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第六十三話 疑い

「魔族と繋がりがあるとの疑いが貴方にかけられています」

「私にか?」


 朝食を食べ終わり、受付嬢のカリナの所に行くと裏に通された。

 そこには試験を受けた時にいた監督官のダリクが、数枚束ねた紙を持って座っている。

 前と違うのは衛兵達が二、三人いることだ。


「言っても無駄なのかもしれんが、一応述べさせてもらう。繋がりなどない」

「それを判断するのは私ではありません」


 ダリクが後ろを振り向くと、布を被せた何かを衛兵が持ってくる。それを私と彼の間の机の上に起き、布を取った。そこにあったのは、小さく濃い緑色の石。濁っているわけではない感じだが、正直私にはこれが良いか悪いかの判断はできない。

 だが、綺麗であることは確かだ。


「これは?」

「名前はありませんが、魔除けの石です」


 名がない? 魔を退散させるでよく知られているのはクリスタルだが、これにも同じ効果が?


「これでどう確認するんだ?」

「触れるだけです」


 破裂とかしないよな?  疑いがあるというのは、暴走して怪物になったことか?

 それとも魔王が語りかけてくることか? あれはあちらが一方的にだぞ。


「……」


 小さい石に触り、反応を見たがうんともすんともいわなかった。

 何もなかったから良かったが、ここに沈黙が流れている。どうするんだ、この空気。


「そもそも、何故私に疑いがかけられているんだ?」

「魔物の姿になったと衛兵たちが申していまして、それでですね」


 暴走しているときになっていたというあれか。あの姿を見て繋がりがある、と。

 直接会話しているところとか、嫌だがあいつらと協力して人を襲っていたならまだわかるが、おかしくなっているところだけを見て、疑ったというのは無理矢理過ぎないか?


「私が魔物になったのを見たという()()は?」

「何を言って!」


 声を荒げる衛兵の中の一人がやたら敵対視しているが、私が何をしたというのだ。


「証拠がなければ、魔族と繋がったとか変化したなんて立証は出来んだろ」

「貴様っ!」


 激昂した様子で、腰に下げている剣に手を重ね、抜こうとしていた。

 なるべく平和に済ませたいが、どうも相手はそう思っていないようだ。何故そこまで私に敵対するのか分からんな。


「それくらいのことで怒ってどうする。私はただ真実を述べただけ。実際、本当かどうか分からないからここにきて聞いているのだろう? 監督官殿」

「ええ」


 その言葉に納得がいかないのか、すばやく抜いた剣を構え、私へ向かってきたが、途中で足を止めた。それはそうだ。顔すれすれにナイフを投げたのだから。


「私は穏便に終わらせたいんだ。邪魔をするならその口を閉じるか、この部屋から出ていくことだ。もう一度同じことをしようものなら、次は顔を狙う」


 頬を掠め、投げたナイフが壁に刺さった。衛兵は真っ青にさせて、床にへたり込んでいる。


「危険なので止めていただけますか?」

「すまんな、これでも穏便に対処しているほうなんだ」


 深く突き刺さったナイフを抜き取り、腰のベルトに直しながら、元の位置に座った時に言われてしまった。


「そしてもう一つ。リカロという冒険者を殺したのは貴方ですか?」

「……ああ。その理由は聞いたのか?」


 紙を一枚めくり、再確認するかのように凝視している。あのことは、隠しようもない事実だ。


「人質を取られたから殺した、と聞きましたが」

「違う。奴は魂を売ったんだ。そのせいで人からモンスターの姿に変わり、私はどうにか異形化をなくそうとした。だが、出来なかった。その場に衛兵と数人の魔法使いがいたが、対処は誰にも出来ないとシルフが言っていた」


 誰だ、嘘をついたのは。間違いなく、私は確認したのちにやつを倒した。それを見ていたはずだ。

 考えられるのは、あの中にいた誰かが後から嘘をつくよう指示したということになる。


「証拠は?」

「……ない」


 視界の端でいまだに尻もちついていた衛兵がほくそ笑んでいた。悪いが見えているぞ。

 ここで怒りに任せて奴を殴ってたら意味がない。思い通りに動いてたまるか。


「証拠ならあるよ」


 頭上から声が聞こえたと思ったら、シルフが飛び降り、姿を大きくした。突如現れた精霊に私以外の全員が多少の差あれど驚いている。


「アーロ、ちょっとごめんね」

「な、なにを」


 私の方を向きながら膝の上に座り、腰に回しているポーチにいきなり手を突っ込み、何かを探していた。そこにあるのは小型録音機ぐらいしかない。

 「小さくしすぎたかな?」とかいろいろ呟いていたが、そこまで小さいものではなかったのだが。

 シルフの今の姿の手ぐらいのサイズだったはずだ。


「これこれ」

「なんだそれは……」


 取り出したのは指輪だった。窓から入る太陽の光を反射して赤色に輝いている。いつ入れたんだ……私はそれを入れた覚えは一切ないぞ。


「君の中にある声をとるやつを真似てみたんだよ」

「一回も見せたことがないものをどうやって……」


 精霊だったらなんでもありなのか? いよいよシルフがなんなのか分からなくなってきた。

 

 そんなことを考えている間にどこかを触っていた。上手くいかないのか唸っていたが、何かを起動させた音がカチリと部屋に響く。その後、あの時の場面を繰り返すかのように声が流れ始め、一言一句正しいかは別として、私が証言した内容と合っている。


「どうやらアーロさんが言っていたことは真実のようですね」


 静かに聞いていたダリクが持っている紙をもう一度確認し、間違いがあったことを記している。

 一応、これで疑いは晴れたということでいいのか?


「証拠不十分として報告させていただきます。疑ってしまったことを謝罪致します」

「ああ」


 間違いがないかを紙とシルフが持っていた指輪型録音機で二、三度確認し、頭を下げてきた。

 衛兵のほうをちらりと一瞥すると、絶望している顔が見えた。

 私を魔物として処理しようとしていたのだろうか? 

 真意は分からないが、これからも注意しておいた方がいいな。


 調査は終わったと言わんばかりに速攻でダリクが紙を纏め、颯爽と部屋を出ていく。

 未だに床に座っている衛兵は他二人に連れていかれた。

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