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第六十四話 常識知らず

 疑いが一応だが晴れて、その日の昼からは弾の補充と町の探索だけだった。

 今まではギルドに行き帰りするだけしかこの街を歩いていなかったが、よく見ると多くの店が並んでいた。

 

 ヘイリーが雪山の時に持ってきていた魔石商。私たちのメンバーにはいないが、魔法杖を売る場所。洋服店。ポーション屋なんてのもあった。

 今は金銭面で厳しいせいで買えんが、いつか買えればと思っている。


 その次の日もアレシアとヘイリーは訓練をしていた。

 私はシルフに教えてもらいながらも習得できるように今も修行中。


「乱れてるよ」

「分かっている」


 かれこれ3時間している。何故分かるか? 1時間経つたびにシルフが教えてくれるからだ。

 ほんの少しでも乱れたら叱咤が来る。とてつもなく厳しいのがな。

 それでも少しの変化が自分で分かるほどになってきた。


「はい、終わり」

「ふぅ……」


 体の力を抜いた途端、汗が吹き出して止まらない。地面を見れば水溜まりが少し出来ているほどだ。

 水分補給しないとな。


「お疲れ様。少しずつ良くなってるよ」

「それは何よりだ」


 倒れる前にギルドに戻ろう。


「二人とも、そろそろ休憩するぞ」

「後少しだけ……! 何か、掴めそうなんです!」


 立ち上がろうとしたところでアレシアが静止をかけた。いつもなら賛同して隣に来るのだが、今日は譲れないものがあったらしい。

 気が済むまで待ってみるか。


「張り切ってるね」

「そうだな。ヘイリーが直接教えているから、何かを実感出来ているんじゃないか?」


 その何かは私には分からないが、1歩ずつ前に進んでいるようだ。



「お待たせしました!」

「満足出来たか?」

「はい!」


 いい汗をかいたと言わんばかりの笑顔だ。反対にヘイリーは少しだけ疲れた顔をしていた。

 お疲れ様としか言えんが。


「昼にしよう」

「お昼ー!」


 一足先にギルドに向かっていくヘイリー。その元気はあるんだな。それともそれの為に残しておいたとか? だったらすごいな。


 昼食は少しの肉と野菜のみ。弾を買うのに金を消費して、食事の量はいつも少ない。生きている限りどこまでもついてくる問題だな。お金というものは。


「アレシアちゃん、それだけ?」

「はい……」

「これとこれと、あとこれもあげる」


 野菜だけのアレシアにパンやらスープを分けている。

 1皿しかなかったものが6皿も増え、目の前にどんどん増えていく料理にあたふたしている。


「こ、こんなには」

「食べられるところまででいいよ」


 その間にもヘイリーの前にあったご飯が彼女の胃の中に入っていく。

 躊躇いながらも口に入れ始めると、よほどお腹空いていたのか次々と食べ始めていった。それはもう引いてしまうほどに。

 その勢いに、私はもちろんシルフも驚いている。



「もう、お腹いっぱいです……」

「しばらく動けそうにないかも……」


 二人とも机に突っ伏している。

 しばらく休んでいる間に、私は新しいバンクルをもらってから依頼を探しに行くか。

 一応二人はどうするか確認しなくては。


「これからどうする? 私はそろそろ受付の方に行くが」

「わ、私も行きます!」


 まだ消化しきれていないのか、勢いよく立ったせいで苦しそうにお腹を押さえて蹲ってしまった。

 落ち着くまで待っててもいいのだが。


「ゆっくりでいい。時間はまだある」

「いえ、行きます!」

「そうか」


 アレシアが行くと言っているのだから、私が止めるなんてことはしない方がいいだろう。

 一方、シルフも一緒に行くと言い、ヘイリーは動けるまでその場で待っているそうだ。

 先に依頼を見てから受付に行った方がいいな。二度手間になる。



 今日あるのはミノタウロス討伐とゴブリン討伐、あと商人の護衛か。やるとしたらミノタウロス以外のだろうな。


「この二つならどちらをやる?」

「商人の護衛で」

「僕もそれでいいよ」


 二人に依頼書を見せ、満場一致で護衛任務に決まった。ヘイリーへの伝言をアレシアに頼み、私とシルフは受付に行く。ちょうど別の冒険者の相手をしていたところだった。順番が終わるまで彼の後ろに立っているか。

 

 前にいた者が遠ざかり、カリナに話しかけようと近づくと横から誰かが入ってくる。

 割り込みをするとはいい度胸だな。


「常識知らずなのは魔物と変わらんな」


 急に割り込んできたことで受付嬢が慌てている。相手は無視か。ならそのまま聞いていろ。

 先に愚かなことをしたのはお前なのだから。


「規則を守れないほど馬鹿だとしたら、これから受ける依頼者のことを思うと胸が苦しいな」

「な、なんだと!」

「ゴブリン……いや、まだ奴らの方が賢いか。ゴブリン以下のやつがこれから任務を受けるのか」

「てめぇ!」


 ため息をつきながら首を横に振っていると、怒りに震えた乱暴者が殴ってくる。

 避けてもよかったが、それはそれで後から面倒になりそうだ。避けるなって怒りながらな。

 口の端が切れてしまったが、気にするようなことではない


「本当のことだろう? 私が先に並んでいたところに入ってきたのはお前だ。いったいどこで生まれ育ったらこうなるのやら。まさか、暗黙のルールというものを知らないのか? それならば仕方ないな。教えてくれる親も知り合いもいなかったのだろう」

「い、いい加減にしやがれ」

「いい加減にするのはお前だ。一から常識を学んで来い。野蛮人」


 シルフに紙を渡し、やたらと大きい声で喚く男をギルドの外まで引っ張り、放り投げた。

 地面に顔面からいったが、兜を被っていたし、怪我することはないだろう。

 ほんの少し心にモヤが残ったが、ここで殴り返してしまっては、昨日晴らしたばかりの疑いが意味のないものになってしまう。

 それだけは気を付けなくては。

 

「ありがとうございます、アーロさん。こちらもあの方には少し困っていまして」

「前もこんなことが?」

「はい。あの方、新人冒険者の方々にああやっていつも割り込みをすることが多くてですね。皆さん何も言えずじまいだったので」

「それなら、あのやり方は優しすぎたかもしれんな」


 次同じことをしているのを見たら、今度は裸にしてから縛り上げて街に放り出しておくか。看板でどんなことをしたかも添えてな。

 公衆の面前で見られて、さぞ恥ずかしくなるだろうな。よし、次回はそうしよう。

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