第四十話 冬将軍
そういえば、手伝うと言ったが絶対などと言われた覚えがない。
もしかして、この依頼を手伝わせておいてとんずらする気だったのではないかと、今更思ってしまった。念のために確認しておいた方がいい。
後で言ってないと言われても困るしな。
ポケットの中の録音機を起動しておこう。
「よし、終わったし帰るか」
「ヘイリー。私の人探しを手伝うといったが、絶対か?」
「あー……うん」
「……逃げる気だったな?」
口ごもるということは最初からだまそうとしていたのか。
念のためと雪山から降りる前に確認しておいて良かった。
どうやって言わせるか。拷問はダメだな。脅迫して言わせるか?
いや無理だな。ギルドに報告されたらたまったものではない。
普通に聞くか。
「何故騙そうとした?」
「騙そうだなんて! これっぽっちも思ってないよ!」
「どうだか」
手を横に振りながら否定しているが、信じられん。
その場しのぎの動きをしているようにか見えないのだ。
騙しではないとしても、何のために嘘をついたのか。
それを解明しなければ。
「えっと」
「嘘をつかず、答えてくれ」
どんどん風が強くなっていく。雪も先程以上に降っている。
このまま言うまで待つのもいいが、どちらかが凍え死ぬ可能性もある。
変なところで競うものではないが、耐久戦だな。
「ここ、離れよう。あたし、寒くなってきた」
「いや。言うまで離れる気はない。どちらかが死ぬなんてことがあってもな」
「わ、わかった。言うから」
「先程の件がある。確証が持てん」
信じることは大事だが、信じすぎるのもダメだ。
信じすぎた結果、大変な目に遭うのは自分や周りのものなのだから。
「ちゃんと言うよ! 言うから早く降りよう」
「絶対だな?」
「ぜったい!」
体を腕で包み込み、震えている。これ以上はお互いが無理だな。
それに、その場から動けなさそうだ。
私がここまで追い込んだのだ。その責任を取らなければ。
「背中に乗れるか?」
「むり……」
厚い布をヘイリーの体に巻き、抱えるとしよう。
あいにく後ろは埋まってしまっているのでね。リュックで。
お姫様抱っこをすると、下ろしてと言って腕の中で暴れ始めたが、いざ下ろそうとすると服を強く掴んで拒んだ。
いったいどっちなんだ。
それとも、女性はいくつになっても嬉しいものなのだろうか?
そういえばハイエルフの彼女も、片腕で抱えている時いつもニコニコと笑っていたな。
「もうすぐで降りれるぞ」
「ねむ……」
「きついだろうが、起きていてくれ。後方確認をしてもらいたい」
いくら常に周りに注意を払っているとはいっても、限界がある。
この雪山全体を把握なんて、チート級な物は持ち合わせていない。
だから出来る範囲でするしかないのだ。
そして、誰かの手助けがなければ難しいことも。
「さっきより、寒くない?」
「風が吹いているからな。その分だろうと言い切りたいところだが、この状況はおかしすぎる」
先程まではくるぶしぐらいだった雪が、ひざ下まで積もっている。
この状態はマズイ。雪に足を取られて動きが遅くなる。
こんな時に襲われてでもしたら。
「後ろ!」
右から風を切る音が聞こえる。首か頭か。どちらかなのかはわからんが、ぎりぎりだ。
なんとか避けはしたものの、予想以上に体力を持っていかれる。
相手が何なのか。それは分からない。
だが、分かることといえば、ガシャリという重い音が聞こえただけ。
「次来る!」
「投げるぞ」
両手がふさがっていては避けることしかできん。対応しなければ。
とりあえず少し離れたとことへ投げる。傷はつかんはずだ。
短い悲鳴が聞こえた気がしたが、気にしていられん。
一瞬の気のゆるみが命取りになる。
音を聞け。
空気を肌で感じろ。
相手の武器はどちらから来る。
視界の端で火花が散る。
ナイフと刀じゃ分が悪い。どう対処するか。
「うおっ」
ナイフで逸らしたはいいものの、なんだあの斜め斬り。
こんなもの食らったら致命傷になる。確実にだ。
それに、剣先を下に向ける構え。どこかで見たことが。
そんな悠長に思い出している時間もない。下から勢いよく迫り来る剣筋。
こんなの避ける以外に方法が? 体半分を斜めに傾けるしか……!
途中で軌道を横に変えた? そんなことあり得るのか!
「危ねぇ……」
防弾チョッキを着ていなければ。
いや、着ていたとしても無事であったかどうか。
服とチョッキの一部が切れている。
「その鉄をなんで使わないの!」
「ここがどこだか忘れたのか? 雪山で大きい音を出せば、雪崩が起きる」
荷物が重い。
長いこと雪の中に足を突っ込んでいるから、すでに感覚がない。
この銃でさえ自分の動きを止める枷になっている。仕方ない。
「預かっててくれ」
荷物が無くなったおかげでだいぶましだが、投げ捨てている間にも相手は乱雑に振り回している。
しかし、どこが規範となる動きがあるような気がするのは、気のせいだろうか。
首を狙う一撃には受け止めを。斜め切りには、横逸らしを。真上からには受け流しを。
「なんてこった……」
こいつ隙が無い。
受け流せているからまだいいが、攻撃がほとんど出来ない。
このままではこちらの体力が尽きる。
ここで死ぬわけには行かない。
足が使い物にならないくらいなら、わざと雪崩を起こそう。
この場から流れるという形で逃げられるかもしれんが、奴も流れるかもしれん。
もしかすると私たち2人が死ぬかもしれん。
「目を閉じろ!」
相手の剣筋を逸らしながら腰にあるポーチから閃光弾を真上に投げる。
眩暈、耳鳴りなどが起きるがかまっていられるか。
相手がうろたえている間に逃げるしかない。
「しっかり捕まってろ」
至近距離過ぎたか。耳が聞こえづらい。
投げる前に目を瞑っていたとしても鞄の場所は把握している。
急いで手に取り、動けないヘイリーを抱えて山を下る。
ある程度距離を取ったことに安心していると、地響きが起きた。
雪崩だ。
確か起きた時は身を任せるのがいいと司令が言っていたような。
「ゆ、雪が」
「近づいてきたら言ってくれ」
「もう来てる!」
「口元を軽く塞げ」
衝撃に備えろ。
何が起きても大丈夫なように。
第四十話を読んでくださりありがとうございます。
作者が喜ぶもの。
それは【評価】と【ブックマーク】……あと【感想(小声)】のみ!
もし、
面白かった!
続きが見たい!
という方。広告の下にある【☆☆☆☆☆→★★★★★】で応援していただけたら幸いです!
では次回お会い致しましょう。




