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第七十八 下らない理由

「もう少しでいろいろと聞き出せそうだったのに」

「すまんな」


 ただの死体となった盗賊を見ながらヘイリーは私に対し、不満そうに口を開いた。飛び散った血や肉塊が自分の靴やズボンに付いている。別に汚いなどは思わないが、不快な気分で満たされている。


「でもなんで急に?」

「……いろいろとな」


 腹が立ったから殺しただなんて死んでも言えん。

 どうしても信じられなかった。エルフが何故弱い立場にいるのか。本気を出せば人間など一瞬で終わらせるほどの実力を持っているというのに。それとも、この世界は人間の方が強いのだろうか。


 全員が全員エルフを下に見ているということは無いだろう。ただ、うっすらとそう感じさせるものがある。

 一定数何かを下に見るやつらはいる。私がいた世界でもいた。そして、その中で少数が行動を起こす。自分たちこそが正義だと信じる者達が。

 胸糞悪いと思っているが、私も他人から見ればその中の一人なのかもしれない。モンスターや人を殺しまくっている。それが世の中の為だと信じて。


 私がいた世界で、この世界のようにモンスターによる人的被害は出ていない。

 だから、事情を知らない者は私を非難するだろう。モンスターにも家族がいると言って。そんなこと知るかと言ってやりたいが、その人たちもブリティッシュ(英国人)だ。国境を死守しなければいとも簡単に死ぬ。

 ただ、それに対する報酬はない。


「これ、どうする?」

「……隠す。特に私が倒した奴らは」


 私の近くに倒れている者はナイフで斬られた死体と違い、証拠がわかりやすい。この世界の住人が銃を知らずとも、私がしたとわかってしまうだろう。燃やしたら森が焼けてしまう可能性がある。


 だから、埋める。掘ってもすぐ見えないところに。


「アレシア達が起きる前に埋めておこう」

「……うん」

「気分悪いか?」

「……ちょっとね」


 目が泳いでいる。それはそうだろう。尋問するはずの者をいきなり私が銃で殺したのだ。動揺するはずだ。

 気にせず先に穴を掘っていたら、ヘイリーが目を瞑り、俯いている姿が視界に見え、その後、自分自身の頬を叩いていた。


「……アーロ、もう一度聞くよ。尋問するはずだった者をなんで急に殺したの? 言いにくいのかもしれないけれど聞きたい」

「……下らない理由だ」

「アーロ」


 穴を掘りながら話すも、ヘイリーの真剣な声に私は途中で手が止め、彼女を見る。ヘイリーが真っ直ぐに目を向けて見てくる。私はその視線から外れるように目線を下に下げた。

 真剣な眼差しは本当に苦手だ。特に女性からのは。

 私が話題を逸らしたとしてもヘイリーは聞いてくるだろう。長くなればなるほど言いづらくなるが、仕方ない。


「……本当に下らない理由だぞ」

「それでも聞きたい」


 口を開くのに勇気がいる。


「……想い人がいると言ったろ? その人がエルフなんだ。私はエルフの力がどれほどか知っている。だからこそ、何故

この世界のエルフは下に見られているのか。それが分からなかった」

「……そっか」

「……下らない理由だろ? ムカついたから殺しただなんて」


 自分でもどうかしていると思う。思春期ぐらいの子供ならまだしも、いい大人がムカついたからっていう理由で、殺人をする。



 いったいどうしてしまったのだろうか、私は。


 何になろうとしているのだろうか。


 わからない。



 とにかく穴を掘って死体を埋めよう。自分の今感じている思いと一緒に。そうすれば少しだけ楽になれるかもしれない。


「アーロ、こっちは終わったよ」

「こちらもだ」


 全て埋め終わったな。後は服と靴の汚れを落とさなければ。


「情報は集められなかったけど、アーロは人だったんだなって分かって良かった」

「それはどういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。ずっと人形みたいだって思ってたから」

「自分でいうのもなんだが、結構人らしいことをしていたと思ってたんだが」


 悩んだり、翻弄されたりとかしていたはずだが、それは自分の感情か。行動ではヘイリーを雪山で埋もれた時に蘇生をしたり、アイスベアーを倒すために協力したりな。


「戻るか」

「ほっとしたら眠気が来ちゃった」


 私の前を歩きながら欠伸をするヘイリー。その姿を見ていると私まで眠たくなってくるが、朝までの残り時間、他に盗賊が来ないとも限らないから警戒しておかなくては。

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