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第六十二話 少しずつ……

「殺傷力は高いが、利便性で言えば魔法の方が有利であることは確かだ」


 魔力とやらがないから私は銃を使う。魔法使いは、魔力が続く限りいくらでも出来るとも本に書いてあったからな。

 先程撃った二発で弾切れ。材料を集めて作るにも時間がかかる。効率は悪い。


「話は終わりだ」


 まだ何か言いたげだったが、時間は無駄には出来ない。朝食もまだだったな。

 しかし、何故ここに来たのか。洞窟の中で出会ったならまだしも、街に突撃してくるとは。

 何かに追われてここに来たとか? あのメデューサが?


「皆さん、ご無事ですか?」


 受付嬢のカリナと他の受付嬢達が紙を持って近づいてくる。久しぶりに彼女を見た気がする。

 それは置いといて、ここには何をしに。


「討伐お疲れさまです。怪我された方などいましたら、今すぐ治療院か治癒魔法を使える方に見せてもらってください。何もない方は私たちの所へ」


 報告なら私たちが直接ギルドに行けばいいのだが、わざわざ来たのか。

 とりあえず向かうか。


――あやつを倒したか。采配が甘かったようだ。


 一歩前に歩き出したとき、空気が変わった。息苦しさと重圧。

 この声と雰囲気、魔王か。


――あの少ない情報の中でよく気付いたものだ。感心感心。


「相変わらず時を止めるのが好きだな」


――止めぬ方が面白いこともあるが、こうしていた方が話しやすいのでな。


 こいつ、本当に魔王なのか? ただの冒険者の一人にわざわざ時を止めてまで話しかけるなんて。

 最初の頃よりも多少耐えられるようになってきたが、威圧感に変化はないから同一人物なのだろう。疑わしいが。


――疑ったままで構わぬ。その姿を見るのでさえ余興になる。


「頭の中筒抜けなうえに、遊び道具にされちゃたまったもんではない」


――我には関係のないことよ。


 言いたいことだけ言って、重圧とまた共に消えた。というより、何故私は普通に敵対するものと会話しているんだ……。最終的には魔王(やつ)を倒さねばならないのに。これもやつの作戦なのだろうか? 私が人であるがゆえに、情を沸かせて達成させないようにしているのか?


「アーロ、大丈夫?」

「ああ、心配ない」


 未だに頭の上にいるシルフが不安そうに声をかけてくる。そういえば、報告しようとしていたんだった。


「アーロさん」

「カリナか。言ってもいいか?」

「はい、どうぞ」


 スナイパーライフルで目を撃ったこと、どこからしたかなどを報告した。

 何か後ろから野次が聞こえたが知らんな。参加していないやつに非難される謂れはない。


「ありがとうございます。報酬はまた後ほど。それと、この後用事ありますか?」

「朝食を食べた後、鍛冶屋に行くつもりだが」

「そこへは後から行ってもらってもいいですか? 少しお話がありまして」


 眉を下げながら真剣な顔で私を見ている。なにやら重大なことのようだ。

 ドヴェルグの親父さんの所へ行くのは後でもいいだろう。


「分かった。昼前には終わりそうか?」

「順調にいけば、ですが」


 もしかしたら衛兵たちの話がギルドにも伝わったのかもしれない。

 そのことでだったら昼前に終わる可能性は低い。

 だが、目を逸らすわけにもいかない。


「朝食を少し取ってからでいいか? 話している間にお腹を鳴らしたくないのでな」

「あ、はい! そのことは伝えておきます」


 会釈すると、小走りでギルド方面へ向かっていった。


「三人とも、朝飯食べに行くぞ」

「あ、そうだった!」

「行きましょ!」

「僕、お腹空いてたんだよね」


 それぞれの反応を返し、ヘイリーは後ろ向きに歩き、アレシアは私の隣にいながらその歩き方に驚き、シルフは相変わらず私の頭の上で二人の動きを見ながら楽しそうに笑っている。

 時折、髪が引っ張られて痛くなるが、幸せな痛みだと思っておこう。

 

 それにしても、一か月前とはずいぶんと変わった。

 ここに来る前は淡々と仕事をこなし、来た後は、最初は仲の良かったリカロたちとの関係が悪くなり始めた。

 それが、今はこれほどになるとは。


 私自身もだが、問題はまだ解決していないが、今はただこの幸せを享受しておきたい。

 この後どうなるかは分からない。死ぬかもしれない。この二人と別れなくてはならないかもしれない。

 そう思うと、気持ちが少しずつ暗くなってくる。


 まだまだ私は弱いな……。完全に無くさなければ。

 だが、壊すことは出来ない。愛しい人に怒られてしまう。


 そういえば、首に痕を残してもらっていたんだったな。

 それを触りながら落ち着こう。幾分かは楽になる。

 


 心を壊さず、人ではない存在に。



「アーロ」

「……シルフか。驚いた」

「大丈夫みたいだね」

「ああ、ありがとな」


 近い存在なうえに加護を与えた本人だからなのか、すぐに分かって声をかけてきたが何事もないと判断すると、前と隣にいる二人の会話に混じった。

 その隣にいるアレシアが不思議そうに私を見上げていたが、誤魔化すように頭を乱暴に撫でた。

 

 何でもないぞ、と。


「わっ」と驚きながら、好きに撫でられている。「あ、ずるい!」と言ってヘイリーが近づいてくるが、今日は特別だ。それに、先程とは変わって今の私は気分がいい。


「アーロって結構乱暴なんだね」

「この手を止めてもいいんだぞ、ヘイリー?」

「あ、止めないで!」


 頭の上に置いたままにしている私に焦り、どうにか撫でてもらおうとしている。

 年は聞いていないから分からないが、もし10代なのであれば、満面な笑みを浮かべる年相応の反応なのだろうな。


「よし、これで終わりだ。飯食うぞ」


 まだ不満足なのか、頬を膨らませながら共にギルドの中へ入った。

 何か食べるものを分け与えるか。

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