンの腕を一つ斬り落とした。
黒い羽がパラパラと振り落ち、上空で戦う二人の間をハモンの腕が別の生き物のように落ちていく。
「さらば」
腹に阿魏斗を突き刺すレナ。
だが魔女アンドロメダはこう容易くはいかない。
七年前だとしても、絶対に束で掛からないと勝てない。
黒い翼をはためかせながらレナが颯爽と降りてきた。
そしてその姿はみるみるうちに光を帯び、やがて元の人間の姿のレナ・ボナパルトへと戻っていくのだった。
ハモンの兵達はまさかの事態に驚きを隠せない。
「此処は危険だ。東へ逃れよう。魔女もそこに居るはずだ」
もはやハモンに未練はなかった。
レナが彼に殺された事実は消え、今いるレナは生身の身体を取り戻したのだ。
ブルードラゴンに乗り込むアシュラたち。
次こそは鎖刀の出番である事を願う。
「待ってろ……アンドロメダ……!」
レナが金髪を靡かせながら言った。
竜に跨り三時間、アシュラたちは魔女が住むとされる樹海に足を踏み入れた。
着くと早々、メリアがこう告げた。
「アタシここでドラゴンと待ってる。だって不気味で恐ろしいじゃない」
「ああそうしてろ」
レナはあっさり提案を受け入れた。
魔女の怖さを身を持って体験した彼にとって、足手纏いは必要ないということか。
「ちゃんと無事で帰ってくるのよー!」
銀髪のメリアの声を背に、五人が険しい樹海の中を歩き出したその時だった。
矢。
何処からともなく放たれたその矢は、マンティコアの身体に命中した。
「ど、毒か!」
膝をつき口から血を吐くマンティコア・ライデン。
魔女本人が矢を放ったのか猛毒はあっという間に彼の身体を蝕んだ。
思わずメリアが悲鳴を上げる。
「やっと行ける……イザベルの元へ」
マンティコアの顔に死への恐怖はなかった。
身体が二メートル以上あり、矢の的になりやすかったのは確かだが、我々も気を抜けない。
アシュラは半神マンティコア・ライデンが正に息を引き取ろうとしている所を目の当たりにした。
「気を付けろ、いつ矢が飛んでくるか分からんぞ」
阿魏斗に手をかけるレナ。
蒼白のナオミとキャンディス。
そしてアシュラは魔女への殺意に燃えていた。
「先へ進もう。だがキャンディス、お前はメリアと此処に残るんだ。いざとなったらドラゴンが戦ってくれる」
「で、でもアシュラにもしもの事があったら……」
「俺なら大丈夫だ。鎖刀がある。漢字表記の武器はそれだけ強力なんだ」
抱擁をかわした。
暖かい……生まれて初めての経験だった。
「俺もキャンディスを置いていくのは賛成だが……リーダーは俺だぞ?」
「はい!」
又もや敬語を使った。
もはや抵抗はない。
大事なキャンディスを殺させない、その一心だった。
ナオミが倒れ込むマンティコアの方を見つめている。
昔師匠として一緒に暮らしていた時期もあり、思い入れも人一倍強いのだろう。
なら何としてでも、魔女は倒さないと。
樹海を歩く事五分。
小さな木造の小屋が見えてきた。
矢のトラップは一回きりだったが、網で捕まりそうになり、それはレナの危険察知能力で回避できた。
あの小屋に、アンドロメダがいるのか。
魔女の大まかな位置を教えてくれたのはブルードラゴンだった。
そして遂に……アシュラたちはその戸を開ける。
中は思いの外散らかっていた。
服が散乱し、ガラスも割れている。
部屋を見て回ったが……居ないのか?
