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第七十一話 男であるということ

「ここなら安全だろう」


 木の間から光が少ししか入らないが、目を凝らしてみればもうすでに夕暮れになっているのが分かる。朝、依頼主と別れてからそれほど経ったのか? ほんの二、三時間しか経っていないと思っていたのだが。それとも私の目がおかしいのだろうか?


「シルフ。君の目には空はどう見える? 私からは夕暮れに見えるのだが」

「僕から見ても夕暮れだよ」


 シルフもということは私の目は正常だということか。

 もしかして時間の感覚が狂ってしまったのか? もし魔法とやらにかかっておかしくなっているのならシルフが真っ先に言いそうなものだが。


「アーロ。これ、どうする?」

「外そう」


 子供の首にある首枷を指差しながら私に聞いてくる。外せるのなら外すべきだ。こんなものつけていいはずがない。

 しかしどうやって外すか。鍵穴がない首枷など初めて見る。それだけで通常のものとは違うということ予測できる。私が振れても大丈夫な物なのだろうか?


「ゃ……」


 目の前に座る少女は私とは目線を合わせないようにしている。まだ怖いのだろう。それならば席を外した方がいい。男に見下ろされるより、女性たちと共に居たほうが気も安らぐはずだ。アレシアとヘイリーはまだ固まっているが、もうしばらくしたら戻ってくるだろう。


「これ、アーロは触らない方がいいかも」

「何故?」

「触った人を探知するのがかかってる」


逆探知する魔法ということなのだろうか? ならシルフも危ないのではないか?


「僕は大丈夫。僕が認めないと認識出来ない存在だから」

「大精霊だからか?」

「うん。名前は有名みたいだけどね」


 解錠はシルフに任せるか。

 それよりも少年の方が一刻を争うかもしれん。血を流し過ぎている。応急措置でしかないが、今あるものでやるしかない。


「その子を首枷を外すの頼んでいいか?」

「うん、任せて」


 一刻を争う時に、後ろから自分の頬の真横で風を切る音が聞こえた。この感じはシルフではない。殺気を込めた攻撃となると……。


「……ない、で!」


 刻一刻と時間が過ぎる。が、ここで少女の声を無視して少年の治療したら、次は確実に当ててくるだろう。交渉するしかないか?


「その子に、触らないで!」

「分かった。触らない。だが、今すぐ止血しなくては死んでしまうぞ」


 話すこともなく交渉の余地はなし、か。何もしないと降参の意味で手を上げた。この意味が伝わるだろうか?


「離れて」

 

 これ以上刺激しないようゆっくりと立ち上がって少年から離れよう。こうなったらアレシアかヘイリーに任せるしかない。


「アレシア、ヘイリー。いつまで呆けているつもりだ」

「ほ、呆けてなんかいないし」


 二人の意識を戻そうと少しだけ語気を強くした。ヘイリーは慌てて意識を戻してきたが、アレシアはまだのようだ。


「呆けが取れたら、そこで横たわっている少年の治療を頼む。私では出来ない」

「う、うん」


 手を動して指差すことも出来ないだろう。目線で自分の足元を見て、ここにいるとヘイリーに伝える。彼女が近づいたと同時に私はゆっくりと離れよう。

 しかし、あれだけの事をされても尚、私に殺気を向けてくる。心は折れなかったようだ。それほどあの少年が大事なのだろう。


 さて、私が今やれることは追っ手が来ないように警戒するのみだ。少女はまだ睨んでいる。木の裏に隠れず、背を向けて周りを見るか。


「あ、アーロさん」

「意識は戻ったな」


 ようやく話せるようになったか。長い間ぼーっとしていたが、あの状況を見ても失神しなくなっただけマシになった。ちらりと後ろを見ると少女はまだ私の方を見ている。つられてアレシアも後ろを見るが、少女の形相に目を丸くして、慌てて顔を戻した。


「何故あんなに睨んでいるんです?」

「私が男だからだ」


 よくわからないと言った顔で私の顔を見上げている。アレシアはあの場面を見て、ただだだ驚愕しただけなのか、あるいは悲惨さを見て固まったのか。そこのところは私には分からない。もし、知らないのであれば、あれについて教えるべきなのか、しない方がいいのか悩ましいところだ。もちろん、正しく教えるべきだろう。ただそれを男の私がしてもいいのかということだ。


「あの、アーロさん。さっきのって」

「さっきの?」

「あの男の人たち、何してたんですか?」


 決定だ。アレシアはあの状況がどういうものか知らない。なんて伝えようか。そのままか? それとも言葉を濁しながら?


「アーロさん?」


 仕方ないが、間接的に説明するしかない。同じ仲間だとは言ってもアレシアも女性だ。直接的な言葉を男の私からは聞きたくはないだろうしな。


「男どもがいたいけな少女を囲って怖い思いをさせていた」

「そう、だったんですね……」


 詳しく教えてほしいと言われたらヘイリーに任せよう。嫌な役回りだと後で文句を言われるかもしれんが、男の口から聞かされるほうよりかは断然いい。


「アーロ、これ取れたよ」


 シルフが首枷を持ちながら私の隣に来る。これの処理は後で考えよう。今のところ周りに人の気配はないし、少しでも身体を休めなければ。


「ああ。なら、しばらく休憩して二人を元々住んでいた場所に送り届けよう」

「二人の身体洗った方がいいかな? すごく汚れてるし、幸い近くに水場があるみたい」

「そうだな。では私は食料を探そう。アレシア、協力してくれ」

「は、はい!」


 二人が何を食べるかは分からない。とりあえず食べられるものを取っておいて損はないだろう。

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