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第五十八話 自分を識る修行

 ヘイリーを一人置いて、三人で裏の練習場に行くと、多種多様な冒険者がいた。あまり関わることがなかったが、活気があっていいものだ。見渡してみると、人の姿で動物の耳がついている者がいたり、ドヴェルグがいたりしたがエルフはいなかった。親近感があるとしたらあの者達なんだがな。


「お待たせ!」


 急いできたのか、頬にエールの泡がついている。それを言うと、豪快に腕で拭い、アレシアの元へ向かった。広く使うだろうと考えたのか、場所を確保して待っていた。


「じゃあ、よろしくね」

「はい! よろしくお願いします!」


 勢いよく頭を下げている。ヘイリーは実戦形式でやるみたいだが、手加減をするだろうか。そこは私が心配するものではないだろう。勝手にしてくれると思っておこう。

槍の基本なんてものは私も知らない。だから、今ヘイリーが教えている方法を見て私も覚えておこう。いつ、どこで使うかは分からなくても、いつか使うことが来るだろうから。


「なんか落ち着いてるね」

「それはいつものことだろ」

「今まで君と接してきた以上にだよ」


 隣に座りながら話しかけるその顔は、穏やかな表情だった。それは精神的に落ち着いているということでいいのか? それなら今の自分でもわかるが。


「何かしてもらったの?」

「特別なことはなにも。ただ、印をつけてもらっただけだ」

「そっか」


 どこに何をとは言わなくても分かったのか、それ以上は聞いてこなかった。

 それからはアレシアとヘイリーの特訓を楽しそうに見ている。

 

 この世界は今、人類滅亡の危機に瀕してはいるが、平和だった。

 向こうでも英国に魔物がいることは、全世界に知られている。

 今までなら抑え込むことは出来ていたが、一人だといつか限界が来る。誰かに頼るのも悪いものではない。だが、戦えるまでに期間を要する。その間に魔物たちは力をつけるだろう。


 

 そうさせない為に、私が今ここにいる。魔王を倒すために。



 いつまでもこんな平和な空間が、この世界に続いてほしいと自然に思える。元の世界でもこうなってほしいとすらも。

 殴り合いをしている人間の喧嘩がかわいく思えてくる今の私は、どこかおかしいのだろうな。


「心穏やかって感情の中に、複雑な思い? 決意も混じっているね」

「よくわかったな」


 先程まで「二人ともがんばれー」と応援していたシルフが、私の顔を見てにっこりと笑った。


「アーロが、何をどう思っているかまでは分からないけど、感情だけは分かるんだ」


「君がただの人だったら分からなかったけどね」と言いながら寝ころび、見上げている。


「二度とあんなことが起きないようにするには力をつけなくてはな」

「……そうだね。まずは、君自身を識ることじゃないかな?」


 奥深くを覗き込むような視線に目を逸らしたくなるが、ここで逃げてはいけない。

 しかし、識る、か。今までそういうことはしたことがなかったな。この機会に理解するのも悪くはないな。

 瞑想でもすれば分かるだろうか。


 今の私は何で役に立てる? シルフから授かった加護で何が出来る? 

 役に立つのなら、魔物の知識や銃の扱いだ。今後そこを強化していけばいいだろう。

 

 なら、加護は? どうやって鍛える? 何をどうすればいいのか、まるで分からない。

 これこそ、”識る”なのだろうな。

 

 今出来ることは、視界を更に良くすることぐらいだ。暴走した時、使っていた間どうだっただろうか? 

 ぼやけがなくなっていたのは確実だ。それ以外に分かったことは、邪魔をしていたのがシルフだとわかったこと。何故疑いもなく断言し、そこに向かったのだろうか。


「……頭が痛くなりそうだ」


 そんな簡単にわかる問題ではないだろう。それが出来たらここまで苦労しない。


「そういえば、シルフ。向かうとき風が知らせてくれるって言っていたよな」

「そうだね」

「具体的にどんな感じでなんだ?」


 少しはヒントになるだろう。


「具体的にかー。風に色が着いてそこまでの道を知らしめてくれたってことかな」

「風に色?」


 見えないが感じることの出来る風に、色がつくことなんてことあるのか?


「うん。アーロは人の雰囲気を感じたりしたことある?」

「怒っていたら話しかけずらいとか、そういうのか?」

「それと一緒で、風にも色が着くことがあるんだよ。僕みたいな風の妖精が、表情を顔に出すくらいだもん。微量だけど同じようにあるんだよ」


 それは初めて知った。何気に感じていた風に表情があるなんて。固定概念がここで崩れてしまった。

 空気に話しかけたら、周りから変だと思われるな。ならば、心の中で対話の様な事をしてみるか。

 しかし、どうやって会話するんだ?


「……さっぱり分からん」

「最初はそんなものだよ」


 ケラケラと笑うシルフに、眉間に皺がよっているのを自分でも分かる。


「ヒントとしては、周りにオーブがあると思うことだね」

「オーブ?」


 あの丸い玉か? それが目の前にあると? オーブというと幽霊と関係があるが、それとは違うのか?


「……アーロが珍しく混乱してる」

「意味が分からんからな……」


 何に対しても笑っていたシルフが驚いた顔をしている。その表情を見るのは初めてだな。

 今日は珍しい事だらけだ。

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