アシュラが後ろを振り向いたその時だった。
「覇!」
褐色肌の魔女の念力。
この若さと言えど、とんでもない威力だ。
隙をつかれたアシュラは小屋の壁に叩きつけられた。
騒ぎを聞きつけ、レナとナオミが駆けつける。
「わらわの住処に無断で入ってくるとは良い度胸じゃな。あの獣人と同じように殺してくれる!」
魔女の杖から放たれる橙色の光線。
負けじと四本の腕から「流星群」を放った。
二つの光はぶつかり、魔女の小屋は崩壊した。
ゴホゴホと咳き込むナオミ。
だがレナはこの瞬間も無駄にはしまいと、阿魏斗をブンっと振り翳す。
だが半透明になった魔女はレナの攻撃を回避した。
そして今度はナオミの背後に忍び寄り、ブツブツ呪文を唱えている。
「後ろだ!」
アシュラの声も虚しく、魔女は闇属性上級魔法「ジャッジメント」の詠唱を完了させた。
三十秒以内に術者を倒さないと、ナオミの命はない。
「クッソォ!」
鎖刀を命中させ引っ張る事で魔女の身体を手繰り寄せた。
この拳に賭ける。
クリティカルヒットとも言えるパンチは見事顔面に命中。
そしてその直後、レナが暗黒魔道斬りを放つ。
連携技は魔女の身体を両断した。
透明になれる時間も限られていたのだろう。
アシュラたち三人はアンドロメダに勝利したのだ。
「早く元の時代に戻ろう。魔女の居ない、七年後に」
「ちょっとは休ませろ」
レナが樹海で大の字になる。
「ありがとう、レナ、アシュラ。この恩は必ず……」
「そんなのいいっすよ」
アシュラもフニャリと倒れ込み、樹海の空を見上げた。
勝ったんだ。
「ライオンの鬣の首飾りいつまでも持ってるからな」
レナはマンティコアを大事そうに握りしめた。
先程はリーダーとして戦いに集中していたが、やはり思うところがあるのだろう。
「レナさん、ナオミさん!俺を仲間に迎え入れてくれてありがとうございました!」
ずっと一人だったアシュラにできた大切な仲間。
礼を言えるなら今しかなかった。
「馬鹿レナで良いって」
頭を地面に付けるこの格好はキャンディスの前じゃ見せられないな。
ナオミが澄んだ目で見つめてくる。
「じゃ、そろそろ帰るか。メリアとキャンディスが待ってる」
五人はドラゴンに跨り、南のタイムマシーンを目指した。
一人減ったが、歴史を左右させる勝利である事は確かだ。
零社の兵器タイムマシーン。
魔女の手に落ちれば恐ろしかったが、天は我らに味方した。
煙を上げて七年後へと戻っていく。
「取り敢えずグレンシアで宴会だ!」
アラモの首都グレンシアにはレナとナオミとアシュラの見上げるような石像が並んでいた。
どういう事だ……?と顔を見合わせる。
「この世界の真の神レナ様、ナオミ様、アシュラ様を我々は手厚くもてなしまーす!」
宴会は始まった。
手持ちの金貨三枚では足りないような豪華な料理が並び、空は青々と澄み、夢のような時間だった。
騒ぎを聞きつけ、フィーネ・シルバーウィンドが現れる。
聞けばハモンの支配から解放されたので仲間になりたいのだと言う。
そう、歴史は変わったのだ。
神の子フィーネはもう魔女に仕える事なく、我々と行動を共にする。
彼女ならマンティコアの抜けた穴を見事に埋めるだろう。
ナオミも以前精神を食われた事をもう気にしてはいなさそうだ。
勇気の神レナ、慈愛の神ナオミ、誠実の神アシュラは大陸全土で厚く信仰されているようで神々に代わった気分だった。
「アタイ、アンタらに迎え入れられて光栄だよ」
宴会は夜まで続き、幸せな時間は続いていくーーはずだった。
「お前たち真の神々はグレンとミルナという事を忘れたか?神々を侮辱した罪、死んで償え!」
見れば鍛冶屋の屋根の上に人が立っている。
あれは……アルフ・レノン?
グレンとミルナの霊に身体を乗っ取られているようで、魔力の高まりが著しかった。
七年前、レナ達はグレンに立ち向かった。
だがミルナも倒さない限りこの世界は終わらない。
想像世界はひどく汚いーーと同時に美しいものも兼ね備えている。
レナが口を開いた。
「これが最後の戦いになるかもしれないだろ?だから聞いてくれ。俺とフィーネ、この二人しか現実世界に生還できなかったとしても皆んなの事絶対忘れない」
ナオミはもう涙ぐんでいる。
「だからーー共に戦おう。神々を恐れるな」
アルフの矢。
以前の柔な攻撃と違い、光を帯びていた。
レナ、ナオミ、と皆がその餌食になっていく。
「殺させてーーたまるかァ!」
アシュラは鎖でアルフを縛り上げ、毒霧を放った。
そして身体に力が漲るのを感じた。
これはイザベルの技「鬼人化」。
薔薇を所持したメリアが助太刀したというのか。
「ありがとよ!チームレナ、最高だったぜ!」
頭に一瞬、キャンディスの顔がよぎった。
グレンとミルナを宿した身体目掛けて、パンチを放つ。
同時に目の前の視界が、ガラスのようにパラパラと砕け散るのだった。
気づいた時、アシュラは海辺にいた。
レナ、ナオミ、キャンディス、メリア、フィーネも一緒である。
神々に勝利したのだ。
空気は汚いが、その点間違いなく此処は現実世界だった。
フィーネが楽園と揶揄していた場所だ。
「終わったんだな……」
思えば想像世界では色々あった。
その思い出全てが、今の自分を作り上げている気がした。
此処ならサッカー観戦も出来るだろう。
命を狙われるといった事も恐らくない。
そして、アシュラには仲間がいた。
「何故想像世界が消えたのに私たちは消えないの?」
「それは分からない。だが善行が良かったのかもな。或いは仲間を思う気持ちが神々を上回ったのか。いずれにせよ、もう戦う事はないんだよナオミ」
レナとナオミが抱擁をかわす。
海辺で烏の死骸が落ちていた。
最後は敵だったと言え、アシュラはグレンをそこまで嫌いにはなっていなかった。
アシュラたちの想像世界での冒険は終わったーー。




