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第六十七話 不思議な依頼

 ギルド向かい側の宿屋に元気よく入っていったヘイリーに驚きで固まる従業員たち。

 しばらく呆然としていたが、入ってきた者がオリハルコンクラスの冒険者だと知り、別の意味で驚いていた。

 

 女性たちからは黄色い声が宿中に響いている。

 歓喜するのはいいのだがもう少し声量を落としてほしい。鼓膜が破れてしまったのではないかと思うほど耳が痛い。


 私が尋ねるよりも彼女が聞いた方がいいだろうということで今任せている。

 ヘイリーのクラスを聞いた依頼者が勢いよく階段を降りてきた。すぐにでも会いたいと言わんばかりに。


「依頼者のカルニアで合っているか?」

「ええ。貴方は?」

「アーロだ。先程ミスリルに上がったばかりの冒険者だがな」


 彼女を呼び出しに使ってしまったが、逃げ出すよりかは良いだろう。

 依頼者ことカルニアは笑顔だが、大丈夫なのかと怪訝な雰囲気を出していた相手に自分のクラスを教えると、感動した声を出した。これで安全に旅路を向かえることが出来る、と。

 二人の紹介もしようとしたが、聞きいられなかった。何故だ。アレシアもシルフも私の仲間だ。

 言葉にも顔にも出さないが、今のでこの商人を疑うには十分だった。それはヘイリーも同じ。


「確認をしたい。依頼内容は依頼者と荷物の護衛で、中身は確認しないこと。金額は2560エルで合っているか」

「はい、それで大丈夫です」


 初心者用の依頼にしては少しだけ高めだ。何かあるのだろうか? 行く先が危険な所だったり? それだったら低クラスの冒険者に依頼するわけがない。

 詮索するなと言われると気になるのが人の性というものだが、失敗する訳にもいかない。だから心の内側に留めておくことする。


「皆さん、変わったパーティですね」

「そうだな」


 依頼者が馬車に乗り、出発した。道のりが長いということで荷車の所に乗させてもらったが、後ろにある布を被せてある何かが詮索してはいけないものなのだろう。

 他二人は気になって仕方がないようだ。ダメだとわかっているはずなのに何度も見ている。

 

 シルフの方は何度も確認しては首を傾げ、そして五回ほど見て確信したのか、商人に顔を見られないように私に隠れながら眉間に皺を寄せている。シルフがこんな表情を見せるのは初めてだ。何があったんだ?

 

 最後に一回だけ一瞥すると、私の袖を引っ張った。


「この依頼、止めた方がいいよ」


 小声で耳元に話しかけてくる。その後、不愉快そうに依頼人を睨んでいる。幸い、前を向いているから気付くこともないだろうが、何がそこまでシルフの感情を不快にさせているのか私には分からなかった。

 ただ、直感というものはよく当たるもので、おそらく同じ思いなのだろうとはうすうす感じている。

 

 この商人は怪しすぎる、と。


「しばらくは依頼に集中しよう。その後どうするか考えればいい」


 同じように小声で答えた。

 嫌な思いをさせてしまうが、無事終われるように進めるしかない。渋々だが、納得してくれた。

 あの中身がなんでもなければそのまま。もし、何かを本当にあるならば調査してどうするかを決める。


「気になりますか?」

「ああ、すまない。詮索するつもりはなかったのだが、どうも人の性というものは厄介でな」

「そのお気持ちよく分かりますが、秘密です」


 後ろを振り向いた依頼人が私たちを見て、大らかな笑みを浮かべながら問いかけた。それ以上探るなという雰囲気も混じっている。仕方ない。これ以上探って依頼に支障をきたしては意味がないからな。

 とりあえず、見過ぎている二人を止めなくては。


「二人とも、今はこれに集中するぞ。中身がなんであれそれ以上見る必要はないだろう」


 何かと近かったアレシアと席を交代し、何かを守るかのようにその前に座る。何か言いたげに二人から見られているが、依頼人が秘密だと言っていることをこれ以上詮索するのは良くない。

 何か話題を逸らして、別のことに集中してもらわなければ。とは言っても、私が振れる話題なんてたかが知れている。


「ヘイリー。君の気持ちの切り替え方はどこで習得したんだ?」

「え? なになに?」


 アーロが質問してくるなんて珍しいと言いながら目を輝かせて、顔を近づけてくる。確かにすることは少なかったが、距離が近すぎないか?


「私は気づいたら出来たよ」

「何かきっかけとかなかったのか?」

「なにもないね」


 これがいわゆる天才というやつか。私が十年間試行錯誤してもようやく出来たことを、やすやすと飛び越えて前を突っ走っている。嫉妬しないほうがおかしいくらいだ。一種のライバル意識さえ芽生えてくる。醜い感情なのかはどうかは分からない。ただ、敵対視してしまっていることだけは確かだ。


「あたしが何かした?」

「いや、何でもない。ただ、君の天才っぷりな行動に嫉妬した(うらやましい)と思っただけだ」


 不安そうに眼が揺れている。安心させるように私はなるべく優しく答えた。

 こんな感情を味方に向けてはいけない。いつか牙を向いてしまう可能性があるから。

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