第五十七話 食事
「絶対とは言えんが、なるべく回避できるように考えておこう」
「何かいい手が?」
私の言葉に希望を見出したのか、勢いよく顔を上げて輝いた目で見ている。
「漠然とした案ならあるが、私には不利な条件だ。それをどうにかいい方向に持っていけないだろうか」
「どんな内容なの?」
言われたことを早速反故してしまうが、これ以外あるのだろうか?
「……条件付きで一時期国の言う事を聞く」
「それ、休む暇無くなるよ」
「だろうな」
この机だけ重い空気になっている。私がしてしまった事だが、どうにかして和らげなければ。
「やっほー! なんか、みんなして顔が暗いね。どうしたの?」
「ヘイリー」
ここだけ重い空気になっていたが、周りでは彼女が来たことでざわついていた。
周辺の声が聞こえないほど話し合っていたのか。
「その人強そうだね」
「アーロさんの知り合いですか?」
シルフは見ただけで分かったか。
「この女性はヘイリー。任務で西の街に行った時の協力者だ」
「そして、裸で抱き合った仲だよ。ね?」
再確認するかのように私の顔を横から覗き込み、背中に体重をかけてきたが、それよりも痛いのが周りから刺さる視線だ。
嫉妬なのか羨望なのかはわからないが、それを私に向けるな。
「誤解を招くような言い方はよしてもらうか、ヘイリー」
「本当のことでしょ?」
「だとしても、もうすこし言い方があるだろ。凍死しないように温めたとか」
「どちらにしても裸で抱き合ってることに変わりはないよ」
ああいえばこういわれる。
それに辟易していると、離れて空いている席に座った。そしてエールを頼んでいる。
相変わらず自由奔放だな。
「それで。ここに来た理由は?」
「一人だと寂しくてさ。一緒に出来たらなって」
目尻に涙を溜め、泣き顔とは違う顔でじっと見てくる。
そんな表情には騙されんぞ。一度あることは二度あるというからな。
「同じくらいの実力の者たちとパーティーを組めばいいだろ? なぜランクの低い私たちと?」
「別にいいじゃん! したいんだもん」
「だからって……」
じとりと目を細めると、さっきまで顔を見て話していたのに言いにくいのか目を逸らした。
「そういえば似たようなことが前にもあったな。私が今どういう心境か想像してみろ、ヘイリー?」
顔を逸らし、耳を塞いでいる。あまりこういうことはしたくないのだが、手首を鷲掴みし耳から遠ざける。
こうでもしないと言わなそうだからな。
「正直に話してもらおうか?」
痕が付こうが関係ない。意図があってああいうことをしたのだけは分かる。
だから、今回も同じことだと思っている。
観念したのか、耳元に顔を近づけて来た事情を話し始めた。
「君の監視を頼まれたの」
「そうか」
衛兵たちに銃を向けたあのことで、ヘイリーが来たわけか。
内密なことか、それともこれから全員に知らされるのか。
「ということは、何で来たのかを知っているわけか」
「うん」
神妙な顔つきになっているが、もうあんなことにならないようにすれば済むだけの話だ。
その為に休養もしっかりとする。
向こうでは多くいたが、ここでは休みを取って怒るような奴はいない。
自分に少しぐらい甘くてもいいだろう。だが、節度をきめなくてはな。
「アレシアには自分で上手く説明しろよ。へまだけはするな」
掴んでいた手首を離すと、私の耳元から離れ、アレシアの方へ顔を向けた。
「えっと、君がアレシアちゃんでいいのかな? あたしはヘイリー。オリハルコンクラスの冒険者だよ」
「えぇ! そんなすごい方が!」
目を丸くさせながら驚くアレシアにヘイリーが事情を説明している。
ありきたりな内容だが、彼女を不安な気持ちにさせないようにというのが見える。
その中に少しの真実を混ぜながら。
持ち前の明るさでもう打ち解けている。
同じ槍使いということで、使い方も教えてもらうらしい。私の様な素人が教えるよりかその方がいいだろう。
女性同士でやりやすいこともあるだろうからな。
「今日はどうするの?」
「休みだ」
「え」
予想外の答えに驚いたのか、硬直するヘイリー。入った初日から休みだとは思わなかったのだろうな。
「身体を壊しそうでな」
「そっか」
「明後日からまた開始する」
少し寂しそうに眉を下げる彼女に、雰囲気を感じたのかシルフが槍を教えてもらったら?と提案していた。それはいいな。私は休めて、ヘイリーは動けるうえに教えることが出来る。
「では、食べ終わってからだな」
「はい!」
楽しそうに笑いながら食べている。本当、アレシアは良く笑う。
反対に、最近自分は笑っていただろうか? 環境が環境な分、出来ていない。
今すぐ笑えなんて言われても出来はしないだろう。ただ、寄せることは出来るかもしれない。
「アーロはもういいの?」
「ああ、これだけで十分だ」
肉は多く食うことはあっても、野菜や豆類はそこまで多く食べることはもともとなかった。食べたとしても、タマゴぐらいだろうか。




