第七十話 救出作戦開始
何かを交代したであろう場所には足跡が四つと車輪の跡が二。一つは商人のだろう。もう一つが受け渡し人のだが、操縦席にいるのと荷台にいるのを想定するならば、最低四人以上はいると考えたほうがいいな。
「夜までに追いつければいいが」
「夜だと何かあるんですか?」
「お互い視界が悪くなってバレにくくなる」
今から対峙する相手が暗いところでも見える道具を持っていない限りはこちらが有利のまま。だが、油断しないようにしなくては。
「私は夜戦に慣れてるが、今から対峙する相手が夜に慣れているかどうかによってやり方が変わってくる。三人はそのまま私がさっき言った通りのことをすればいい」
迷いもなく行けるのは、頭の上にいるシルフが指示しているからなのだが、まるで操縦されているような気分になるのは気のせいではなさそうだ。
「もう少しだよ」
左右へと木の間を走り抜け、着いたのは山小屋のある場所。そこにシルフが追いかけていた馬車がある。窓から見える人数は三。女性と少年が声変わりする前の声も微かにだが聞こえる。
攫われたのは人だったのか。何故、あの時近くにいて分からなかったんだ? 何も感じなくなるなんてこと今まで無かったはずなのだが。
とりあえず少しだけ距離を取ってしばらく観察しよう。あまり近づきすぎるとばれてしまう可能性がある。
「行かないの?」
「ああ、まだだ」
山小屋をずっと見て動かない私を不審に思っているヘイリーが聞いてくる。ヘイリーには中で何が起きているか知らせない方がいいだろう。不快な気分になるし、突撃してしまうかもしれない。
「シルフ。君はここに残って周りを警戒。二人は私の合図と共に中に。気をつけろよ」
三人が頷くのを確認し、近くにある木に触れて交渉し、中に入れると、ひんやりと腕が冷たくなる。その後は自分を上から見ている視点に変わる。視点はそのまま地面の中へ行き、木の根が迷路のように張っているのが掘り出さなくても分かった。
三人が近くにいるはずなのに遠いところから声をかけているような感覚だ。
意識が少しずつ離れていくのを直感的に分かるには、この方法が一番いい。
あとは自分の意思で木の根を動かせるかどうかだ。
動かすことは成功した。あとは、どうやって中の奴らをおびき出すか。
自然を装って窓を破壊するか? いや、それじゃ不自然すぎるな。
「アーロ。家の下、木の根が張ってるし家を揺らしてみてはどう?」
「……ふむ」
家を壊す必要は無い。中にいる者達を外に追い出させればそれでいい。ただ、囚われている者たちが巻き込まれないように調整しなければならないのが難しい。
それでもやるしかない。
「な、なんだ!」
「家が!」
中から慌てふためいている声が聞こえる。このままその人質だけを置いて、どこか遠い所に行ってくれればいいのだが。
転がりながら家の外に出てきた男たち四人。ズボンが降りているところを見ると予想通りのことをしていたのだと、再確認してしまった。本当にヘイリーに教えなくてよかったと思う。
ただ、あとが残っている場所に女性二人を入れるのも躊躇う。
「もう行っていい? 戻ってきちゃうよ」
「……私も行く。ただ、二人は気分が悪くなってしまうかもしれん」
遠くに逃げていった男たちをヘイリーが遠目に見ながらまだかまだかと焦っている。あの光景を見て固まってしまうことを考えると共に行った方がいいだろう。
「大丈夫だよ?」
「念のためだ」
戻ってきたら誰もいない状況を作らねば。
中には少年と少女だけいることを確認して、中に入るとこの酷い有様を見たアレシアが声にならない悲鳴を上げた。ヘイリーも固まっている。少年の顔や体には傷跡があり、片目が腫れて、少女に関しては何も言えない。とにかく外に出さなくては。何故か首枷もついている。逃げないようにするためか。あるいは別の用途で使われていたのか。
「ぃや……!」
「どこを引っ掻いても構わん。今から君たち二人を安全なところまで連れていく」
先程まで男にいろいろとされたのだ。私も今は同じ男として見られている。今ここで違うと説得しても少女の耳には届きはしないだろう。無理矢理というものはあまりしたくはないのだが、ここから早く脱出しなくては。
「アレシア、ヘイリー。動けるか?」
抵抗して私を遠ざけようと腕の中で暴れる少女と無気力な少年を抱きかかえ、固まる二人に声をかけるが反応はない。
「シルフ。中に来て二人を」
「はいよー」
外で待機していたシルフに声をかけて中に入ってくると、二人を風で浮かせながら外へ出ていく。私もこの場から一刻も早く離れなければ。
「どこまで?」
「なるべく遠くまでだ」
山小屋が見えなくなるまで走ってようやく安全だと思える場所まで着いた。後ろから足音も聞こえなければ、馬を走らせている音も聞こえない。
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