第三十五話 期待
「君たちはどうする?」
「私は、実家に戻ります」
昨日、話を最後まで聞いていた女性は、街に戻った後、体を綺麗にしてから故郷に戻ると言った。冒険者は続けられそうにない、と。
その人に遺品を1つだけ預けた。話を聞くと、仲間のうちの一人が幼馴染だったそうだ。
もう一人の女性は朝になって起きはしたが、会話も食事も出来なかった。
こういう時どうすればいいか私は分からず、アレシアが代わりに答えていた。
修道院はどうですか? と。それに小さく頷いた女性をそこまで送って、別れを告げた。
「おかえりなさい。アーロさん、アレシアさん」
「ただいま帰還した」
「戻りました」
ほっとした顔でいつもの言葉を言った。
それを言ってくれたおかげで今回も無事に戻れたのだなと実感する。
「今回の報告だ。ゴブリンは討伐したが、少し依頼主に会いたい」
「なにか不備が?」
「討伐に行った際、記載していないモンスターと遭遇した。そいつがいたのを知っていてそのまま依頼を出したのか確認したい」
もし、知っていて依頼を出したのなら聞かなくては。実際、犠牲者が出てしまっている。
受付嬢が慌てて席を立ち、裏へと走っていく。
おそらく、修正するための紙を取りに行ったのだろう。
「そのモンスターの名は?」
「カトブレパス」
急いで戻ってきた彼女に少しだけ、深呼吸するように言い聞かせてからそのモンスターの名前を言った。
どこにいたか。どうやって倒したか。それで死傷者はいたのか等々。
「彼らを連れて帰ることは出来なかった。その代わり、遺品を持ち帰った」
「お二人が持っているものですね」
私が言ったことをすらすらと紙に記していく。
森の中に埋葬したことも伝えると、記録書にまた書き始めた。
証拠となるあいつを持ってくればよかったのだが、ここは街の中だ。
目は潰したとしても、口の紐が何かしらで解けることがあるかもしれない。
もし、やつの口の中に毒が残っていたら? それを誰かが知らずに吸い込んで死んでしまったら? 考えただけでも、悍ましい。
緊急の知らせを書き終えた受付嬢に、ゴブリンの討伐依頼が完遂したこともついでに知らせた。
「報告は以上だ」
「はい、ありがとうございます。依頼お疲れさまでした」
依頼主に会えることは出来るのかと聞いたが、ダメだった。仕方ない。
今日は何をしようかと考えていたのだが、アレシアが疲れ切っている。
あんなことがあったのだ。今日くらいは休んでもいいだろう。
彼女に鍛冶屋に行くことを伝えると、一緒に行くと言い出した。
無理はするなとだけ伝えて、向かう。
「最近見かけなかったから死んだと思っていたが、生きてたか。しぶといな」
「おかげさまでな」
「んで、今日も補充だけか?」
「ああ」
いつもよりかは少ない金で補充をした。
そのことに気付いた親父さんが怪しんでいた。いつもより少ないな、と。
昇級するための資金を今貯めていると伝えると、歯を見せて何か企んだような顔で笑った。
「ほう。それはいい話じゃねぇか。そうなりゃ、金もどんどん入ってくるわけだ」
「何を企んでいる?」
「いや、なに。それでお前さんが上にいきゃ、どんどん依頼が殺到するだろうと思ってな」
どういうことだ? と一瞬考えたが、この世界に魔法というものがあることを含めて考えると、親父さんの言わんとしているが分かった。
他の冒険者たちが、今は魔法で対処出来たとしても、抵抗されて戦えなくなることもあるだろう。
それで、魔法も使わない。己の身一つで戦い、この銃が貫通力があるものと世間に知られれば、魔法で対処できないモンスターを狩ってほしいという依頼が来ることも増えるだろうということだ。
「お前さんは大丈夫そうだが、そこのおじょーちゃんは大変だろうな。なんたって怪物並みに強いお前さんについていかなきゃならんわけだ」
「そこは、無理をするつもりはない」
「わかってらぁ」
イングランドで任務に赴いていた私なら、1人で行っていただろう。
どれだけ実力が離れていたとしても。
だが、ここではアレシアがいる。そう無茶はさせられない。
「ほ、ほんとに無理はしないですよね?」
「しない。というよりする必要はないだろう」
「そ、そうですよね」
そこまで酷い奴じゃ……。いや、あれか。一度突き放してしまったことが原因だな。
「補充助かった。またな」
「死んだなんて報告は聞かせるなよ」
「ああ」
弾をそっと入れ、鍛冶屋を出て、ギルドへ向かった。
休みだろうとなんだろうと行くところは変わらない。




