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第五十二話 破壊する

「……おまえノ、ほんと、うの、もくテき、は、まおウさまの」

「っ!」


 やつの口目掛けて撃って止めを刺さなくては。

 自分の身が危なくなる。


 最後まで言わせないようにしたが、あの言い方は知っている。

 まずいな。一番知られてはならないやつ(魔王)に知られてしまった。


 この先、私はどうなる。一生戻れなくなるのか? 

 ソフィアにも司令にも会えなくなるのか? 

 そんなのは辛すぎる。


 ここへ来たのだって、いつか来る平和な日を迎えるためだけに来たのだから。


「……ろ!」

「……さん!」


 やつが死んだかなんて確認している暇はない。原型が無くなるまで



 コワサナクテハ



「アーロ!」


 頬を叩かれた痛みと、強い何かで飛ばされた感覚で目の前が一瞬だけ暗くなる。

 いったい何が起きた……?


「君が怪物になりかけてどうするのさ! あいつに何を言われたのかは分からないけど、いつもの冷静なアーロはどこ行ったの!」

「…………すまん、少し動揺していた」


 いつも余裕そうに、そして楽しそうに話しているシルフが私の胸倉を掴んで、物凄い剣幕で怒っている。

 それほど酷かったのか……。先程までの自分は。


「何があったの?」

「……これだけは言えない。ただ言えることは、私の命に関わることだということだけだ」


 知られてしまった以上、これからどうするべきだ? 魔王が誰にも言いふらさない事を願うしかないのか?

 それか、知った奴らを脅して口止めをするか。

 いや、それをやるとの信用が無くなる。上に行くには、大事なことだ。


 そもそも、どうやって知らせるんだ?

 私に話しかけて来たように、他の奴らに話すのか? それとも、リカロに何かしらの方法で知らせたように教えるのか?

 それだと、どれだけ対策を取ろうとしても防げない。


 結局、奴の思い通りに動くしかないのか。どれだけ足掻こうと、強い者には逆らえない。


「……もう平気だ。少し退いてくれ」

「うん」


 不安そうに瞳を揺らしている。

 その目に移る自分はとんでもなく醜いな。あいつにああだこうだ言っていた自分が怪物ではないか。

 人のこと言えんな。


「アーロ。君はちゃんとした人だよ」

「……知っている」

「そっか。でも、アレシアの前ではそんな顔しないようにね」

「……分かっている」


 どれほど酷い顔をしているのだろうか。

 鏡がない以上確認出来ないが、とんでもない表情をしているのは確かだな。


 しかし、見せないとなると、心を壊す以外の方法を私は知らない。

 なに。今までしてきたことをやればいい。

 自分に暗示をかけて、取り繕った顔をアレシア達に見せながら壊せばいい。


「……」


 深く息を吸い、肺から細く長く空気を吐き出す。それの繰り返し。


 人の心はストレスが溜まりすぎると、壊れるものだ。意図も簡単に。

 負荷を掛けて、今は他の事を考えず、ただ壊す事だけを考えればいい。


 しばらくすると、どこかで亀裂が入ったような音がした。

 これで出来た。


「……アーロ?」

「どうした」


 今周りに、破壊するべきものは何もない。それならこの状態を長く保とう。

 それにしても妙に周りが静かだな。何か変なことでも起きたか?


「始末し終わったな。帰るぞ」


 早く戻って依頼を受けよう。

 嗚呼、そうだ。新しいバンクルを貰わないといけないのだったな。渡されるのは3日後だったか?

 アイアンクラスの化け物は、どれほどの強さなのだろうか。簡単に壊れないで欲しいが。


 さて、どう殺ろうか。


「あ、アーロさん……」

「帰らないのか? もうすぐで日が暮れるぞ」


 野宿なら、夜ご飯は魔物の肉にしよう。この辺りにブルはいるだろうか。いなかったら別で代用しよう。


 もし、日暮れまでに街に着いたら何を食べようか。

 肉を食う事は確定している。


 待てよ。食べられるだけのお金を今持っていただろうか?

 所持金50エルか。これじゃ何も食えんな。仕方ない。適当に狩って食うか。


「ねぇ……」

「どうした?」


 そういえば、加護があったのを忘れていた。これで少し実験するか。

 貰った時はどうやっていたかな。確か、戦闘態勢になっていたような。


 嗚呼、見えた。見えた。1回目よりもだいぶはっきりと見える。

 あのボヤけは何だったんだ? というくらい、今の自分は調子がいい。


「そこまで!!」

「どうした? そんなに慌てて。それほど早く街に帰りたいのか?」

「違う! 自分で気づいてないの? 目から血が出てるんだよ」


 血? 血如きでそれほど騒いでいるのか? ただ流れているだけだろう。

 何をそんなに慌てているのか、分からない。


「それ使うの禁止!」


 顔を持っていかれそうな程強い風が当たったと思ったら、急に見えづらくなった。

 乱視だったか? そんな状態だ。


「僕言ったよね。使い過ぎはダメだって」

「そうだったか? 覚えていないな」

「っ!」


 目を閉じてしばらくしたら元に戻るだろうか? 試してみるか。

 まだ戻らないな。もう一度だ。

 少し治ってきた。もう1回。

 ボヤけが少なくなってきた。後少しだ。


 変わらないな。目を潤した方が早く治るだろうか?

 水は何処だ。いや、探す必要はないか。涙を流せばいい。


 血が付いた手で触るのも嫌だな。何か代わりのものはないだろうか。

 失明するものでやるのは止しておこう。誰かに眼球を触ってもらうか? そうだ、そうしよう。


「シルフ。私の目を触れ」

「な、なにを言って……」

「目を潤したい。だから触れ」


 血が付いてない私よりも小さい手。自分で下まぶたを引っ張って、その小さき手の指の腹で無理矢理触らせた。

 少しの刺激で涙が出るのだから、人間の体は便利だ。

 しばらく目を閉じて全体が潤うのを待とう。


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