第四十六話 都合のいい展開
「頭に当ててたらどうなってたの?」
「……神のみぞ知るってことだ」
「どういうこと?」
不思議そうにしていたが、結局は撃たなければ死なないということになる。
反対に生き残るやつもいる。
だから殺しの依頼が来た時は、いつもスナイパーライフルで仕留めていた。
確実に死なせなければならなかったから。
「この話は終わりだ。盗賊たちを探すぞ」
「ちょっと待って。ちゃんと言って」
「報告するためか?」
「そう」
ここで話してもいいが、長くなりそうな気がする。
「長くなって盗賊の頭が逃げたらどうするんだ」
「それは大丈夫。あれを付けられた人物は、何も気力を起こさないような魔法がかけられているから」
安心しきった顔をしているが、それは危険な考えだな。
もしもなんてことを考えたらキリがないが、人間、思いつかないようなことをする。
例えば、とち狂った人が起こす行動は、普通の人には理解できないこともしばしば。
そういう奴らを相手にするには、自分もそうならなければならない。
サイコな考えを持つ者に対しても、そんな思考にならなければ、理解など出来ようもない。
普通ではないのだから。
「便利だな。ではなくて、もし、あいつが魔法に抵抗できるものを持っていたら?」
「それはないでしょ」
「君は雪山でどうなったか、もう忘れたのか?」
確かに、魔法というものは便利だと思う。出来ないことを出来るようになるのだから。
だからこそ、皆侮る。
絶対だ、と。この世に絶対なんてものはない。
あのジェリコの壁と呼ばれる決して崩れることのないものでも、神の前ではなす術もなく崩れ落ちたのだから。
「あ……」
「あれは魔石だったが、魔法でも同じことが言える。私は1人の魔法使いしか知らないから、全員が同じかどうかはわからんが、永続するものではないだろ?」
「そう、ね」
「それと同じ。あんな輩が魔法を使えるわけがないという先入観で放置し、逃がしてしまったことが過去にもあるんじゃないのか? ヘイリー?」
言葉に詰まっている。心当たりがあったようだ。
「人は一度あったことが成功すると、簡単に油断する。前もこんな事あったから今度もいける。成功すると。もちろんそう思うのは良いことだ。だが、それで気を緩めたらいけない」
その言葉はまるで、昔の自分に言っているようかのような気分だ。目の前にいるのはヘイリーだ。
ただそれが、私には幼い自分になっているかのような錯覚すら覚える。
違うと分かっているのに。
「ごめん……」
「謝ることではない。ただ気を付ければいいだけの話だ。死ねばそれすらも出来なくなる」
「うん」
しばらく俯いた後、自分の頭の中で整理が出来たのか、顔をあげて勢いよく両頬を叩いた。
乾いた音が街の中で響く。
「よし!」
景気のいい声が聞こえた後、歩き出した。どこへ行くのかと問うと、盗賊の所にと返事がくる。
住処もまだわかっていないのに、どうやって行くのだろうかと思っていると、向こうからわざわざ来てくれた。
探す手間が省けのはいいのだが、なにか都合が良すぎる気がするのは気のせいだろうか?
「今から注意深くするあたしの前では、誰も逃げさせないよ!」
槍の柄の部分を敵に向けて構え、戦闘態勢になるヘイリー。敵の数は10。
武器は、剣に槍。鉄槌にハルバード。飛び道具が2。どちらも弓だ。
もしかしたら隠しでナイフを持っている可能性もある。十分に気を付けなくては。
とりゃあと言いながら、敵に向かっていく。
さすがはというべきか、軽い身のこなしで次々と武器を無力化していく。
私の出る幕はなさそうだなと思いつつも、準備だけはする。
いつ、何があっても大丈夫なように。
ただ、怪我もさせずというのがネックなのか、少しだけヘイリーのまごついていた。
それに気付いたのか、弓持ちが少し離れてから、矢をつがえている。
こういうときに出番なのかもな。
「うわっ!」
弓の弦が切れるかはわからんが、撃てば少なくとも矢は壊れる。
ただ、これを続けても、こちらが先に弾切れする。
もっと効率良い壊し方はないだろうか?
そう思考をめぐらせていると、ヘイリーの後ろからハルバートが振り下ろされようとしていた。
拳銃でもいいが、威力は弱い。なら、至近距離だが、スナイパーで撃ったらどうなる?
刃が彼女に当たってしまうということも考慮して、なるべく横に逸れるように。
「すごいね!」
感嘆とした言葉に2つの意味があったように感じたが、それは私の勘違いだろう。
ハルバードの柄は完全には折れず、少しだけ繋がっている状態になっている。
いつかは分からないから注意しなければ。
それを振り回す可能性もあるからな。
「あたしも負けてられない!」
鼻息を荒くし、先程よりも早く動いている。
どういうふうに動けばいいかという感覚に慣れてきた証拠だろう。
ヘイリーに勝てないと察したのか、遠いところで見ている私の所へ向かってきた。
どうせ、弱いから飛び道具を使っているのだろうという思考が顔に出ている。
あの盗賊たちは酒場の中で何を見たのだろうか。
「君たちは何も学んでいないのだな」
スナイパーライフルを直し、アサルトを構えた。
新たな武器を見て少し躊躇した隙に、全てを破壊した。
後は弓持ちの2人だけだ。と思って構えたら、既にヘイリーが気絶させて縄を付けている。
早いな。
「これで終了か確認しよう」
「お店の中にいる頭領を連れてくるね」
「ああ」
折れた武器を、呆然と見ながら俯いている盗賊たちの腕に縄を当てると、まるでマジックを見ているかのように腕を貫通して、はまった。これはすごいな。元の世界でも使いたいぐらいだ。
感動していると、引きずりながら店から出てきた。
もう少し、扱いというものをだな。
「まだ気絶しているみたい」
「そのようだ」
幸いなことに、ずっと意識がなかった。
ほかにいないかをこの頭から聞くことはできないが、それはほかの盗賊にでも聞けばいいことだ。




