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第七十九話 急患

 空が白み始め、皆が起きてくる。エルフの少年を大きい布で巻いてからヘイリーが抱え、少女も同じく姿を隠せるほどの布を被らせて抱えようとしたが、自分の足で歩くと言っていた。街までは遠いが、何か言ってきたら抱えようと思う。

 布は盗賊達が着ていたものだ。男臭いのが嫌だと少女は(しぶ)っていたが、身を隠すのがそれしかないと言うと、とりあえずは納得してくれた。


「疲れたらすぐ言ってくれ」

「大丈夫」


 少し私に慣れてきたとはいえ、エルフの少女はまだアレシアやヘイリーの近くにいる。疲れていないだろうか、付いてきているだろうかと私が見るたびに、ヘイリーの後ろに隠れていた。心配だが、過剰にしすぎるのも良くないと司令に聞いていたから、ほどほどにしよう。


 森から草原へ、そして人が住んでいる村を横目に通り過ぎ、私たちが活動している街の門が遠くに見えてくる。ギルドに登録している私たちは腕につけているバンクルで中に入れるが、少女と少年は難しいだろう。


「耳を見せなければ大丈夫だろうか?」

「無理だね。見せないって行動をすると何かを隠しているって思われるだろうから」


 ヘイリーと相談しながら早足で門へ近づく。街の住人の中には私たちの様に助けようとする者もいるが、盗賊たちのように奪おうとする者たちもいるだろう。人の中身(せいかく)など、誰にも分かりはしないのだから。


「どうしたものか」

「そのまま入れないんですか?」

「通行料はどうにかすれば出来るかもしれんが、顔を見せなければならん」

「……人間なんかに見せたくない」

「この通りだ」


 エルフの少女が眉間に皺を寄せて心底嫌そうに顔を歪めている。2人を元の場所に返さなくてはならないし、一刻も早く少年を治療しなければ。


 治療と言えば、治療院があったな。そこなら薬草を使っていたはずだ。無料でというのは難しいだろう。金を払ったら、もしかしたら薬草を貰えるかもしれない。だが、私は金を持っていない。料金がどれくらいかかるかも分からない。この中で持っていそうなのはヘイリーだ。彼女に頼るか。後で何か言われるかもしれんが、その要望には答えよう。


「気絶しているふりができるか?」


 立ち止まり、私が急に後ろを振り向いて声をかけたことでエルフの少女の肩が跳ね上がり、慌てた様子でヘイリーの後ろに隠れた。まだ完全には慣れていないようだ。


「……しなきゃいけないの?」

「ああ、してくれ。少年の方ものんびりしていたら、これ以上に危険な状態になる」


 少年の息が先程より荒くなっているのが微かに聞こえる。この状態で両方が良い方にを考えていたら、どちらかが危なくなる。それなら比較的危険が少ない方を選ぶべきだ。片方に嫌われようとも。


「……わかった」


 頷いた少女に近づき、抱える許可をもらって抱き上げだ。後はバレないようにしなくては。


「走るぞ、ついて来い」

「分かった」

「は、はい!」


 少女の顔以外を見えないように布を調整して、門へと走って向かう。なるべく揺れないように。


「すまんが、急患2名だ! そのまま通してくれ」


 相手から見える場所まで近づいたところで大声で門番に声をかける。そのまま素通りさせてくれたらいいのだが。


「顔を見せてもらわないと困るな」

「少女と少年だ」


 前を立ち塞いでいた門番は、荒く呼吸をしている二人を見て慌てたように、道を開けてくれた。ここで時間をとるような者でなくて助かった。


「通行料はあとで払わせてくれ」

「今日までには来いよ」

「ああ」


 短い会話を終わらせて治療院へと勢いよく入ると、中の者たちが目を見開いて驚いていたが、今はそれに対応していられるほど暇ではない。医者がいるであろう場所はどこだ。


「すまん、急患一名だ。早急に見てほしい」

「……どちらかな」

「ヘイリー」


 医務室に突撃した私たちに驚き、医者の口から吹き出た飲み物がこぼれて口元が汚れてたが、患者がいると聞いた瞬間、荒っぽく袖で口を拭き、真剣な顔付きになった。ヘイリーの名を呼ぶと頷いて、ベッドへと少年を寝かせている。


 包み込んである布をゆっくり取り外した医者は少年の体を触り、症状を確認して助手に伝えている。

 あちらの世界でも同じだったが、口にしているのは専門用語なのだろう。意味は理解できない。が、それを聞きながら少年の様子を見ていたが、目まぐるしく変わっていく治療院の中から、私たちは流れるように部屋の外に追い出された。

 アレシアとヘイリーは抗議していたが、手伝えることがないのなら終わるまで大人しく待っているべきだろう。


 慌しい雰囲気が部屋から無くなり、安心した顔で部屋から出てくる医者。私たちの姿を見た医者は近づいてくる。


「どうだ?」

「骨が折れて、腹部で出血をしていた。血を取り除いたが骨がつくまでは動かせないな」

「そうか。とにかく、急患だったにも関わらず診てくれたことに感謝する。何か足りないものや手伝うことはあるか?」


 そう問いかけると、医者は腕を組みながら目を(つぶ)っている


「いろいろと聞きたいことはあるが、先程のでライクル草が無くなってしまってね。ちょうどギルドに依頼書を出している。それを受けてくれないか。確か15個だったはずだ」

「わかった。2人はどうする?」


 シルフは問わなくても勝手についてくるだろう。だから2人にどうするか聞かねばならない


「行きます」

「わたしはここで待ってるよ」

「分かった」


 そうして私とアレシアはギルドへ向かった。

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