「手を伸ばし、取り合う心」
「ノアちゃん……」
彼女の身体をあまりよく知らない、見たことも少なかったから分からなかった。私の握る手をほどいて両手を重ねた。中指と小指の長さが全然違う、大きさや爪も何もかもおかしい。柔らかい部分と違和感ある感触に私は驚愕した。
「大丈夫なの?そんな変な身体で……」
「うぅ……変は止めてください。四肢が違くとも私の身体なんです、上半身は全部私のですよ」
「下半身は?」
「脚は殆ど別の人ですね、それ以外は私のですが」
「辛くないの、痛くない?」
「痛いし辛いです、私のじゃないから尚更。でもこんな所でめげるようでは良いお嫁さんにはなれませんよ?私は生きます、例えどんな身体になっても好きな人の傍で眠るまで死にません」
ノアちゃんの断固たる想いに私は気圧される。私には無かった必死に抵抗する力と痛みを耐え抜く忍耐力。私が選ばなかったバイタルをノアちゃんは持っているんだ。私なんかを比べてはいけない、私と一緒なんかおこがましいくらいだ。
「だからユカリさん、ユカリさんはそのままで生きてください。普通のお馬鹿な優しい女の子で生きましょうね♪」
「う、うん?」
ノアちゃんにそっとディスられたような気がするが背中を押され私は頷く。すると耳元からこう囁かれた。
「もう“堕ちて”はいけませんよ、貴女を独りになんかさせません。ユカリさんは明るい世界に生きるべきなんですよ」
その言葉の意味を感じると痛感する。私よりも更に酷い扱いをされた人がいてもその人は希望を持って生きている。私は希望を見出だせなくなって光を失った、でも堕ちた人は必死に這い上がろうと努力しているんだ。だから私も負けないように生きなければ自分の人生を謳うことなど出来やしない。
ノアちゃんはその事に気付かせてくれた。だから私も精一杯ノアちゃんの手を握った。
「ノアちゃんも独りにしないからね」
「はい、承知しています、ユカリさん♪」
「今日はいっぱい遊ぼうね♪」
ユカリは微笑むとノアの唇が頬に押し当てられる。柔らかくて純情な優しさにうっとりしてしまう恍惚的な何かに惹き寄せられてしまう。
「行きましょうか♪」
「う、うん!」
ユカリ達の人生はまだ始まったばかり、途切れたおもちゃを動かせるようにゼンマイを巻く。そして動き出すんだ新たな世界へ、新たな道へ。 手を伸ばせば必ず届く未来を掴んだ彼女達は淡い夢のような幸せに笑っていた。その手を離さず笑っていた。道中人の気配がした気がするけど気のせいだよね!




