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第五十九話 瞑想

 そういえば魔物は数えきれないほど今まで見てきたが、オーブは見たことない気がする。

 いると噂されていたエルフ族に会ったことがあるのもソフィアのみだ。初めて会った時は偶然だった。魔物に襲われている所を助けただけ。

 それ同様にオーブは見ようとして見れるものなのだろうか?


「うーん……」


 目を開けているから見えないのだろうか? 風と同じく感じれば分かるのだろうか。

 少し集中してみるか。


 今は暖かい風が髪を撫でる程の強さで吹いている。その中に少しでも変化があればそれを追いかけるか。


 まだ変化はない。時々強い風が頬に当たるが、違う気がする。確信なんて持てないが、違うと本能が言っている。

 

 今度はうなじ。

 ん? 何か違ったような。一瞬過ぎて分からん。今肌で感じるのはそよ風程度だが、耳元で聞こえた音は強い風が吹いている時と同じだった。

 それに何故かひんやりとしている。いや、暑い?  違う、交互に来てる。


「疲れた」

「今日は終わりかな?」

「ああ」


 モンスターと戦った時とは違う疲労感があるが、満足もしている。

 目を開けると目の前にヘイリーとアレシアがいた。ものすごく近い場所に。


「眠っているのかなって思ってた」

「いや、瞑想していただけだ」

「随分長かったね」


 飯を食べたのが何時くらいだったかは分からんが、空が橙色になりかけているところを見ると、相当な時間、目を閉じていたのだろう。

 慌しく動いて時間が過ぎていく毎日よりも、たまにはこういうゆっくりとした日も悪くはない。


「二人は何か進展とかあったか?」

「今はついてしまった癖を修正しているところだね。まだ槍を使って間もないからか、直すところは少ないよ」


 胡坐をかきながら正面に座った。その横では、アレシアが申し訳なさそうに謝りながらヘイリーの隣に座っている。

 初日では何も変化はないだろう。一か月後か、それより少し遅れるかだが、気長に待つとしよう。

 それまでに何もなければいいが。


「どうだ? ヘイリーに鍛錬してもらって」

「厳しいです。けど、癖を直したらアーロさんと一緒にクエスト出来ると思うと楽しみでもあります」

「そうか、頑張れよ」


 少し疲れた声を出しながらもいつものように元気に返事をしている。

 癖を直しても基本の動きはまだまだみたいだし、そこからが長いと思うが、無茶だけはしないでくれと思う。

 

 無茶というなら私もなのだが、この世界に来て一か月と半月。その間に三回暴走している。原因は何なんだろうか。一回目はデュラハンに追いかけられた後。二回目はセイレーン戦後。三回目は、リカロと対決した後。

 どれも疲れ切った後に起こったことだ。

 

 疲れるなんてのは元の世界でも発生していた。それでも一回しかない。

 半日休んだとしても、行動している日の方が明らかに多いにも関わらずだ。

 向こうとこちらでは何が違う?


「ご飯食べよ。僕お腹空いた」

「そうしましょう」


 皆のお腹から音が鳴っている。微かにだが、私もだ。

 これは後で考えるか。



「今日はお疲れさまー!」


 エールを掲げ、それを一気に飲み干している。毎回豪快に飲むさまは見ていて気分がいい。

 ただ、酔いつぶれないかどうかは心配ではあるが。


 夕食は肉と新作のライ麦と豆入りのスープを頼んだ。肉は明日の為。豆入りスープは今日の疲れを癒すため。


「それでたりるのぉー?」

「十分だ」


 さっき始めたばかりなのに、もう酔っぱらっている。料理が来るのを待っている間にどれほど飲んだんだ?


「あーろー。あれ、またたべたいねぇー。あいすべあーのおにく」

「確かに美味かったが、君は止めといたほうがいい」

「なんでさぁー」


 凭れ掛かるように背中に引っ付いているが、それよりも周りの視線が痛い。朝にも同じことがあったな。

 ただ違うのは驚いているといった視線だ。


「醜態を晒す事になるぞ」

「いいもん」


 口を尖らせて言っているが、もう既になっているんだが……?

 その後の事はアレシアに任せよう。雪山で遭難した時は仕方なかったが、女性同士なら服を脱がしても違和感はない。


「キスしよー」

「断る」


 首に腕を回し、顔を近付けてくるが決してしない。

 世間一般的に彼女は活発で良い女性なのかもしれんが、私には最愛の人がいる。

 もし、ここで万が一のことが起きて、キスしてしまったらソフィアが嫉妬してしまうかもしれん。早く離れさせなければ。


「ヘイリー、離れるんだ」

「やだー」


 腕を遠ざけようとしているのが分かったのか、先程よりも腕に力をこめ始めた。

 若干絞め技のようになりかけているのは気の所為か?


「ヘイリー」

「やぁー」


 そろそろ本気で息が苦しくなってきた。予想以上に力があるからか、なかなか解きづらい。

 気絶する前に手を緩めてもらわねば。


「醜態を晒し、世間にキス魔だということが知らされていいのか?」

「きすまってなにー?」


 首の前で交差しているヘイリーの腕を掴んで少しずつ……。


「酔っ払っていろんな人にキスしまくる君のような人のことだ」

「いいもん」


 何が良いのかは分からんが、とりあえず離れて欲しい。男女だといろいろと誤解を招くが、女性同士なら……。


「アレシア、交代だ」

「え、ええ!!」


 ヘイリーの酔いに唖然としていた所に急に振られ、目を大きく開け驚いている。すまん。巻き込むような事をしたのは分かっている。だが、どうしようもない。


「あれしあちゃんもするぅ?」

「え、えっと!」


 酔いで呂律が回らないのか、間延びした口調で話しかけている。あとは頼んで良いか、アレシア。私は疲れた。


「何故抱き着く?」

「ヘイリーさんがする? と言ったので」

「たのしいねぇー」


 まさかあの発言から抱き着くとは……。もしかしてアレシアも酔っているのか?

 というより、先程からシルフが静かなのだが。


「何を楽しそうに笑っている」

「ん? 楽しいから笑ってるんだよ」

「助けてくれ」


 自然と溜め息が出てしまう。

 もしかしたら厄介なパーティを結成してしまったのかもしれない。

 今後の教訓として、この二人には決して酒を呑ませないということにしよう。そうしよう。

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