第四十四話 無意識の行動
「下山するぞ」
「わかったー」
火を消し、雪山の中に燃えた木を隠し、忘れ物がないかを再三確認する。
なんてことはない行動なのだが、この習慣に助けられたこともしばしばあったから、侮りは出来ない。
「吹雪止んでよかったねー」
「そうだな。だからと言って油断は出来ないが」
今は風もなく、雪も降っていない。視界は今のところ良好。
だが、山は天気が変わりやすいものと昔から相場は決まっている。
一歩一歩慎重に、かつ迅速に。
雪で隠れて見えないところに穴が空いている可能性もある。
「随分ゆっくりと歩くんだね」
「君が前を歩いても構わないが、穴があった時どう対処するんだ?」
隣を軽快に歩いていた矢先に、小さい穴の中に落ちた。
声はするが、出てこれないところをみると、深いようだ。
「それで、前を進んだ結果どうなった?」
「ごめん」
安い紐で引っ張り上げた時、申し訳なさそうな顔をしながら上がってくる。
戦闘面では文句なしだったが、他の部分は少しだけ弱い様だ。
今まであれほどの吹雪を体験したことないと言っていたし、幸運にも穴が空いている場所を避けれていたのかもしれない。
雪が積もったことで分かりづらくなっていたのかもな。
「先頭は私がする。その紐を手放すなよ」
「うん」
ヘイリーがしっかりと掴んだところを確認し、慎重に歩きながら街へと向かうとしよう。
「やっとついたー」
朝に洞窟から出て、ギルドについたのは昼過ぎだった。
慎重に慎重を重ねて歩いていたから随分と遅くなってしまった。
休憩もなしに歩いていたが、何一つ文句を言うことなく追従してくれたことは有難かった。
「お昼食べたらアーロの手伝うよ」
「感謝する」
「今更だよー」
受付嬢に討伐したことと、謎のモンスターに出くわしたことを説明すると、今後ももしかしたら出てくるかもしれないということで、緊急用にと記録書に書いていた。
報告忘れはないかどうかヘイリーと確認し、報酬を半分にし、受け取った。
ギルド内にある酒場で、冷えた体を暖める為にスープを食べることにした。
相変わらず、私は金が少ないせいで、これくらいしか食べられないのだが。
「それだけ?」
「こいつの弾で随分と持っていかれるからな」
「じゃあ、これ食べなよ、助けてくれたお礼」
何の肉かは分からんが、野菜と一緒に盛り付けられている。匂いは嗅いだことのないものだ。
ワサビの様な匂いでもなければ、昨晩に食べた肉のワインの様な匂いもしない。
酸っぱそうでもない。
「すごく考え込んでいるみたいだけど、ただの豚肉だよ」
「これが、豚……。で、何味だ?」
「何味って、塩?」
焼いて、塩を付けただけなのか。野菜には何も味はなかった。
いや、いかんな。いつのまにか食事に文句をいうようになってしまっている。
食べられるだけでも有り難いと思わなければ。
「人探しだけど、アーロって最初、裏道に行こうとしてたよね」
「ああ」
「そこと酒場を重点的に探そうか」
十分に腹を満たすことが出来た私たちは、ヘイリーと初めて会った場所へと向かうことになった。
門を潜れば、一瞬で別世界に行ったかのように街の雰囲気が変わる。
不思議なものだな。分厚い壁1つでここまで雰囲気が変化するのは。
「ちなみにさ。なんで私が嘘っていうか、騙しているって思ったの?」
「それだよ」
「へ?」
気になっていたのか、また私の方を向きながら後ろ向きで歩いている。
そして、案の定誰にもぶつかっていない。
何のことか分かっていないヘイリーは、呆然とした顔をしている
「私に説明しながら歩いている時、無意識か意識していたのかはわからんが、街の人に当たらないようにしてただろ。今もだが」
「もしかしてそれで?」
「ああ」
そういうと考えながら体の向きを変え、隣に来るとぶつぶつと何かを言い始めた。
小さすぎて何を言っているのかは分からないが、先程のことを言っているのだろうか?
「アーロ。この昇級試験終わったら、一気にブロンズからミスリルに上げない?」
「いや、それはしない。というより、君の一存で出来ることではないだろう?」
「なんとか言って上げれば……」
「私はそうやって上に行くのなら、地道にしていく方がいい。一気に上がれば、周りから妬みを貰うこともある。それだけは避けたい」
「そっかー」
私一人だけならまだしも、アレシアにも迷惑がかかる。
それに、クラスを上げて、もし彼女が同行できない依頼だったら?
仲間としてパーティーを組んでいるというのに、仲間外れにして1人だけ良い思いなんてしたら、彼女が可哀想だ。
それじゃ、リカロたちの行動となんら変わらない。
それが嫌で自ら辞めるといったのに、自分がしては意味がない。
「でも、報告はするからね」
「それが君の役目だからな」
会話していると、酒場に着いた。
初日は何も情報は得られなかったが、今日こそは。




