第六十話 恐怖の相手との再会
それから完全に酔い潰れたヘイリーを背負い、前にはアレシアを抱えて安い宿に移動した。
受付に変な目で見られたが、私は被害者だ。
手が空いていなかった私の代わりに、宿屋と食事の会計をシルフに任せた。
「はぁ……」
「お疲れ様。なかなか良かったよ」
「良くはない。明日からどんな顔をしてギルドに行けばいい」
二人をベッドに寝かせ、椅子に座ったからか、先程までの疲れが一気に来た。介抱するのはこれ程大変なのだな。
「二人には限度を守ってもらわないとね」
「そうだな……」
自然と眉間に皺が寄るのが分かってしまうほどだ。何故か頭痛もする。今日は早めに寝よう。時間的にも丁度いい時刻だ。
「私は先に寝る」
「うん、おやすみ」
明日はどうしようか。そう考えながら眠りについた。
ぐっすり眠っていたところ、街中に鳴り響く鐘の音に起こされた。時間は早朝。
いったい、なんだ。普段はならないものが鳴っている。
「三人とも起きろ」
なにやら緊急事態のようだ。準備をしながら声をかけるが、昨晩飲んだ酒でぐっすりと寝ている。
一応叩き起こしはするが反応は薄いだろう。それでも起きなかったら仕方ない。そのまま行こう。
「緊急だ、起きろ」
頬を軽く叩いても反応はない。
外では避難しているのか街の人たちの騒ぎ声が大きくなっている。急がねばならないな。
「起きたら直ぐに来い」
声はかけるが、聞こえてはいないだろう。
宿の外に出ると街の者たちは内側へ、冒険者たちは街の外に向かっている。
いったい何が来ている。地上からは何も見えない。屋根の上から確認してみるか。
この建物が屋上まで階段が続いていればいいが。
「くそっ」
鍵が掛かっている。店主はとっくに逃げているだろう。探している時間もなければ、下に降りている時間もない。近くの窓を開けて、壁伝いに上るしかなさそうだ。
登りやすいのは窓枠を掴みながらか。少しでも力を抜けば落ちてしまう。
「よし。それで、今いるやつ……は……」
何度か落ちそうになったが、無事登れたな。
ここから城門までおよそ500。レミントンМ24の有効射程は800。それよりも少し近いが、撃てない距離ではない。
敵はなんだとスコープで確認すると、そこには奴がいた。初めて私が敗北した相手――メデューサが。
「……っふぅ」
一瞬息をするのを忘れてしまったが、大丈夫……大丈夫だ。何も知らなかった昔の私とはもう違う。
今は対処できる。落ち着けば倒すことも出来る。
落ち着かせるために様子を見よう。城門前では冒険者たちが戦っている。
建物を壁に敢闘してはいるが、思うようにいっていないようだ。
難点は見たものを石に変えるというあの目。
あれさえ潰せれば。
「やるか」
風は背中側から城門側へ。強さは風見が回るほど。視界は薄暗いが見えないほどではない。
恐怖で指が固まる。
私がこうしている間にも下では戦っている。ここで逃げて目を逸らしたら男ではない。
大丈夫。私は一人で戦っていない。
「――――ヒット」
貫通とまではいかなかったが、届いた。門の前では金切り声を上げ、片目を押さえながら暴れている。
あと一つ。
敢闘している者たちには悪いが、暴れていてもこちらに被害はない。ただ時間との勝負ではある。
「手助けするよ」
「シルフ……」
小さい姿になってスコープの上に乗っている。どう助けるかは分からんが、悪いようにはしないだろう。
「頼む」
「うん。アーロはそのままでね」
座っている向きを変え、メデューサを見ている。
こんな時に考えるのは駄目なことなのだが、目の前にいるのは本当に精霊なんだなと、ふと当たり前のことを思ってしまった。
「集中してね」
「すまん」
太陽の光が当たり、人が成し得ない輝きを放っていることに圧倒されていたところを注意された。尤もだな。
仕事に取り掛かるとしよう。
風に変化はなし。未だ暴れているが、何度か同じ動きをしている時がある。そこを狙う。
「ちっ、はずした、か……」
撃った弾は顔の横を通っていく。失敗したなら場所を移動しなくては。
そう思って立ち上がろうとすると、叫び声が聞こえた。いったい何が?
「これで確認してみて」
シルフが、今自分が座っているスコープを軽く叩いている。何もないだろうに。
「両方の目を塞いでいる?」
「当てたよ」
当てた? いや、私は確実に先程弾を外したのを見たはずだ。
撃った後に軌道が変わったとでもいうのか? そんな馬鹿な話あるわけがない。
「言ったでしょ。手助けするよって」
「いったい何を……」
「風で操作したんだよ」
ありえないと思っていたが、実際にするとは。
これは精霊全部が出来ることなのか?
もしそうなら相手はたまったものではない。避けても避けても、目の前の存在の意思で軌道を変えられてしまうのだから。
「あれは、四大精霊すべて出来ることなのか?」
「ううん。風を司る僕だけ」
その言葉に頭が真っ白になる。
前々からとんでもないと思っていたが、私は本当にとんでもない存在を仲間にしていまったらしい。
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